転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

文字の大きさ
上 下
212 / 247

205 推しと収束への一刀

しおりを挟む

しんみりした空気になるよね。

タニアには一応血を止める魔術を掛けて拘束したが、顔の大きな傷は消せなかった。

チョントの魔術は薬の影響で複雑になっていて、回復には時間も魔力も必要になっていた。

罪人に時間と魔力を使う必要は無いと判断されたのだ。

ビャールも止血を施され、ドムジンが何か言い掛けていたが、ビャールは決して目を合わせずに静かに連行された。

チョントの亡骸は、ザラムゼフ伯爵が自らの上着で包みそのまま抱き抱えて、騎士達に囲まれながら出て行った。

「…ザラムゼフは言葉が足りなかったが、息子をしっかりと認めていたのだがな」

「そうなんだね…」

テオの話だと、ザラムゼフ伯爵の結婚は相手貴族からの猛アプローチで決まったそうだ。

騎士として名を馳せていたザラムゼフ伯爵との結婚は、当時はそれはそれは名誉なことだったからね。

その息子も騎士になれば、娘を嫁がせたお家は鼻が高い。

そんな考えからの結婚だったそうだが、チョントは魔術の才能の方があった。

ザラムゼフ伯爵的には、バランモス公爵が魔術師として才能があった事もあり、それで良いと喜んだそうなのだが、奥方は喜ばなかったんだって。

体が弱い中産んだ子供が、騎士にはならない。

周りからはせっかくの騎士血が途絶えたと嫌味を言われ、実家からは期待外れと言われる。

そんな中、元々精神的にも弱かった為か、心も病んで亡くなったんだとか。

…周りが悪いね!

うん、ザラムゼフ伯爵が言葉足らずでも、周りがもっともっと悪いね!!

貴族って感じの考え方だけど、胸糞悪いわぁ。

そんな感じで何とか自分の中でモヤモヤを抑えていると、外が騒がしくなる。

「!!報告致します!外にいた者達は捕えましたが、何人かが体内に魔鳥や魔物を取り入れていた模様で…!うわぁぁぁぁあ!!」

「抑えろ!!中に入れるな!!」

扉の外で、騎士達の声が聞こえたかと思うと、バンッと扉が開かれ、ゆらりと魔鳥がこんにちは~して来た。

えへへ来ちゃった。

って感じだね。

魔鳥なんて、トーレの王都にも中々いないし、帝都なんて余程の事が無いと入り込まないだろうから、騎士達は右往左往している。

「…ふん」

俺が鼻を鳴らして一歩出ると、テオは驚いていたが止めはしなかった。

テオは、俺のモヤモヤ気持ちを理解してくれてるんだね。

大好き!!

「ぎ、ギル様!?」

周りの驚きの声を振り切って、俺は剣を振り上げた。

魔鳥は、何だ何だと俺を見ている。

ザンッッッ!!

「「!!!!」」

一刀で魔鳥の首を斬り落とす。

血で汚れるから、サッと魔術を掛けて止血するのも忘れない。

キンと剣を鞘に収めると、ワッと歓声が上がる。

「す、すごい…」

「さすが、ジャメル家のご子息…!」

しかし、先頭がやられて気が立った様子の魔鳥が数匹入って来てしまう。

「ギルに続け!!」

「「ハッ!!」」

ホセ兄様の声に、ジャメルの騎士達がババッと動く。

「ロン!!一人前になる機会だぞ!」

「ハイッ!!」

ロンは剣に魔力を込めると、ギャーギャー鳴きながら突進してきた魔鳥に剣を振り下ろした。

「くっ!」

一撃では終わらなかったけど、やっぱり筋が良いね。

ロンはしっかりと一匹を倒し、周りのジャメル騎士達もうんうんと頷いている。

「…よしっ!魔鳥は全て始末したな。外へ応援へ行こう!」

ババッと締めた魔鳥を一纏めにして、ホセ兄様の指示でジャメル騎士達が外へ向かう。

あっと言う間に魔鳥を片付けて外へと向かうジャメル騎士団に、周りは呆気に取られていた。

「流石だなギル」

剣を鞘に収めたテオは、そう言って俺を抱き寄せる。

「ふふ。やりすぎちゃったかな」

「そんな事は無い。強い君も素敵だよ」

イチャイチャする俺達を、周りは唖然と見ているが気にしない。

やっと無事に終わったって感じなんだもん。

少しくらいイチャイチャしても良いよねぇ?

「…魔鳥を一刀だったな」

「やはりテオドール殿下が認めた方だな。…末恐ろしいが」

うんうん。

俺の評価が上がるなら怖がられても良いもんね~。

さて、後始末も色々あるだろうけど、外は大丈夫かな?

父様兄様が居るから大丈夫だとは思うんだけど、と思っているとまた外が騒がしくなっている。

「!!ど、ドラゴンが!!」

「きょ、共闘している!?」

あらあらあらあら~。

やっぱり来ちゃったねぇ。

俺とテオは顔を見合わせると、取り敢えず外を確認する。

そこにはいつの間にか外に出ていたカグラと、グリーンドラゴンのモモルルと、レッドドラゴンの子供のカーリンがいた。

いたって言うか、カーリンの背中に兄様が乗ってるんだけど…。

乗りやすい様に鞍まで装着してる。

いつの間に…。

「れ、レッドドラゴンに乗っている…!?」

「す、凄い…」

数人の魔術師達は捕らえられ、その時に解放したらしき魔物達をドラゴン二匹とジャメル騎士団がバッタンバッタン倒している。

魔鳥は特に美味しいみたいで、カーリンはウッキウキすらしていた。

こりゃ、お肉が食べられなかったら拗ねてしまいそうだ…。

「…テオ。こちらの魔鳥のお肉って頂けるのかな」

「肉?ジャメル騎士団が仕留めたのだから、問題は無いが…」

貴族は魔鳥の肉をあまり食べないから、テオと周りは不思議そうな顔をしている。

「カーリンがね、魔鳥のお肉が好きみたいなんだ」

「なるほど」

テオが指示をすると、周りは急いで処理に取り掛かってくれる。

こんな時に申し訳無いけどと思いつつ、最後の魔物が倒される様子を見て、やっと終わったなと安堵するのだった。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話

あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった 親は妹のゆうかばかり愛してた。 理由はゆうかの病気にあった。 出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。 もう愛なんて知らない、愛されたくない そう願って、目を覚ますと_ 異世界で悪役令息に転生していた 1章完結 2章完結(サブタイかえました) 3章連載

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...