228 / 247
220 推しと久しぶりの場所へ
しおりを挟むギルドの前に馬車を停め、テオの従者であるケンとユウリが先に降りる。
そしてテオが降りると、周りから歓声が上がる。
『あの方が?素敵…』
『まさかS級が皇帝の弟君とは…。多くの功績もあると聞くぞ』
『危険な任務も多くこなしてくれていたからな』
ザワザワと集まる野次馬の声を聞きながら、俺はテオの差し出した手を取って馬車から降りる。
『『!!!』』
ふわりと周りに微笑むと、歓声が起きた。
ふっふっふ~。
帰るだけだけど、バチバチに決め込んでおいて良かったぜ。
『美しい…。あの方が、ジャメルの末のご子息?』
『彼もお忍びで冒険者をしていたんだよ。周りとは連まずに、一人で薬草を探していたんだ』
『まぁ、もしかしてレッドドラゴンリーフの事じゃない?他にも沢山の発明をなさってるんでしょ?』
よしよし。
俺の功績をしっかり根回ししてあるから、評判も上々だ。
久しぶりに会うムークは変わらず筋肉隆々で益々渋みが増しており、ママルは相変わらず真っ赤な口紅の似合う迫力美人だ。
「騒がしてすまないな」
「構いませんよ。お久しぶりですテオドール殿下、ギル様。改めまして、ゼラン領ギルド長のムークと、こちらは私の妻であるママルです。中で領主がお待ちですので、どうぞ」
妻って言った!?
ママル、遂にムークを落としてた!!
ママルに目を向けると、バチンと音がしそうなくらいキレイなウインクをくれて、ママルは頭を下げる。
「ご案内いたしますわ」
うーんこの感じ懐かしいなと感動しながら、俺とテオはママル達の後について行く。
領主に会うのは初めてかも…。
少し緊張しながら中に入ると、他の冒険者達も暖かく迎えてくれる。
『いやぁ、まさかS級が殿下とは…。あれだけ立場が上だと言うのに、偉ぶりもせず立派な方だよ。』
『どちらも身分を隠していたんだとか。偉そうなだけの貴族様とは大違いだな』
こちらも好意的でホッとしていると、ギルド長室から何やら大きな声が聞こえてくる。
「だーかーらー!!ココとココは冒険者の重要な休憩所なんだって何度言えば良いんだ!?魔物も多く出ると言うのに、貴族の避暑地にって何を考えているんだ!!」
「…ですよね。しかし、あの」
「まーたあのボンボ伯爵んとこのバカ息子だろ!?」
何やら白熱しているな…。
『ゼラン伯爵も大変だな。また休憩所を貴族に差し出せと言って来たんだろう?』
『冒険者の大事な休憩所なのになぁ。それに、休憩所って事はどう言う場所かくらい分からないもんかねぇ?』
おお、このバトルしている方が伯爵なのか。
そう思っていると、ムークは部屋の扉をノックする。
「伯爵!お客様ですよ!!」
そう言って、ムークは返事も聞かずにガチャリとドアを開ける。
んんん乱暴すぎる。
本当にラッカルの公爵家ご出身ですか!?
いや、ギルド長ならこれくらい強くないとダメだろうけど…。
焦りながら中を見ると、クルクルの金髪に大きなメガネを掛けたちんまりとした可愛らしい青年が立ち上がって、椅子に座る青年を詰めていた。
椅子に座っているのは大きな体ながら気が弱そうに恐縮した男性で、こちらを見て驚いている。
「ん?て、テオドール殿下!出迎えもせずに申し訳ございません!!」
こちらに気が付いたゼラン伯爵っぽい青年が、サッと頭を下げ、座っていた男性も慌てて立ち上がり頭を下げた。
「ああ、良い。気にしないでくれ。久しぶりだなゼラン伯爵。何やら揉めていた様だが?」
テオの言葉に、やはりこの可愛らしい青年が伯爵かと、顔には出さず驚く。
俺が冒険者の時も、彼が伯爵だっただろうから年上なのだろうけれど、とても幼く見えて可愛らしい。
「ええ、そうなんです。隣の隣のボンボ伯爵家から、冒険者用の休憩所を貴族の避暑地に出来ないかと要請が来ておりまして…」
「休憩所をか?避暑地に利用出来るような立地でも無いだろう?うむ。私からもボンボ伯爵に苦言を呈しておこう。ユウリ、この者に私からの手紙を持たせてくれ」
テオにそう言われ、ユウリはすぐに手配を始める。
こう言う時の文書作成も、大抵は従者がやってくれるんだよね。
「ありがとうございます!ほら、今日はその手紙を持って帰って伯爵に伝えておいてくれ」
「こちらでお待ちください」
「は、はい…失礼致しました」
ゼラン伯爵に促され、ケンに誘導されて、ボンボ伯爵家の使者らしき男性は部屋から出ていく。
多分彼も、無理難題を言っているのは自分の雇い主だと分かっているのだろう。
終始申し訳なさそうにしていた。
「ふう。ああ、失礼しました。汚い所ですがどうぞお掛けください」
「汚いは無いでしょうよ」
「ママル殿がキレイにしてくれなければ十分汚いだろうが!」
ゼラン伯爵とムークのやり取りを見ながら、俺とテオは苦笑しつつ席に座る。
ムークってラッカルの公爵家だから、ゼラン伯爵より立場は上なんだろうけれど、ココではそんな事気にしていないみたいだね。
「騒がしくてごめんなさいね。粗茶ですけど」
「ママルの入れるお茶はいつも美味しいですよ」
「あら、嬉しいですわ」
お茶を出したママルはそのまま受付に呼ばれ、俺達は改めて一息付いた。
「さて、テオドール殿下。お隣の方のご紹介をお願い致します」
そう言って、ゼラン伯爵が切り出してくれる。
「ああ、そうだ。私の婚約者であり、時期レモルト公爵のギルだ」
「初めましてゼラン伯爵。ギル・ジャメルです」
「初めまして。タム・ゼランです。こちらでは領主を務めております」
義務的な簡単な挨拶を済ませると、それでは本題ですねとゼランが切り出す。
「それで、今回はどういった要件で?」
おお、話が早い。
そう思い感動していると、テオは苦笑しながらも話を始めた。
315
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる