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207 推しと吉報の始まり
しおりを挟む「休息中に失礼する。ああ、座ったままで構わない」
談笑していると、皇帝が皇妃やバランモス公爵、父様達まで従えて部屋へ入って来た。
「父上、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、心配を掛けたね」
カルパがサッと動き、バランモス公爵を席に座らせる。
先程は真っ青な顔をしていたが、顔色が随分良くなっている。
周りもササッと動いてすぐに新しい席が用意された。
父様少し難しい顔をしてる…?
シェル様は俺と目が合っだ時に柔らかく苦笑したから、何か大変な事って訳では無いんだろうけど…。
「先程、タニアの乳母であった者の死亡が確認された。彼女はスノラリアの貴族であったが、やはりサンジカラの繋がりがあった。スノラリアには我が息子が嫁ぐ事もあり、早々に連絡を入れてある」
亡くなったって事は、やはり見つかってはいたんだね。
皇帝の話では、サンジカラと繋がりを持っていた為、そのまま利用されて存在を乗っ取られて、監禁されていたそうだ。
発見された時には既に満身創痍で、虫の息だったそう。
「その時に、バランモス公爵の第一子の話が出た。子供を取り替えたのは彼女であった」
第一子が産まれた時に、ヌハリ夫人にも魔術を掛けて目眩しし、サンジカラの貴族の娘であったタニアをバランモス公爵家の第一子として育てたのだとか。
「彼女は子供の始末も頼まれたそうだ。本物の本人証明書を持っていた」
始末。
一気に緊張が走り、血の気の引いた顔色になったカルパの肩をを、ジュレス公爵が優しく抱く。
「彼女は、赤子に手を出せなかったそうだ」
始末はしなかったって事?
「本物のバランモス公爵家の第一子は、女ではなく男であり、乳母は内密にスノラリアの教会へ孤児として届け出たと白状した」
んんんんん!?
情報が多すぎる!
つまり、本物の第一子は男で、スノラリアで生きてる可能性があるって事…?
「先程、本人証を確認した所、生存だと分かった。こちらについてもスノラリアに連絡を入れてある。バランモス公爵にも説明し、早ければネラが嫁ぐ予定である半年後前にはあちらを訪問したいと考えている」
「!!」
あぁ、だからか。
真っ青を通り越して真っ白になっていた、バランモス公爵の顔色が良くなっていたのは。
「良い環境に置かれていたとは限らない。恨まれるかもしれぬ。それでも生きているのなら、会いに行きたい」
バランモス公爵の言葉は、穏やかだがとても力がこもっていた。
「国の為と働いているうちに、我が子の異変にも気付かずに今まで来てしまった。カルパにも寂しい思いをさせた」
バランモス公爵は魔術が特に秀でていたから、育成や他国への協力に走り回っていたそうだ。
子育ては乳母や教育係や執事、メイド達が行う。
王族に近い者なら、当たり前っちゃ当たり前なんだけどさ。
「いいえ。私はとても良い環境に置いて頂けました。ですからジンギ様と縁も結べたのです。…そうですか。私には兄上がいらっしゃるんですね」
少し涙を浮かべながら微笑むカルパに、周りも暖かな視線を送っていた。
ネラ皇子が嫁ぐのは半年後で、その前に顔合わせとして向かう事になっている。
その時に合わせてバランモス公爵は、スノラリアを訪問すると決めたのだ。
「それならば、我々も向かいましょう」
ジュレス公爵の申し出を、バランモス公爵は快諾した。
何やら、ラッカルの人間が一緒の方が都合が良いらしい。
「スノラリアはラッカルに継ぐ宗教大国でもあるからな。急ぎでラッカルのマド公爵にも連絡を入れてある。彼にも同席を願ってある」
弟であるヌハリ夫人を溺愛していた、ラッカル三大公爵の一人だね。
スノラリアは雪国で地下で暮らす方々だが、同じくスイレン神を崇拝しており、年に数回あるラッカルからの使者の訪問は大変喜ばれるんだとか。
大抵はそれなりの地位の方々だが、今回三大公爵家であるマド公爵家の訪問なら、間違い無く安全だろうと皇帝は踏んでいる様だ。
サンジカラの件でゴタゴタしそうだけど、うまく話がまとまりそうだ。
ふむ、悪い話しじゃ無いよね?
それなのにどうして、父様は難しい顔をしているんだろう?
「…その時に合わせ、テオドールにも同行をして貰いたいと考えている」
お、テオも?
何故にと思っていたら、テオから説明がある。
「スノラリア王国の王室騎士団長とは、冒険者の時に繋がりがあるのだ。サンジカラの残党の討伐などにもお互い協力し、最後には身分を明かしたが。あちらもただの騎士と申していたが、スノラリア王国の第二王子だった事もあり、未だ親交があるんだよ」
ふむふむ。
テオも顔が広いなぁ。
のほほんと考えていると、皇帝の顔がいつになく真剣になる。
「ここからが本題なのだが」
そして、俺を真っ直ぐに見つめる。
「スノラリアへ向かう際、ギル殿にはテオドールの妻として同行して貰いたいのだ」
ておどーるのつま?
つま…TUMA…ツマ…妻!?
奥様って事ですか!?
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