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231 推しと王国の祝い事
しおりを挟む軽やかな音楽が流れ、平民家族関係無く着飾り、王都は華やかな雰囲気に包まれている。
花々が商店の上から下まで飾られたり、どこもかしこも飾りが施されている。
王城へ向かう道は、立派な馬車が列を成し、見事な采配で城へと進んで行く。
それを周りは楽しそうに眺めていた。
「ねぇねぇ、今日は王子様のケッコンシキって言うヤツなんでしょー?だから新しいお洋服なのー?」
「そうよ。とてもおめでたい日なの。だから、そのお洋服はキレイに着て、お行儀良くしていなくちゃダメよ?」
「はぁい」
小さな子供が、母親に手を引かれながら、下ろし立てらしき服で、ぎこちなくだが楽しそうに歩いている。
「ねぇ、リーナイト商会の贈り物屋はご存知?」
「ええ、今回の成婚祝いの記念の品が、数多くあると聞きましたわ。大変賑わっているんですって。気になりますわね」
「アイール伯爵家も記念のお菓子を出しているそうよ。そちらも気になるわ」
花柄や花のモチーフをあしらったドレスの令嬢達が、楽しそうにカフェでお茶をしている。
ジャメル領の花祭りで、すっかり花柄の洋服が浸透した。
「あちらのお嬢様方のお召し物、とても素敵ね。お祝い事に花を添えているわ」
右も左もお祝いムード一色の今日は、我がトーレ王国の王太子、オール殿下と婚約者であるリーカイ様のご成婚の日なのだ。
国内外から貴族、王族などが集まる事もあり、馬車を見るだけでも楽しいと沿道には人が押し寄せている。
騎士達と魔術師がしっかりと規制をし、馬車の道に人は入れない仕様になっている。
「ね、あの馬車の形。私、初めて見たわ」
「ああ、あれは質素だがとても強度のある馬車なんだよ。ラッカルの馬車だね。隣の馬車は、スノラリアの馬車だ。あちらは寒いから、冷気が入らない作りになっているそうだ」
「あら、あの馬車はテオドール殿下のではなくて?ギル様もご一緒ね!」
馬車のカーテンを開け、それぞれが周りへ愛想を振り撒きながら城へ向かう。
「スノラリアからもお客様がいらっしゃってるんだね」
「ふむ。一応調べておいたのだが、スノラリアの王太子であるホイトル殿が、王太子妃と参加されるそうだ。なんでも、王女が参加を申し出たそうなのだが、ホイトル殿が許可を出さなかったそうだ」
「あらら」
テオの話では、テオに長年懸想する王女である妹について、王太子は快く思ってないそうだ。
テオはしっかりお断りしているし、俺と言う婚約者もいる。
王女も嫁ぎ先を決める時期をとっくに過ぎてるのに、婚約者のいる相手に横恋慕しているなんてと、兄として時期王として、叱責しているんだって。
「ホイトル殿は穏やかな方だが、私への事は他国に迷惑を掛ける行為だと認識してくれ、厳しく叱責したそうだ。私と思い合っているのならまだしも、私にはギルがいるからな。正式な婚約の話もあちらには伝えてある為、その仲を邪魔する行為はスイレン神の教えにも背くと激怒したと聞いている」
「スノラリアは今後も安泰だね」
しっかりした人が上に立つのなら、安心だ。
例の王女であるローラは、こちらに乗り込んで何をしたかったのか。
まぁ、テオを諦めきれずに再アプローチだろうとは思うけどね。
「私としても、ギルとの正式な結婚で完全に諦めて貰いたいとは考えているのだが、こちらから動くのもおかしな話だろう?」
「そうだね。こちらとしては、無理に接触せずに良い伴侶と結ばれて幸せですってアピールしておけば良いかも。…スノラリアの王太子にご挨拶って出来るのかな?」
「ああ、もちろん。伺う前に挨拶をしておきたい。叔父上の件もな」
バランモス公爵の件でスノラリアに向かう前に挨拶をしたいと言うテオに、俺もそう思うと賛同しておくけど、俺は別の思惑がある。
スノラリアの王子に、俺って言う存在を存分にアピールしておきたいのだ。
テオの婚約者である俺の情報は、そりゃ~殆ど無かっただろう。
帝国の隣国である小国の、辺境の貴族の三男って言うダークホースだもん。
あちらの王女も、想像もしていなかっただろう。
それに、きっとスノラリアの王太子は必ず俺に接触してくると読んでる。
「スノラリアの話も聞いて見たいから、楽しみだな」
「ああ、ギルは初めて向かうんだったな」
「うん。ふふ。テオとの結婚記念の旅行って考えてるからね」
そう言うと、テオは嬉しそうに笑ってくれた。
外に手を振りながら、俺は頭の中でスノラリアの王太子への対応を考えていた。
実は、俺はスノラリアの王女が、こっそりこちらへ入国しているとの情報を掴んでいる。
その行動力とテオへの熱意には感心するけれど、自分の国の顔に泥を塗る様な行為だよねぇ。
正式な招待を受けてはいないから、王城への入城は許可は出ないだろう。
こちらに接触するチャンスは、城に入る前と出る時。
入る前は、俺がしっかり目眩しをするからこちらに接触は出来ないと踏んでいる。
そうなったら帰る時だろうけど、その前にスノラリアの王太子にガッチリ捕獲して貰いたいなって考えてるんだよねぇ。
スノラリアとしても、王女の行動は大問題だろうし、国交問題になり得るって分かるだろう。
自分が惚れてるからって、お相手が決まっているテオに会いに来ちゃったなんて、今後の王女の嫁ぎ先探しも雲行きが怪しくなっちゃうからね。
「あ、父様達の馬車だよテオ」
沿道を眺めていたテオに、こっちこっちと逆の窓を示す。
「ああ、隣はホセ殿達だな」
その隙に、サッと中が見えにくくなる魔術を掛ける。
沿道に、美しく長い金髪と黒い瞳の上品な美人が、じっとコチラを見つめている。
周りに浮かない様に、派手過ぎず高級過ぎないドレス姿だが、隣にソッと立っている騎士らしき男性と、お付きらしき女性もどことなく品が有る。
俺が魔術を掛けたから、テオの馬車が分からなくなり焦っている様子に、口角が上がる。
騒がしい沿道も終わり、限られた者達しか進めない城への道に、馬車は進んで行く。
残念だけど、テオを一目も見る事無く帰国して頂きましょうか、ローラ姫。
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