10 / 61
10. シャル、皇子と会話する
しおりを挟む
気まずい。正直言って、思っていた以上に気まずい。どうして、辺境の貴族令嬢が、こんなことに?
異国の皇子様と二人きり、馬車で向かい合って座る羽目になるなんて。
シャルは少々訳アリのため、極端に社交経験が少ない。また、辺境のベルウエザー領のそばには、若い令嬢や令息がいる領地が皆無なので、社交の場そのものが少ない。そもそも、ベルウエザー一族は、一応貴族の称号は持っているものの、その内実は貴族というより、むしろ騎士に近い。社交術などに重きを置く者はいないのである。
領主の娘として、貴族に必要な礼節を学びはしたが、実践は今回が初めて。貴族のたしなみも貴族らしい会話も、とても無理だ。
この状況で、何を、どう話せばいいのだろう?他の令嬢ならどんなふうに話を切り出す?それ以前に、身分の低い者から話しかけるのは、無礼千万だって習わなかったっけ?話しかけられるまで、待つべきよね?
でも、この沈黙。この静けさ。いたたまれない。
馬車に乗り込んでからずっと、一言もしゃべらないアルフォンソ皇子の方に、ちらりと視線を投げる。
やはり凝視されている。
そう、この皇子様は、沈黙したまま、ただひたすらシャルの顔を眺めているのだ。
決して女性的ではないが、やや中世的な彫の深い顔立ち。男にしては長めのまつ毛に縁どられた漆黒の瞳。首の後ろで緩くまとめられたやや長めの、俗に言うカラスの濡れ羽色の黒髪。男性にしてはやや色白に思えるが、その体つきは細身ながら決して軟弱な感じはしない。
確かに眼福ではある。
その姿は、まるで芸術の女神の手による美しい彫刻のようだ。
皇子は、一体何を考えているのか。無表情に、そのくせ、シャルから視線を外そうとはしない。
ただでさえ、シャルは、家族以外の男性への免疫がない。
絶世の美男の醸し出す無言のプレッシャーに、喉はカラカラ、首肩はコリコリ状態だ。
15分が過ぎたころには、シャルは沈黙に耐えられなくなっていた。
相手が話し出すのを待っていたら、せっかくの機会なのに、感謝の言葉さえ、伝えられないかもしれないし。
「あの、アルフォンソ・エイゼル・ゾーン・ローザニアン皇国第二皇子殿下」
思い切って、シャルの方から口火を切ってみる。チャスティス王に前もって確認していた正式名を思い出しつつ。
「アルフォンソで、かまわない。いや、そう呼んでほしい」
皇子は別に気を悪くした様子もなく、応じてくれた。気のせいだろうか?なんだか、嬉しそうに・・・?
それにしても、素敵なお声。いや、そうじゃなくて。
「そんな。皇子殿下をお名前で呼ぶなんて。畏れ多くてできません」
「気にしなくていい。その代わり、リーシャルーダ嬢と呼んでもかまわないだろうか?」
「私のことは、シャルとお呼びください、殿下」
「では、シャル嬢。殿下と呼ぶのは、やめてほしい。できれば、私のことは、アルと」
さらに難度が上がった課題に、そちらがよくても、こちらが困る!という言葉を飲み込んで、何とか貴族令嬢めいた笑みを浮かべてみる。
「それでは、アルフォンソ様と。アルフォンソ様、先ほどは、父が大変失礼致しました」
「いや。よくあることだ。剣を抜かれるのは、慣れている」
エスコートの許可をとるのに、父親と剣を交えるのは、皇国では普通のことなのだろうか?もしかして?
皇子は、至極まじめな口調だし、別にジョークというわけでもなさそうだけど。
気を取り直して、シャルは本題に触れることにした。
「先日は、危ういところを助けていただき、ありがとうございました」
皇子が黙したまま、問いかけるような表情を浮かべたが、シャルは気にせず続けた。
「否定されても無駄です。私に認識阻害の術は効きませんので。医師や病室の手配までしてくださったと伺ってます」
「当たり前のことをしただけだ。間に合って本当に良かった。あなたに、治癒の術が効いてくれればよかったのだが」
形のよい眉がかすかに顰められる。完璧すぎる美貌がやや人間味を帯びたように見えた。
「あの魔物を一撃で倒した、貴方の強さには感銘を受けた。さすが、あのご両親のご息女。我が騎士団にも貴方ほどの手練れは、多くない」
「私、力だけは人並み以上なんです。あの・・・変だとは思われないのですか、いろいろと?」
仮にも貴族令嬢が魔物と戦って、倒してしまったことを。
「いや。別に。むしろ、称えられるべき素晴らしい能力、個性だと思うが」
個性!
自分の人間離れした力をそう表現されたのは、生まれて初めてかもしれない。
「騎士の方だったら、確かにそうでしょう。でも、貴族の娘としては、いささか、非常識なのではないかと。女性としてあまり好ましい個性とは思えません」
非常識どころでないのは、シャルだってわかっている。シャルの力は、どう見ても異常だ。いくら能天気ぎみなシャルでも、お年頃の女性としては、大いに悩むところであるのだ。
今回、そのおかげで助かったことは、否定できないが。
「男であれ、女であれ、関係ないと、私は思うが。大切なのは、貴方がその力で守りたい者を守れるということだ。いくら人から称えられる力であっても、肝心な時に役に立たなければ・・・そんな力は意味がない」
シャルが漏らした本音に、皇子は真面目に応えてくれた。
最期の方で、不自然な間があった気がするが、個人的に、何か思うことがあるのだろうか?
「見事に弟御たちを救った、あれほどの力、ご両親もさぞ誇りに思われているだろう」
それはどうだろう?とシャルは心の中で首を傾げた。
迷惑はいろいろかけてきた自覚はあるけど。とにかく・・・
「できれば、その件はくれぐれもご内密に。お願いします」
「側近にも、そう言われた。ブーマ側とも話し合った結果、あの化け物を倒したのは、騎士の一人だということにすると」
よかった。常識ある側近がいるようで。
皇子様からのお褒めの言葉はそれなりに嬉しいが、シャルとしては、魔物を突き殺した貴族令嬢なんて通り名は、ごめんこうむりたい。ただでさえ多くはなさそうな婚姻先候補がさらに少なくなること間違いなしだ。
「それで、あの、アルフォンソ様、私の見間違いかもしれないんですが、っていうか、夢かも、とも思うんですが、あの時・・・」
あの、失神する直前の出来事、真だったのかも定かでない微かな記憶。
ずっと気になっていたことを思い切って切り出そうとしたシャルを、皇子がやや早口で遮った。
「あの時は本当に心配した。すぐに意識を無くされてしまって」
「すみません。気絶したの初体験だったんですが」
そうよね。私、ショックで気絶したわけだし。きっとあれは夢だったんだわ。とっても妙な夢だけど。
常識的にもありえない。目の前の、この皇子様が、ぽろぽろ涙を流すなんて。
一人、納得して、シャルは眼鏡越しに改めて皇子を見つめる。
うん。本当に噂は嘘じゃなかった。いや噂以上に、まさに皇子様って感じだわ。剣の腕だって父上に勝つくらいだし。
「力の及ぶ限り手当てはしたつもりだが。どこか痛むところはないか?」
皇子が、ぽつりと訊ねた。
「殿下の、アルフォンソ様のおかげで、もうほとんど」
ほらね、とばかりに、シャルは両手を上下に動かしてみせた。
「お見舞いに下さったお菓子も美味しくいただきました。本当にありがとうございました」
「口に合っただろうか?」
突然、口調に熱がこもったかと思うと、アルフォンソはシャルの方へ身を乗り出した。
シャルは急に小さくなった距離感に、思わずのけぞりながら、コクコク頷いた。
「とても、とても、美味しゅうございました」
「それはよかった」
アルフォンソが微笑んだ。
そう。微笑んだのだ。皇国の笑わない『黒の皇子』が。恥ずかし気に、ほんのりと頬を染めて。
驚愕のあまり固まっているシャルの前で、皇子は驚くほど饒舌に語りだした。
「実は不安だったのだ。急遽、あり合わせの材料で作ったので。木の実やフルーツの種類は限られていたから、いくつかは代用品を使った。リキュール類は豊富にあったので、皇都で流行りの甘みを控えた甘味にも、挑戦してみた。最上級のチョコレートも揃えてあったので、チョコムースも作ってみたが」
ん?これって、あのお菓子は、全部、皇子様のお手製だったってこと?
「ここ特有の素材で、初めて試したレシピもあったのだが、上手くできていただろうか?」
照れながら真剣に問いかけてくる姿は、美貌の皇子というより・・・
手作りプレゼントの出来を気にする女の子みたい。
なんか、可愛いかも。
皇国1,2と言われる剣士でもある人が、お菓子作りが得意なんて。
シャルは緊張が解けてくるのを感じた。
この人、噂と違って、案外、優しい人なのかもしれない。お見舞いに手作りのお菓子とか考える時点で、騎士らしくはない気がする。
いくら何でも、皇国ではお菓子作りが騎士の嗜みなんてこと、ないよね?
「どれも素晴らしいお味でした。お店で買われた高級菓子だとばかり」
アルフォンソは、ほっと息を吐いた。
「気にいってもらえて、作ったかいがあった。これで夢が一つ叶った」
夢?女性に手作り菓子を贈るのが?
「殿下は、いえ、アルフォンソ様は、お菓子作りがお好きでらっしゃるのですね」
「料理全般は得意だ。昔、専門的に習ったことがある」
アルフォンソが、無表情ながらも、心なし得意そうな口調で答えた。
「宮廷の料理人にも一目置かれている。立つ瀬がないから止めてくれと頼まれたので、残念ながら、騎士団宿舎ぐらいでしか、腕は振るえないんだが」
すごい、と言うか、料理人さん、大変そうって言うか。
ちなみに、シャルもその母マリーナも料理の才能はゼロ。料理はすべて料理長まかせだ。
父上は、母上が作ったものなら、たとえ生焼けのローストチキンでも喜んで食べるでしょうけど。
「行く先々で、その地の名物を食べ歩き、レシピを手に入れ、料理の腕を日々磨いている」
「まあ、食べ歩きですか。素敵なご趣味。私も食べるのは大好きですわ。よろしければ、我が国のおすすめ料理をご紹介します。お望みでしたら、詳しいレシピは、後ほど、侍女が教えてくれると思います」
思いがけない共通の趣味に、シャルは愉快な気持ちになった。
人は見かけによらないって、本当だ
世の令嬢が夢にも思わぬ話題で、この後、宮殿に着くまで、皇子とシャルはかなり盛り上がったのだった。
異国の皇子様と二人きり、馬車で向かい合って座る羽目になるなんて。
シャルは少々訳アリのため、極端に社交経験が少ない。また、辺境のベルウエザー領のそばには、若い令嬢や令息がいる領地が皆無なので、社交の場そのものが少ない。そもそも、ベルウエザー一族は、一応貴族の称号は持っているものの、その内実は貴族というより、むしろ騎士に近い。社交術などに重きを置く者はいないのである。
領主の娘として、貴族に必要な礼節を学びはしたが、実践は今回が初めて。貴族のたしなみも貴族らしい会話も、とても無理だ。
この状況で、何を、どう話せばいいのだろう?他の令嬢ならどんなふうに話を切り出す?それ以前に、身分の低い者から話しかけるのは、無礼千万だって習わなかったっけ?話しかけられるまで、待つべきよね?
でも、この沈黙。この静けさ。いたたまれない。
馬車に乗り込んでからずっと、一言もしゃべらないアルフォンソ皇子の方に、ちらりと視線を投げる。
やはり凝視されている。
そう、この皇子様は、沈黙したまま、ただひたすらシャルの顔を眺めているのだ。
決して女性的ではないが、やや中世的な彫の深い顔立ち。男にしては長めのまつ毛に縁どられた漆黒の瞳。首の後ろで緩くまとめられたやや長めの、俗に言うカラスの濡れ羽色の黒髪。男性にしてはやや色白に思えるが、その体つきは細身ながら決して軟弱な感じはしない。
確かに眼福ではある。
その姿は、まるで芸術の女神の手による美しい彫刻のようだ。
皇子は、一体何を考えているのか。無表情に、そのくせ、シャルから視線を外そうとはしない。
ただでさえ、シャルは、家族以外の男性への免疫がない。
絶世の美男の醸し出す無言のプレッシャーに、喉はカラカラ、首肩はコリコリ状態だ。
15分が過ぎたころには、シャルは沈黙に耐えられなくなっていた。
相手が話し出すのを待っていたら、せっかくの機会なのに、感謝の言葉さえ、伝えられないかもしれないし。
「あの、アルフォンソ・エイゼル・ゾーン・ローザニアン皇国第二皇子殿下」
思い切って、シャルの方から口火を切ってみる。チャスティス王に前もって確認していた正式名を思い出しつつ。
「アルフォンソで、かまわない。いや、そう呼んでほしい」
皇子は別に気を悪くした様子もなく、応じてくれた。気のせいだろうか?なんだか、嬉しそうに・・・?
それにしても、素敵なお声。いや、そうじゃなくて。
「そんな。皇子殿下をお名前で呼ぶなんて。畏れ多くてできません」
「気にしなくていい。その代わり、リーシャルーダ嬢と呼んでもかまわないだろうか?」
「私のことは、シャルとお呼びください、殿下」
「では、シャル嬢。殿下と呼ぶのは、やめてほしい。できれば、私のことは、アルと」
さらに難度が上がった課題に、そちらがよくても、こちらが困る!という言葉を飲み込んで、何とか貴族令嬢めいた笑みを浮かべてみる。
「それでは、アルフォンソ様と。アルフォンソ様、先ほどは、父が大変失礼致しました」
「いや。よくあることだ。剣を抜かれるのは、慣れている」
エスコートの許可をとるのに、父親と剣を交えるのは、皇国では普通のことなのだろうか?もしかして?
皇子は、至極まじめな口調だし、別にジョークというわけでもなさそうだけど。
気を取り直して、シャルは本題に触れることにした。
「先日は、危ういところを助けていただき、ありがとうございました」
皇子が黙したまま、問いかけるような表情を浮かべたが、シャルは気にせず続けた。
「否定されても無駄です。私に認識阻害の術は効きませんので。医師や病室の手配までしてくださったと伺ってます」
「当たり前のことをしただけだ。間に合って本当に良かった。あなたに、治癒の術が効いてくれればよかったのだが」
形のよい眉がかすかに顰められる。完璧すぎる美貌がやや人間味を帯びたように見えた。
「あの魔物を一撃で倒した、貴方の強さには感銘を受けた。さすが、あのご両親のご息女。我が騎士団にも貴方ほどの手練れは、多くない」
「私、力だけは人並み以上なんです。あの・・・変だとは思われないのですか、いろいろと?」
仮にも貴族令嬢が魔物と戦って、倒してしまったことを。
「いや。別に。むしろ、称えられるべき素晴らしい能力、個性だと思うが」
個性!
自分の人間離れした力をそう表現されたのは、生まれて初めてかもしれない。
「騎士の方だったら、確かにそうでしょう。でも、貴族の娘としては、いささか、非常識なのではないかと。女性としてあまり好ましい個性とは思えません」
非常識どころでないのは、シャルだってわかっている。シャルの力は、どう見ても異常だ。いくら能天気ぎみなシャルでも、お年頃の女性としては、大いに悩むところであるのだ。
今回、そのおかげで助かったことは、否定できないが。
「男であれ、女であれ、関係ないと、私は思うが。大切なのは、貴方がその力で守りたい者を守れるということだ。いくら人から称えられる力であっても、肝心な時に役に立たなければ・・・そんな力は意味がない」
シャルが漏らした本音に、皇子は真面目に応えてくれた。
最期の方で、不自然な間があった気がするが、個人的に、何か思うことがあるのだろうか?
「見事に弟御たちを救った、あれほどの力、ご両親もさぞ誇りに思われているだろう」
それはどうだろう?とシャルは心の中で首を傾げた。
迷惑はいろいろかけてきた自覚はあるけど。とにかく・・・
「できれば、その件はくれぐれもご内密に。お願いします」
「側近にも、そう言われた。ブーマ側とも話し合った結果、あの化け物を倒したのは、騎士の一人だということにすると」
よかった。常識ある側近がいるようで。
皇子様からのお褒めの言葉はそれなりに嬉しいが、シャルとしては、魔物を突き殺した貴族令嬢なんて通り名は、ごめんこうむりたい。ただでさえ多くはなさそうな婚姻先候補がさらに少なくなること間違いなしだ。
「それで、あの、アルフォンソ様、私の見間違いかもしれないんですが、っていうか、夢かも、とも思うんですが、あの時・・・」
あの、失神する直前の出来事、真だったのかも定かでない微かな記憶。
ずっと気になっていたことを思い切って切り出そうとしたシャルを、皇子がやや早口で遮った。
「あの時は本当に心配した。すぐに意識を無くされてしまって」
「すみません。気絶したの初体験だったんですが」
そうよね。私、ショックで気絶したわけだし。きっとあれは夢だったんだわ。とっても妙な夢だけど。
常識的にもありえない。目の前の、この皇子様が、ぽろぽろ涙を流すなんて。
一人、納得して、シャルは眼鏡越しに改めて皇子を見つめる。
うん。本当に噂は嘘じゃなかった。いや噂以上に、まさに皇子様って感じだわ。剣の腕だって父上に勝つくらいだし。
「力の及ぶ限り手当てはしたつもりだが。どこか痛むところはないか?」
皇子が、ぽつりと訊ねた。
「殿下の、アルフォンソ様のおかげで、もうほとんど」
ほらね、とばかりに、シャルは両手を上下に動かしてみせた。
「お見舞いに下さったお菓子も美味しくいただきました。本当にありがとうございました」
「口に合っただろうか?」
突然、口調に熱がこもったかと思うと、アルフォンソはシャルの方へ身を乗り出した。
シャルは急に小さくなった距離感に、思わずのけぞりながら、コクコク頷いた。
「とても、とても、美味しゅうございました」
「それはよかった」
アルフォンソが微笑んだ。
そう。微笑んだのだ。皇国の笑わない『黒の皇子』が。恥ずかし気に、ほんのりと頬を染めて。
驚愕のあまり固まっているシャルの前で、皇子は驚くほど饒舌に語りだした。
「実は不安だったのだ。急遽、あり合わせの材料で作ったので。木の実やフルーツの種類は限られていたから、いくつかは代用品を使った。リキュール類は豊富にあったので、皇都で流行りの甘みを控えた甘味にも、挑戦してみた。最上級のチョコレートも揃えてあったので、チョコムースも作ってみたが」
ん?これって、あのお菓子は、全部、皇子様のお手製だったってこと?
「ここ特有の素材で、初めて試したレシピもあったのだが、上手くできていただろうか?」
照れながら真剣に問いかけてくる姿は、美貌の皇子というより・・・
手作りプレゼントの出来を気にする女の子みたい。
なんか、可愛いかも。
皇国1,2と言われる剣士でもある人が、お菓子作りが得意なんて。
シャルは緊張が解けてくるのを感じた。
この人、噂と違って、案外、優しい人なのかもしれない。お見舞いに手作りのお菓子とか考える時点で、騎士らしくはない気がする。
いくら何でも、皇国ではお菓子作りが騎士の嗜みなんてこと、ないよね?
「どれも素晴らしいお味でした。お店で買われた高級菓子だとばかり」
アルフォンソは、ほっと息を吐いた。
「気にいってもらえて、作ったかいがあった。これで夢が一つ叶った」
夢?女性に手作り菓子を贈るのが?
「殿下は、いえ、アルフォンソ様は、お菓子作りがお好きでらっしゃるのですね」
「料理全般は得意だ。昔、専門的に習ったことがある」
アルフォンソが、無表情ながらも、心なし得意そうな口調で答えた。
「宮廷の料理人にも一目置かれている。立つ瀬がないから止めてくれと頼まれたので、残念ながら、騎士団宿舎ぐらいでしか、腕は振るえないんだが」
すごい、と言うか、料理人さん、大変そうって言うか。
ちなみに、シャルもその母マリーナも料理の才能はゼロ。料理はすべて料理長まかせだ。
父上は、母上が作ったものなら、たとえ生焼けのローストチキンでも喜んで食べるでしょうけど。
「行く先々で、その地の名物を食べ歩き、レシピを手に入れ、料理の腕を日々磨いている」
「まあ、食べ歩きですか。素敵なご趣味。私も食べるのは大好きですわ。よろしければ、我が国のおすすめ料理をご紹介します。お望みでしたら、詳しいレシピは、後ほど、侍女が教えてくれると思います」
思いがけない共通の趣味に、シャルは愉快な気持ちになった。
人は見かけによらないって、本当だ
世の令嬢が夢にも思わぬ話題で、この後、宮殿に着くまで、皇子とシャルはかなり盛り上がったのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる