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23. シャル、暗殺者と対峙する①
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頭が痛い。ガンガンする。
シャルは自分のうめき声に、びっくりして目を覚ました。
なんだか薄暗い、埃っぽい場所のようだ。
屋根裏か倉庫だろうか?
眼鏡は外れてしまっているようで、見えすぎる視力のせいでよけいクラクラする。
暖房が効いてないのか、じんじんと底冷えがする。
状況はよくわからないけれど、仰向けに寝かされているのはわかる。
真上に見える、黄ばんだ天井らしきもの。そこには古代文字ルーンらしきものぎっしりと書き込まれていた。
いったいここはどこ?
そうだ!アルフォンソ様は?
起き上がろうとして、太い鎖で四肢を、痛くない程度にではあるが、しっかりと拘束されているのに気づく。引きちぎろうと両手に力を籠めるが、ジャラジャラと鳴る鎖は、驚くべきことに、千切れそうもない。シャルのバカ力をもってしても、いたずらに埃を舞い上げるだけだ。
どうやら大理石のような硬い台の上に横たえられているようだが、柔らかな敷布のおかげで、石そのものの冷たさはさほど感じない。殴られた~おそらくだが~際の頭の傷は、すでに応急手当がされているようだ。冷たい布の感触がある。
私、どうしたのかしら?
確か、レダ様にアルフォンソ様が大けがをしたと言われて、薬なんかを集めて部屋を出て、それから・・・たぶん、誰かに後ろから殴られたのだ。
まさか、拉致されたってこと、レダ様に?
少しでも鎖を緩めようと再び力を籠めてみる。だめだ。びくともしない。
「暴れても無駄です。ベルウエザー嬢。その鎖はあなたを捕えておくために特別に作らせたものですから」
視界に映った声の主に、シャルは目を大きく見開いた。
「あなたのことは、多少、調べさせていただきましたので」
「レダ様、これは一体?」
「ご気分はいかがですか?癒しの術で治療を試みたのですが、術が効かなくて・・・。よもやこれほどの魔法耐性をお持ちの方が実際にいるとは。本当にすみません」
聖女レダは、申し訳なさそうに謝った。
「私としては、おけがをさせるつもりは、毛頭なかったのです。ただ、『黒の皇子』をここに単身おびき出すには、ベルウエザー嬢、あなたがどうしても必要だった。それで、一計を案じました。ご不自由なのは重々承知しておりますが、今しばらく、事が終わるまで、ご辛抱くださいませ」
どういう意味か詰問しようと口を開け、乾いた冷たい、埃っぽい空気にくしゃみが出た。
「大丈夫ですか?お寒いなら、薬湯でもお持ちしましょうか?」
女が心配そうにのぞき込んでくる。
「アルフォンソ様に何をするつもり?」
なんとか絞り出した声は、情けないほどかすれていた。
「そこの棚にある液体を器に入れて、お嬢様にお持ちしなさい」
視界の外にいる誰かに向かって、レダがやや声を大きくして命じた。
部屋の奥で誰かが動く気配がした。
じっと見つめるうちに、現れた見知った顔に、シャルは愕然とした。
「あなたは・・・!」
それは、黒騎士団の若き術師ケインだった。
勉強熱心でいつも朗らかな術師は、今は全くの無表情。湯気の立つカップを手に近づいてくるその姿には、生気そのものが感じられない。
彼は、カップを横たわるシャルの口元に近づけた。そして、そのまま、動きを停止してしまう。
「ベルウエザー嬢、失礼しますね」
ケインの手からカップを奪うと、レダはシャルの頭を少し持ち上げて、やけどをしないように気を付けながら、その甘ったるい飲み物をゆっくりと飲ませてくれた。
最初の一口で毒はなさそうだと判断して~彼女は味覚も人より優れているのだ~それを飲み干す。
レダの言葉は本当だったようだ。冷え切っていた身体にたちまち血が巡りだすのを感じた。
「ありがとう」
礼を言っておくことにする。
こういう羽目になったのは、この女のせいだと思うと、その必要はない気がしたが。
レダは、ちょっと驚いたように一呼吸おいて、どういたしまして、と呟いた。それから、なおも同じ姿勢で突っ立っているケインを見て、顔をしかめた。
「いちいち指示が必要なのが、傀儡の術の欠点だわね」
傀儡?傀儡の術って・・・本で読んだことがある。確か、人心に直接作用する邪法。他人の記憶や意志を操作したり、他人を意のままに操ったりすることができる術だったと思う。
「ケイン」
名前を呼ばれて、ケインがレダの方に顔を向けた。その空虚な瞳を見据えながら、レダがゆっくり、はっきりとした口調で語りかける。
「ケイン、命令です。外からドアを開けようとする者の、両手足を、火爆の術で吹き飛ばしなさい。それでは、すぐに部屋から出て、ドアの前で待機しなさい」
返事をすることもなく、ケインが背を向けた。ギクシャクと遠ざかっていくその後姿を、シャルは横たわったまま、見送った。
「まあ、誰かがここに来るとは思えませんが」
独り言のように、レダが呟くのが聞こえた。
「私をどうするつもりです?ケイン様みたいに、傀儡にするつもり?」
シャルはキッとして、レダを見上げた。
「嘘だったのね。アルフォンソ様が大けがをしたなんて。あなたが本棟に火を?すべてあなたの仕業だったんですね?」
舞踏会での事件も、ひょっとすると、王都の魔物の襲撃も?
「ご令嬢には、いえ、この国の多くの方々には、本当に申し訳なく思っております。心よりお詫び申し上げます。これもすべて大儀のため。御方から承った役目を果たすため。この世界を救うためにやむなく行ったことなのです」
そう言うと、レダは心底申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
シャルは自分のうめき声に、びっくりして目を覚ました。
なんだか薄暗い、埃っぽい場所のようだ。
屋根裏か倉庫だろうか?
眼鏡は外れてしまっているようで、見えすぎる視力のせいでよけいクラクラする。
暖房が効いてないのか、じんじんと底冷えがする。
状況はよくわからないけれど、仰向けに寝かされているのはわかる。
真上に見える、黄ばんだ天井らしきもの。そこには古代文字ルーンらしきものぎっしりと書き込まれていた。
いったいここはどこ?
そうだ!アルフォンソ様は?
起き上がろうとして、太い鎖で四肢を、痛くない程度にではあるが、しっかりと拘束されているのに気づく。引きちぎろうと両手に力を籠めるが、ジャラジャラと鳴る鎖は、驚くべきことに、千切れそうもない。シャルのバカ力をもってしても、いたずらに埃を舞い上げるだけだ。
どうやら大理石のような硬い台の上に横たえられているようだが、柔らかな敷布のおかげで、石そのものの冷たさはさほど感じない。殴られた~おそらくだが~際の頭の傷は、すでに応急手当がされているようだ。冷たい布の感触がある。
私、どうしたのかしら?
確か、レダ様にアルフォンソ様が大けがをしたと言われて、薬なんかを集めて部屋を出て、それから・・・たぶん、誰かに後ろから殴られたのだ。
まさか、拉致されたってこと、レダ様に?
少しでも鎖を緩めようと再び力を籠めてみる。だめだ。びくともしない。
「暴れても無駄です。ベルウエザー嬢。その鎖はあなたを捕えておくために特別に作らせたものですから」
視界に映った声の主に、シャルは目を大きく見開いた。
「あなたのことは、多少、調べさせていただきましたので」
「レダ様、これは一体?」
「ご気分はいかがですか?癒しの術で治療を試みたのですが、術が効かなくて・・・。よもやこれほどの魔法耐性をお持ちの方が実際にいるとは。本当にすみません」
聖女レダは、申し訳なさそうに謝った。
「私としては、おけがをさせるつもりは、毛頭なかったのです。ただ、『黒の皇子』をここに単身おびき出すには、ベルウエザー嬢、あなたがどうしても必要だった。それで、一計を案じました。ご不自由なのは重々承知しておりますが、今しばらく、事が終わるまで、ご辛抱くださいませ」
どういう意味か詰問しようと口を開け、乾いた冷たい、埃っぽい空気にくしゃみが出た。
「大丈夫ですか?お寒いなら、薬湯でもお持ちしましょうか?」
女が心配そうにのぞき込んでくる。
「アルフォンソ様に何をするつもり?」
なんとか絞り出した声は、情けないほどかすれていた。
「そこの棚にある液体を器に入れて、お嬢様にお持ちしなさい」
視界の外にいる誰かに向かって、レダがやや声を大きくして命じた。
部屋の奥で誰かが動く気配がした。
じっと見つめるうちに、現れた見知った顔に、シャルは愕然とした。
「あなたは・・・!」
それは、黒騎士団の若き術師ケインだった。
勉強熱心でいつも朗らかな術師は、今は全くの無表情。湯気の立つカップを手に近づいてくるその姿には、生気そのものが感じられない。
彼は、カップを横たわるシャルの口元に近づけた。そして、そのまま、動きを停止してしまう。
「ベルウエザー嬢、失礼しますね」
ケインの手からカップを奪うと、レダはシャルの頭を少し持ち上げて、やけどをしないように気を付けながら、その甘ったるい飲み物をゆっくりと飲ませてくれた。
最初の一口で毒はなさそうだと判断して~彼女は味覚も人より優れているのだ~それを飲み干す。
レダの言葉は本当だったようだ。冷え切っていた身体にたちまち血が巡りだすのを感じた。
「ありがとう」
礼を言っておくことにする。
こういう羽目になったのは、この女のせいだと思うと、その必要はない気がしたが。
レダは、ちょっと驚いたように一呼吸おいて、どういたしまして、と呟いた。それから、なおも同じ姿勢で突っ立っているケインを見て、顔をしかめた。
「いちいち指示が必要なのが、傀儡の術の欠点だわね」
傀儡?傀儡の術って・・・本で読んだことがある。確か、人心に直接作用する邪法。他人の記憶や意志を操作したり、他人を意のままに操ったりすることができる術だったと思う。
「ケイン」
名前を呼ばれて、ケインがレダの方に顔を向けた。その空虚な瞳を見据えながら、レダがゆっくり、はっきりとした口調で語りかける。
「ケイン、命令です。外からドアを開けようとする者の、両手足を、火爆の術で吹き飛ばしなさい。それでは、すぐに部屋から出て、ドアの前で待機しなさい」
返事をすることもなく、ケインが背を向けた。ギクシャクと遠ざかっていくその後姿を、シャルは横たわったまま、見送った。
「まあ、誰かがここに来るとは思えませんが」
独り言のように、レダが呟くのが聞こえた。
「私をどうするつもりです?ケイン様みたいに、傀儡にするつもり?」
シャルはキッとして、レダを見上げた。
「嘘だったのね。アルフォンソ様が大けがをしたなんて。あなたが本棟に火を?すべてあなたの仕業だったんですね?」
舞踏会での事件も、ひょっとすると、王都の魔物の襲撃も?
「ご令嬢には、いえ、この国の多くの方々には、本当に申し訳なく思っております。心よりお詫び申し上げます。これもすべて大儀のため。御方から承った役目を果たすため。この世界を救うためにやむなく行ったことなのです」
そう言うと、レダは心底申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
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