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219 推しと寄り道
しおりを挟む「叔父上は良い顔をしていた。…全く。ギルには驚かされる」
コツンと軽くオデコを指で押され、そのままそこにキスをされる。
「ごめんね。でも、あのままあの二人まで悲恋で終わるのは、悲しいなって思ったの。俺達がラッカルヘ向かうまで数ヶ月はあるから、ゆっくり考えた答えを出されたら良いんじゃないかなって」
「そうだな…」
「今からだって、遅く無いと思うんだ。あの二人は」
ザラムゼフのあの熱い眼差しとバランモス公爵の視線には、熱烈な好意しか無かったもんね。
「…無事に長子と対面を済ませ、良い方向に全てが終われば、暇を貰っても良いはずだ。何なら今からでも良い程国に貢献なさっている。だが、自分の気が済むまではしっかりと務める方だからな」
「そうだね」
それが何年後かは分からないけど。
ラッカルに向かった罪人にも、一応刑期はある。
ザラムゼフは本人の罪は爵位返上で済んでいるのだが、息子の罪を償うつもりで向かった。
殆どがそのままラッカルの修道院で余生を過ごすが、あちらで良い人を見つけて身を寄せたり、人によってはラッカルで最後を過ごす貴族に気に入られ、そちらに身を寄せる者もいる。
パートナーを亡くし、ラッカルで静かに余生をと考える貴族は多いから、そう言ったやもめが最後に側に置いたりするのだ。
まぁその、ラッカルは結構性に奔走だからね。
それでも危ない思考の者は排除されるし、監視がつくけれど、見た目が良かったり名を馳せていたりした男女は、歳を取っても需要がある。
あんなイケオジなら周りは放っておかないだろう。
俺の勝手な予想だけど、ザラムゼフは今後一人で過ごすと決めていそうだから、誰の誘いも断りそうだけどね。
「それにしても、バランモス公爵がラッカルに行き辛いって酷い話だよ。あんなにキレイな方なのに…」
それ程ヌハリの人気があったのかなと不思議に思っていると、テオが苦笑する。
「いや…。叔父上は顔を隠して活動していたからな。サッと魔術を使って援護し、サッと次の現場へ向かう姿に、お高く止まっている等とケチをつける輩がいたのだろう。人前に出られない容姿だ何だと噂に拍車が掛かったのかもしれないな」
何だそれは…。
いや待てよ?
顔を隠していたって事は、ラッカルは交流のある人しかあの美しいお顔を知らないって事か。
それなら、望みはあるのでは?
そんな事を悶々と考えていたら、サーディンが前のスペースから窓を叩き、そろそろ到着ですと伝えてくれる。
俺が乗っている馬車はテオの物で、俺とテオがいる場所とは区切られた従者用のスペースがある。
皇帝の馬車は前後にそう言ったスペースがあるそうだから、凄いなと感心した。
「わぁ。久しぶりだなぁ…。テオはこちらには良く来ているの?」
「いや、私も久しぶりだ」
俺とテオが寄り道したのは、レモルトの隣であるぜランだ。
俺とテオが出会った、冒険者が多く集まる所で、こちらのギルドに顔を出しに行くんだ。
「私とギルの婚約が発表され、私の身分も明かされたからな。今後は冒険者として活動するのは難しいだろう。ギルド長は私の事を知っていたがな」
「ムークさんだね。彼も元皇城騎士なんでしょう?」
俺はギルド長のゴツいおじ様を思い出す。
凄く強いイメージがあったけど、そりゃ皇城上がりなら納得だよ。
「ああ。それに、彼は実は元はラッカルの貴族の出だ」
「ええ!?」
それは初耳だ。
いや、あの鍛えられた筋肉ならあり得るのか?
「ラッカルの三大公爵家である、現ガラスト公爵の末の弟だ」
「!!」
まさかの大物だった。
ラッカル三大公爵家は、今度迎えに行く事になったマド公爵、結婚式にも来てくれたジャクリ公爵は知っていたけど、ガラスト公爵まで繋がりが出来るとはね。
確か、パンチパーマかアフロかと言う様な黒髪で、三大公爵家の中でも特に筋肉隆々のお家だと聞いている。
性にも奔放で性浴の強い一族で、もちろん子供をポンポン作る真似はしないが、常に二、三人の夫人がいるとかいないとか。
奥様が許可を出していて、子供を作ることは許されていないが、しっかり衣食住の面倒を見ていると言うから凄い話だ。
一夫多妻で一番は正妻だけど、他の人達にもしっかり愛情とお金を掛けるそうで、皆が納得しているのなら問題は無いのだろう。
「まあ、噂通りの家でな。ムーク以外の兄弟も同じ様な者だそうで、ムークは一人その環境を受け入れられなかったそうだ」
「そう…」
一夫多妻が当然の家系でも、ちょっと無理って考えの者が出るのは当然だよね。
「それでも兄や家族の事は尊敬しているそうだ。それぞれ立派に務めを果たしているからな。元々冒険者に興味があったそうで、まずは騎士を志し、自由に冒険者として活躍できる帝国へ移住して来たのだ。家族との交流も続けているそうだぞ」
喧嘩別れと言う訳では無いから、尚の事こちらで自由に出来ているのかもね。
そんな話をしていると、俺達の馬車に気付いた人々が、ザワザワし始める。
『テオドール殿下の馬車だ!!』
『レモルトに戻られる前に、こちらに寄られたんだな』
『元々、S級の冒険者だったって…。ギルドに来たのかや』
カーテンを開け、取り敢えず笑顔でお手振りしておくと、黄色い歓声があがる。
お高く止まる貴族は嫌われるからね~。
そのまま馬車は進み、ギルドの前に着くと、ギルド長のムークと受け付けのママルが出迎えてくれていた。
あぁ、久しぶりだなぁ。
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