転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

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1章

28.ようやく自己紹介

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 アレク様、改め、アレクと呼び始めてから一週間。
 教室でもアレクに声をかけられるようになった。……と言っても、一言二言だけで、大した会話はしない。
 今日も今日とて、だるんだるんな声と共に、クレイジー先生が教室に入って来た。

「おはようございますー。今日はですねー、いい加減仲良くなってもらいたいのでー」

 先生は、そう言いながら、アレク、俺、そして、遠足のグループが一緒になった三人を見る。
 何となく気まずくて、結局三人とは一度も話せていない。それもこれも、アレクが貴族なせいだ。アレクは悪くないけど、アレクのせい。うん。

「グループ学習にしまーす。来週末には遠足に行くんです。最低限の意思疎通くらい出来ないとー、いくら危険の少ないダンジョンと言えど、大怪我をしますよー」

 行く場所がダンジョンの時点で、危険無し、とはいかないからなぁ。

「えー、とりあえずー、グループごとに集まって下さい。それからー、まぁ、話すもよし、カードも貸すので遊ぶもよし。教室からは出ないで下さーい」

 え、それ、実質自由時間では?
 俺達にとっては地獄時間だが。

「あ、そうだ。それぞれが魔力感知や操作がどれだけ出来るかは確認しておいて下さいー。お互いの実力を知っておくのは、ダンジョンに潜る時の基本ですー」

 あぁ、その時間をなるべく多く取るといいかな。

「それじゃー、教室を出ない、教室の物を壊さない、騒ぎ過ぎない、あたりを守ってくれればー、自由でいいでーす。どうぞー」

 強制仲良しイベント発生。
 お尻が椅子と仲良くし過ぎてちょっと立ち上がれないかな。
 すると、誰かが言った。

「先生ー、机動かしていいですかー?」

「あぁ。机、邪魔ですねー。まとめて動かしますから、立って下さーい」

 強制移動イベント発生。
 クレイジー先生は、相変わらず、さっさと机を浮かせてしまう。しかし、最初はビックリしていた子ども達も慣れたもので、さっさと立ちあがる。『いよっ!』と言いながら、浮いた椅子から飛び降りる子もいて、最近はもはやアトラクション感覚になっている。
 仕方ないので、俺もさっさと立ち、立ったついでに移動する。
 多分、同じことを思ったんじゃないかなぁ。グループメンバーが、アレクのところに集まった。

「……」

「……」

 沈黙。
 顔を見合わせることもせず、ただ目を逸らすだけ。
 そこに、口を開く勇者が現れた。

「えーっと……。ずっとこのままいるわけにもいかないから、自己紹介でもする?名前だけじゃなくて、得意なこととかあれば、それ言う、とか……」

 提案してくれた男子は、『どうかな?』と言いながら、少し不安そうな顔をする。
 ここで無視したら一生どうにもならない。

「いいと思うよ」

 同意一択。
 他のメンバーを見ると、みんな頷いていた。

「よかった。誰からいこうか?言い出しっぺの俺からがいいかな?」

 意義なーし。
 とりあえず話が進みそうでよかった。勇者くんには、感謝しかない。
 反対する人がいないのを確認すると、勇者くんが自己紹介を始めた。

「俺は、ルマ・コルッセ。得意なことは……運動とか、身体を動かすことかな。西区から来てるから、ちょっと家が遠くて大変。……くらいかな」

「え、ルマ君、西区から来てるの?なんで?」

 勇者くん、改め、ルマ君に、思わず質問する。
 俺達が住む、パドラの街は、領主様の屋敷を中心に、大体円形になっていて、東西南北の四区に分けられている。パドラには、西区と東区に一校ずつ初等学校があって、ここは東区の初等学校。西区に住んでるなら、わざわざ東区まで来なくていいのに。

「ルマでいいよ。……特に理由はないかな。なんとなくだよ」

 あ、ミスった。
 わざわざ遠いとこまで来てるんだ。それなりの理由があるのはちょっと考えれば分かったはずなのに。『なんとなく』とか、訳ありって言ってるようなもんだ。……みんなは気付いてないけど。

「ふーん。じゃあ、次は俺ね。俺はロアン・アスター。得意なこと……は思いつかないけど、家が食堂やってるよ。俺も手伝いしてるから、よかったら食べに来て」

 ルマの顔がほんの一瞬曇ったのには、気付かないふりして、自分の自己紹介を始める。……不自然じゃなかったよな?

「食堂?どこどこ?」

 質問してくれたのは、夕焼けみたいな、オレンジがかった赤い髪の女子。

「ここからそんなに遠くないよ。歩いて二十分くらい。〈アスター〉って名前で、店もデカいから、分かりやすいんじゃないかな。時間がある時に案内するよ」

「あ、それなら俺も行きたいな」

 ルマも乗っかってくる。

「ネリーも行く?」

「……ラミちゃんが行くなら」

 赤い髪の子が、ラミ、もう一人の薄い黄緑色の髪の子が、ネリーというらしい。

「……ロアン、僕も連れて行け」

 おや、珍しい。教室では、俺以外が一緒にいると滅多に話しかけてこないのに。
 ……まぁ、この場でだんまりってのもないわな。

「あぁ。今度な」

 俺がアレクにそう答えると、タメ口で話したからか、他の三人が驚いた顔をした。
 ちょうどいい。このままアレクに自己紹介させて、タメ口オーケーって言わせよう。

「ほら、自己紹介、アレクの番だぞ」

 順番とか決まってないけど。
 アレクは、『そうか』と言って自己紹介を始める。

「僕はアレクシオ・パドラ・ファフニース。知っていると思うが、父様はこのファフニース領の領主だ。だが、気にすることはない。アレクと呼ぶことを許そう」

 うーん……頑張った。俺と敬語なしで喋るようになって、敬語を使われないことに少し慣れたのか、最初から呼び捨てでいい、と言えたのは、多分進歩だ。
 だがなぁ。

「えっと……」

「いいのかな……」

 普通、こうなるし、上から目線の物言いが、さらに拍車をかけている。
 しょうがない。フォローしてやろう。
 ……俺、何で貴族様の世話焼いてんの?関わらないんじゃなかったの?

「大丈夫。先生も、入学してすぐの時に『特別扱いしなくていい』って言ってたし、本人もいいって言ってるんだ。敬語もなしでいいんだろ?」

 俺がアレクに聞くと、

「あぁ。構わないぞ」

 と返ってきた。
 こいつ、いつもの調子が戻ってきたな。自己紹介前まで、何を話していいか分からないって感じだったのに。
 そういうとこあるんだよな。口を開けば偉そうなくせに、普段は大人しいというか、遠慮してるというか……。

「……そういうことなら、遠慮なく。後から撤回したって聞かないからね」

 こちらは遠慮しないらしい。

「あたしはラミ・バラネット。あたしもラミでいいわ。勉強の方はあんまりだけど、魔力感知は得意よ。家は隣町。バラネット商会って聞いたことない?」

「ある!うちで使ってる調味料は、バラネット商会から買ってるはずだ」

 全てじゃないが、〈アスター〉で使う調味料のほとんどはそのはずだ。
 隣町のリマルにある、小さな商会だが、客の一人一人に丁寧な対応をするところだ。一度仕入れに付いて行ったときに、従業員の人が優しくしてくれたのを覚えている。

「やっぱり。アスターって名前で、もしかしたらって思ってたの。これからもぜひ、ご贔屓に」

「あははっ。父さんに言っとくよ」

 最後は、優しい黄緑色の髪の……ネリーって言ってたっけ?

「えっと、私は、ネリー・アルミオンです。私も、ネリーで大丈夫。得意なこと……」

 特に思い浮かばないようで、黙ってしまったネリーの代わりに、ラミが言った。

「ネリー、勉強得意じゃない。あたしが小テストなんとかなってるのだって、ネリーのおかげよ?」

「そんな。ラミちゃんの頑張りの成果でしょ?それに、私は運動が苦手だから、お勉強くらい出来ないと……」

 そんな、自信なさげなネリーに声をかけたのは、アレクだった。

「何を言っている。得意不得意があるのは当たり前だ。勉強が出来るなら、自信を持っていいと思うぞ」

「あ、ありがとう」

 偉そうなのが役に立ったな。
 そこまではっきり言われれば、自信持っていいのかも、と思えなくもない。

「これで全員終わったね。改めて、よろしくね、みんな」

「あぁ」

「よろしく」

「よろしくね」

「うん」

 ルマに続いて残りの四人もそれぞれに言った。
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