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224 推しと未来への投資
しおりを挟む「あ、あの!それで、僕の払う薬のお金は…いくらになりますか?」
何となく良い雰囲気になっていたけど、チピの言葉で周りも確かにと言う空気に変わる。
おお、偉いね。
さすがにタダで施されるとは考えていない。
ご両親は、しっかり教育して来た様だね。
「…そうだね」
周りの好奇の目に晒されるのは慣れているので、俺は勿体ぶる。
そして、バチンとチピにウインクして見せた。
「出世払いにしてあげよう」
「…ふっ」
テオは笑いを堪えるが、周りはドッと盛り上がる。
『サイコーだぜ!!』
『チピ!頑張れよ!!』
出世払いとは、冒険者の良く言うツケの事だ。
昔、ギルド近くの食堂や酒場で、良く聞いた言葉だったりもする。
当時はテオに、この店は出世するまで支払いを待ってくれるのかと聞くと、大笑いされたものだ。
『あれは、ツケを格好付けて言っているんだ』
『…借金を格好付ける意味ってあるの?』
『まぁ、冒険者達特有の言い回しだ。ああいった言葉を言う様になるのも、それなりに稼げる様になってからだからな。ひよっこが使っても鼻で笑われるだけだ。そのセリフを受け入れて貰える様になったと言う事が、一人前になったという事なんだよ。ひよっこでも店側から出世払いで良いよなんて言われるのは、期待しているって事さ』
当時は何だその一人前って思ったけど、言う立場になったら何となく理解出来る。
俺はこの兄弟に期待している。
後天性魔力拒否症の治験もだが、この幼い少年がこのギルドでスズムの手伝いが出来ているって言う所だ。
この兄弟は賢いし、魔力拒否症が出ると言う事は、魔力も高いはず。
俺のレモルトでの事業の一つの成功モデルとなるには、ピッタリな人材なのだ。
「ギル様。彼らに何を?」
やだ、ゼラン伯爵ったらさすがに分かってるね。
俺がニッコリと笑顔を向けると、ゼラン伯爵はちょっと怯えた。
…失礼な。
「そうですね。実は、既に動いているのですが、私はレモルトに平民向けの学園を開く予定なんです」
「学園…」
「ええ。平民にも、学問に優れていたり、魔力の高い者は多いですからね。しっかりとした教育を受け、才能を伸ばす事が出来れば、彼らは素晴らしい人材になるでしょう。領地…、そして国にとっての最大の宝は人材です。言わば先行投資ですね。私はこの兄弟に投資したいのですよ」
あ、ちなみに国外へも門戸を開くつもりですよ。
だって、優秀な人間が我が領土で育った後に国に帰ったとしても、そこから利益が来る可能性の方が高いもの。
そう言う風に育てる腹積りなんだから。
小さな領土だけで商売するのも良いけれど、それじゃ売り上げやらは高が知れている。
もちろんレッドドラゴンリーフと言う素晴らしい資材はあるけれど、それはジャメルのモノでもあるのだって俺は考えている。
レモルトを盛り立てて行く為には、温泉とそれに付随するモノだけでも十分なんだろうけど、仲間内だけでやっていてもね。
愛するテオが、領地と一緒に婿に来てくれるのだから、それ以上に盛り立てたいと思うのは当然じゃない?
「…彼らを、後々レモルトで雇用したいと?」
優秀な彼らなら、大歓迎なんだけど、それもちょっと違うのだ。
「レモルトで暮らしたいと思って貰えるのでしたら、大歓迎です。ですが、お二人はこちらのギルドで働いているのでしょう?スズム殿の役に立てる程の人材でしたら、ギルドも手放したく無いのでは?」
「それは…。そうですが。それでしたらレモルトになんの旨味が?」
「私が開こうと考えている学園は、何も毎日みっちりとお勉強させる所ではありませんし、子供だけの学園ではありません。国を超えて通う事も許可したいと考えています。適材適所で学びたい所、その人に合っている所を重点的に学べる様にと考えています。ギルドで手伝いをしながら、週に何日が通えば、もっと仕事の幅も広がるでしょう?それに行き来する乗合馬車の護衛の仕事も生まれます。もっと言えば、引退した冒険者に剣術や魔術の指導の仕事も紹介出来るでしょう。そんな中で、二人が優秀に育ってくれれば、我が領土やジャメルからの輸出入の通り道としても仕事を任せてみたい。…どうです?我が領地にも良い話では無いですか」
レモルトに建設予定なのは、子供達への教育の場と、職業訓練校を合わせたみたいな感じなのだ。
恩という名の息の掛かった、優秀な者がいるギルドなら、安心して高品質な物を優先的に下ろせるからね。
俺は、トーレ王国内や帝国だけで売買したい訳じゃ無いの。
せっかくラッカルとスノラリアと言う大国への伝手があるのなら、最大限に利用したいじゃない?
それに、ゼラン伯爵がこの誘いを断りにくい事も知っている。
帝都やその付近には、平民向けの学園は存在しているのだが、地方になると余程の豪農などがいない限りは難しい。
読み書きを教える教室が、国の支援を受けて数ヶ所あるくらいだ。
その教室も、教科書まで無償という所は少ないし、やはり貧しかったりするとその時間も労働へ回すのだ。
貧しい人達の働き手をと考えて、ゼラン領は冒険者に力を入れて大きくなった。
冒険者は貧しい家からでも、実力があれば高位ランクへ登れるからね。
冒険者向けの施設や場所の開拓は進んだ為、働き口も増えたのだが、そうなってくると今度は貴族からの依頼も多く入ってくる様になった。
しかし、貴族相手に動ける冒険者は数が限られてしまう。
貴族の依頼は、パーティーや会談の送迎や付き添い、研究材料の採取の手伝い、剣の腕が評判なら子息への指導の依頼などだ。
パーティーの為の送迎や、強い冒険者を連れて歩く事がスターテスになる場では、お貴族様達の機嫌を損なわない程度の礼儀、口調はもちろんの事、社会情勢やらの会話がそれなりに出来ると言う事も大事だもの。
そうなるとやはり礼儀や学が無い者には、仕事を振り分ける事は出来ない。
でも、貴族からの依頼はお金が良いから、多くの冒険者に還元したい。
だからこそ、そう言った事をしっかり学べる場って必要だと考えているはずだし、俺の提案は渡りに船のはずなんだよねぇ。
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