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233 推しとスノラリアとの接触
しおりを挟む「マラサッタ帝国、テオドール殿下!レモルト公爵、ギル様!ようこそお越しくださいました!」
係の者に招待状を差し出すと名前を読み上げられ、中庭へようやく入れる。
私は、今日この日から公爵の爵位を頂く。
なので、招待状も公爵になっている。
足を踏み入れた中庭の床は大理石で、こちらも美しく剪定された木や花々が美しく、シャンパンや軽食が用意されており、それぞれが外交を楽しんでいる。
「テオ。レモルトのレモン酒も用意して頂いたんだ」
「ああ、私はこちらを頂こう」
テオとそれぞれ飲み物を手にしつつ、チラリとスノラリアの王太子を見ると、こちらを伺っている。
「…テオ、スノラリアの方々へご挨拶をしたいな」
「ああ、行こう」
テオと私に挨拶をと考えているだろう人々を尻目に、スノラリア御一行様へ近付くと、周りもあちらと話があるのかと諦めて次へと話しかけ始める。
「初めまして。ご挨拶よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
「トーレ王国レモルト公爵で、こちらのテオドール殿下の婚約者である、ギルと申します」
テオの方がもちろん身分は上だけれど、この国では私が公爵になった為、私が挨拶するのが礼儀なのだ。
「初めまして。スノラリア王国王太子、ホイトルだ。こちらは妻のミムニである。そして、その隣が妻の弟であり、外交を務めているジニクル公爵だ」
「初めまして」
スノラリアの王太子は、恰幅の良い大男だった。
短い黒髪と黒い瞳を持ち、顔立ちはキリッとしている。
スノラリアの正装はラッカルと似ていて、白を基調としている。
白に白銀の刺繍が施された、詰襟のジャケットと、揃いの刺繍のスラックス。
そして、雪国を彷彿させる真っ白なファーコートを着用し、足元は黒皮の防寒用のブーツだ。
ここでは暑いだろうが、こんな時は魔術で周りの空調を管理している場合が多い。
隣の男性である王太子妃も揃いの格好をしているが、驚いた。
すんごい美人…!!
白い肌と、黒い瞳に髪は長い銀髪でテオと同じ何だけど、まぁなんて儚げな色気のある美人さんなんでしょうか。
ジェレミー兄様を彷彿させる美しさに、私は心の中でフンスフンスしつつ、笑顔で会釈しておく。
「私とテオドール殿下の婚約パーティーには、ミニム様の弟君であるギノ殿がいらしてくださいましたね。お礼をと思っておりました」
そう、私とテオの婚約パーティーに、ミニムの弟であるスノラリアの公爵が来てたんだ。
主にスノラリアで外交を取り仕切っている、ジニクル公爵だ。
兄であるミニムと同じ銀髪で黒い瞳だが、がっしりとしたこちらも大男で、王宮騎士団に所属してたとか。
「お久ぶりです。お二人ともお元気そうで」
「ありがとうございます」
取り敢えず御約束の様に挨拶を終えると、ここから本題だ。
このジニクル公爵は、婚約パーティーの時に、私にこっそりと接触して来たのだ。
悪い事はされなかったし、テオにも話は共有してるから問題は無いよ?
でも、非常識ではあったね。
それを分かった上で、ジニクル公爵は私に接触して来たのだ。
「…ジニクル公爵より、お話は伺っております」
私がそう切り出すと、ホイトルは顔を一瞬強張らせ、ミニムは少し憂いた表情になった。
ここは祝いの場ですから、どうか笑顔でいてください。
「例のモノはご用意してございます。お帰りの際に、私の従者よりお受け取りください」
「…良いのか?」
「ええ、何も問題はございません」
例のモノ。
それは、レッドドラゴンリーフだ。
帝国にも少しずつ卸し始めたが、スノラリアは遠い雪国。
中々手に入らない。
今回、ジニクル公爵より相談されたのは、レッドドラゴンリーフを魔力拒否症では無いモノに使用出来ないかとの事だった。
多くの薬草などを使用し、グリーンドラゴンリーフも効果が無かったそうで、藁にもすがる思いだと聞いた。
それは、王太子妃ミニムの不妊だった。
モノすっごくデリケートな話だし、本当は勝手に話したら大問題だと思うんだけど、ジニクル公爵は兄を思って行動を起こしたのだ。
ジニクル公爵家を継ぐ予定であったミニムは、ホイトルの強い強い希望により、王家への輿入れとなった。
ミニムもホイトルを憎からず思っていた為の良縁だったのだが、結婚して五年経つ現在もご懐妊の話は聞かない。
その為、王太子妃の勤めを果たせないのなら、側室をとの声が上がってるんだって。
どこの世界も、後継問題は大変なんだよね…。
他の者に子を産ませてとは良く聞くけど、そうなったらミニムの立場が弱くなるし、やはり後継を産んだ家はそれなりに振る舞えるワケでして、スノラリアの貴族の力関係にも影響があるんだよね。
ミニムはその場合は自分は身を引くと言ったそうなのだが、ホイトルはミニム以外を妻にも国母にも不要だと言う姿勢を貫いているんだって。
後継を産まない国母と陰口を叩く貴族もいて、心を痛める兄をどうにか助けたいのだと、色々な失礼を承知の上でジニクル公爵は私に頭を下げてきたのだ。
兄思いの弟に、弱いんだよねぇ…。
「薬の使い道に、後ろめたいと思う事はございません。こちらは、魔力拒否症の方が毎日摂取する量の十分の一程度で効果があるのではと考えております。実は、我が国では魔力拒否症以外の方の治験を行なっておりまして、その中にミニム様と同じ症状の方がいらっしゃいました」
「…!!」
希望を見出した様なミニムの瞳に、グッと来るものがあるが、フンスフンスしている場合じゃない。
「それと、今回お渡しする量は、お一人分ではございません」
私がそう言うと、皆驚いた顔をしている。
ふふふ~。
わざわざ遠い国からお越しになった方々に、すこーしだけなんてありえないでしょう?
それに、バランモス公爵の件もあるし、妹君の件もある。
この機会に、ガッツリしっかりバッチリ、恩を売っときたいのだ。
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