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1章
6.従業員その2
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仕事をしつつ、やる事がなくなったらとりあえず空いてるテーブルを拭いていると、厨房からフロアに出て来た人がいた。
厨房とフロアを繋ぐ両開きの扉のすぐ側でぼーっとしていた俺は、びっくりして素っ頓狂な声を上げた。
「あひょわ!」
「あらあら、ごめんなさい。こんな所にいると思わなかったわ」
厨房から出て来た人物は、そう言って、俺の方を向いた。
「あ、ハノさんだ!おはようございます」
ハノさんは、ちょっとふくよかな、ふんわりパーマに丸眼鏡がトレードマークの優しい女性だ。父さん達より年上で、たしかお子さんが二人だか、三人だかいるって言ってたな。
俺から見てっていうのはもちろん、父さんと母さんから見ても頼れる先輩なのだ。
「おはよう、ロアンくん。私、今来たところだから、ミィナさんに挨拶しておきたいんだけど、フロアに出てる?」
「でてるよー。たぶんあっち」
俺はそう言って最初に来たおじいさんのいる方を指差した。
ハノさんは『ありがとう』と言って、俺が指差した方へ母さんを探しに行った。
母さんも父さんも、出勤したら挨拶して、なんて言ってない。特に母さんは、これっぽっちも気にしない。そう言ったこともあるが、ハノさんは毎回挨拶してる。本当に忙しくてどうしようもない時以外は。
前に、『なんでいつもちゃんとあいさつするの?』ってハノさんに聞いたことがある。もちろん挨拶は大事なことだし、するのは良いことだ。けど、なんか、こだわりって言ったらちょっと大袈裟だけど、そういう……なんていうの?意識して?やるようにしてる感じだったのが気になって。
そしたらハノさん、『子どもがいるからね。普段の行いって、気が抜けちゃった時ほど出るのよ。子どもの前でだらしない事出来ないもの。真似されたら困っちゃうわ』だって。母さんに言ってやってほしい。
「あぁ、そうだ」
母さんへの挨拶が済んだのか、戻って来たハノさんが言った。
「今ムルカ君も一緒に厨房に入っているけど、下処理とかが終わってキリのいいところで接客に出るって言ってたわ。今日は混むだろうからって。ロイ君にも言っておいてくれる?」
「はーい」
「じゃあ、今日も頑張りましょう」
ハノさんはそう言って厨房に入っていった。
ハノさんは、父さんと同じ厨房担当だ。<アスター>開店当初から働いている、ベテランさん。
父さんと母さんは、結婚して一年も経たないうちに、<アスター>を開いたらしい。結婚前から『店を開きたい』とは言ってたらしいが、いくらなんでも早いと思う。
そんでもってそんなに早いのは母さんのせいだと思う。思い立ったら即行動!みたいなところあるし。
で、その時に従業員の募集をしていたら、来てくれたのがハノさんだったらしい。
ウチってそこそこ広いと思うんだけど、従業員三人でどうやって店回してたんだろ?
てか、結婚一年目でこんな広い家(兼、店)買えるのか?別に豪邸ってわけじゃないけど……。この世界では普通なのか?……いや、でも……。
ダメだ。今考えたってわかるわけない。そんなことより仕事しないと、またロイ兄にチョップされる。
……。ん?ロイ兄?なんかあったな。えーっと……。
あ、そうだ。思い出した。
店内を見回し、ロイ兄を探す。
「いたいた。ロイにぃー」
名前を呼びながら歩いて行くと、ロイ兄もこっちに歩いて来てくれた。
「どうしたの?」
「あのね、きょうはこむからね、ムルカにぃもせっきゃくするって。したしょりとかがおわったらだって。ハノさんがいってた」
「あぁ、わかった。お昼前くらいかな」
「たぶん」
知らんけど。
…………
お昼近くになって、予想通り混み始めた。
そしてお腹が空いてきた。
前世の記憶がある分、精神は子どもじゃないが、身体は正真正銘子どもなので、お腹が空くのは早いし、すぐ疲れるし、記憶力があまりよろしくない。……前世でも良くはなかったが。ちょっと身体のせいにしてみたかっただけだって。そんなに怒るなよ。
まぁ、精神の方も『高校生は成人していないから子どもだ』と言われてしまえば反論は出来ない。
「ロアーン!今のうちにお昼食べちゃってー」
お、やった。母さんからお昼の許可が出た。
いつもなら、お腹が空いたら勝手に食べちゃうんだけど、忙しい日は母さんがタイミングを見て、食べるように言ってくる。
母さんの大声のおかげで、俺がお昼ご飯タイムだと、店にいるお客さん全員にバレバレである。別に気にはしないけど、
「お、ロアン。今からお昼か。こっち来ないか?」
「ロアン君、ここ空いてるよー」
「あら、今日も人気者ねぇ。今日はどこで食べるのかしら」
と、なぜかこうなる。
最初は、空いてるテーブルか、カウンターの端っこで食べていた。テーブルが空いてない、忙しい日は、二階の自分の部屋か、ロイ兄と一緒の日はロイ兄の部屋で。
そんな時、いつだったか、常連さんに声をかけられて同じテーブルに着いたことがある。それからちょいちょい誰かが声をかけてくれるようになって、今じゃ人気者ってわけだ。
そんな中、一際大きな声が店に響いた。
厨房とフロアを繋ぐ両開きの扉のすぐ側でぼーっとしていた俺は、びっくりして素っ頓狂な声を上げた。
「あひょわ!」
「あらあら、ごめんなさい。こんな所にいると思わなかったわ」
厨房から出て来た人物は、そう言って、俺の方を向いた。
「あ、ハノさんだ!おはようございます」
ハノさんは、ちょっとふくよかな、ふんわりパーマに丸眼鏡がトレードマークの優しい女性だ。父さん達より年上で、たしかお子さんが二人だか、三人だかいるって言ってたな。
俺から見てっていうのはもちろん、父さんと母さんから見ても頼れる先輩なのだ。
「おはよう、ロアンくん。私、今来たところだから、ミィナさんに挨拶しておきたいんだけど、フロアに出てる?」
「でてるよー。たぶんあっち」
俺はそう言って最初に来たおじいさんのいる方を指差した。
ハノさんは『ありがとう』と言って、俺が指差した方へ母さんを探しに行った。
母さんも父さんも、出勤したら挨拶して、なんて言ってない。特に母さんは、これっぽっちも気にしない。そう言ったこともあるが、ハノさんは毎回挨拶してる。本当に忙しくてどうしようもない時以外は。
前に、『なんでいつもちゃんとあいさつするの?』ってハノさんに聞いたことがある。もちろん挨拶は大事なことだし、するのは良いことだ。けど、なんか、こだわりって言ったらちょっと大袈裟だけど、そういう……なんていうの?意識して?やるようにしてる感じだったのが気になって。
そしたらハノさん、『子どもがいるからね。普段の行いって、気が抜けちゃった時ほど出るのよ。子どもの前でだらしない事出来ないもの。真似されたら困っちゃうわ』だって。母さんに言ってやってほしい。
「あぁ、そうだ」
母さんへの挨拶が済んだのか、戻って来たハノさんが言った。
「今ムルカ君も一緒に厨房に入っているけど、下処理とかが終わってキリのいいところで接客に出るって言ってたわ。今日は混むだろうからって。ロイ君にも言っておいてくれる?」
「はーい」
「じゃあ、今日も頑張りましょう」
ハノさんはそう言って厨房に入っていった。
ハノさんは、父さんと同じ厨房担当だ。<アスター>開店当初から働いている、ベテランさん。
父さんと母さんは、結婚して一年も経たないうちに、<アスター>を開いたらしい。結婚前から『店を開きたい』とは言ってたらしいが、いくらなんでも早いと思う。
そんでもってそんなに早いのは母さんのせいだと思う。思い立ったら即行動!みたいなところあるし。
で、その時に従業員の募集をしていたら、来てくれたのがハノさんだったらしい。
ウチってそこそこ広いと思うんだけど、従業員三人でどうやって店回してたんだろ?
てか、結婚一年目でこんな広い家(兼、店)買えるのか?別に豪邸ってわけじゃないけど……。この世界では普通なのか?……いや、でも……。
ダメだ。今考えたってわかるわけない。そんなことより仕事しないと、またロイ兄にチョップされる。
……。ん?ロイ兄?なんかあったな。えーっと……。
あ、そうだ。思い出した。
店内を見回し、ロイ兄を探す。
「いたいた。ロイにぃー」
名前を呼びながら歩いて行くと、ロイ兄もこっちに歩いて来てくれた。
「どうしたの?」
「あのね、きょうはこむからね、ムルカにぃもせっきゃくするって。したしょりとかがおわったらだって。ハノさんがいってた」
「あぁ、わかった。お昼前くらいかな」
「たぶん」
知らんけど。
…………
お昼近くになって、予想通り混み始めた。
そしてお腹が空いてきた。
前世の記憶がある分、精神は子どもじゃないが、身体は正真正銘子どもなので、お腹が空くのは早いし、すぐ疲れるし、記憶力があまりよろしくない。……前世でも良くはなかったが。ちょっと身体のせいにしてみたかっただけだって。そんなに怒るなよ。
まぁ、精神の方も『高校生は成人していないから子どもだ』と言われてしまえば反論は出来ない。
「ロアーン!今のうちにお昼食べちゃってー」
お、やった。母さんからお昼の許可が出た。
いつもなら、お腹が空いたら勝手に食べちゃうんだけど、忙しい日は母さんがタイミングを見て、食べるように言ってくる。
母さんの大声のおかげで、俺がお昼ご飯タイムだと、店にいるお客さん全員にバレバレである。別に気にはしないけど、
「お、ロアン。今からお昼か。こっち来ないか?」
「ロアン君、ここ空いてるよー」
「あら、今日も人気者ねぇ。今日はどこで食べるのかしら」
と、なぜかこうなる。
最初は、空いてるテーブルか、カウンターの端っこで食べていた。テーブルが空いてない、忙しい日は、二階の自分の部屋か、ロイ兄と一緒の日はロイ兄の部屋で。
そんな時、いつだったか、常連さんに声をかけられて同じテーブルに着いたことがある。それからちょいちょい誰かが声をかけてくれるようになって、今じゃ人気者ってわけだ。
そんな中、一際大きな声が店に響いた。
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