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205 推しと収束への一刀
しおりを挟むしんみりした空気になるよね。
タニアには一応血を止める魔術を掛けて拘束したが、顔の大きな傷は消せなかった。
チョントの魔術は薬の影響で複雑になっていて、回復には時間も魔力も必要になっていた。
罪人に時間と魔力を使う必要は無いと判断されたのだ。
ビャールも止血を施され、ドムジンが何か言い掛けていたが、ビャールは決して目を合わせずに静かに連行された。
チョントの亡骸は、ザラムゼフ伯爵が自らの上着で包みそのまま抱き抱えて、騎士達に囲まれながら出て行った。
「…ザラムゼフは言葉が足りなかったが、息子をしっかりと認めていたのだがな」
「そうなんだね…」
テオの話だと、ザラムゼフ伯爵の結婚は相手貴族からの猛アプローチで決まったそうだ。
騎士として名を馳せていたザラムゼフ伯爵との結婚は、当時はそれはそれは名誉なことだったからね。
その息子も騎士になれば、娘を嫁がせたお家は鼻が高い。
そんな考えからの結婚だったそうだが、チョントは魔術の才能の方があった。
ザラムゼフ伯爵的には、バランモス公爵が魔術師として才能があった事もあり、それで良いと喜んだそうなのだが、奥方は喜ばなかったんだって。
体が弱い中産んだ子供が、騎士にはならない。
周りからはせっかくの騎士血が途絶えたと嫌味を言われ、実家からは期待外れと言われる。
そんな中、元々精神的にも弱かった為か、心も病んで亡くなったんだとか。
…周りが悪いね!
うん、ザラムゼフ伯爵が言葉足らずでも、周りがもっともっと悪いね!!
貴族って感じの考え方だけど、胸糞悪いわぁ。
そんな感じで何とか自分の中でモヤモヤを抑えていると、外が騒がしくなる。
「!!報告致します!外にいた者達は捕えましたが、何人かが体内に魔鳥や魔物を取り入れていた模様で…!うわぁぁぁぁあ!!」
「抑えろ!!中に入れるな!!」
扉の外で、騎士達の声が聞こえたかと思うと、バンッと扉が開かれ、ゆらりと魔鳥がこんにちは~して来た。
えへへ来ちゃった。
って感じだね。
魔鳥なんて、トーレの王都にも中々いないし、帝都なんて余程の事が無いと入り込まないだろうから、騎士達は右往左往している。
「…ふん」
俺が鼻を鳴らして一歩出ると、テオは驚いていたが止めはしなかった。
テオは、俺のモヤモヤ気持ちを理解してくれてるんだね。
大好き!!
「ぎ、ギル様!?」
周りの驚きの声を振り切って、俺は剣を振り上げた。
魔鳥は、何だ何だと俺を見ている。
ザンッッッ!!
「「!!!!」」
一刀で魔鳥の首を斬り落とす。
血で汚れるから、サッと魔術を掛けて止血するのも忘れない。
キンと剣を鞘に収めると、ワッと歓声が上がる。
「す、すごい…」
「さすが、ジャメル家のご子息…!」
しかし、先頭がやられて気が立った様子の魔鳥が数匹入って来てしまう。
「ギルに続け!!」
「「ハッ!!」」
ホセ兄様の声に、ジャメルの騎士達がババッと動く。
「ロン!!一人前になる機会だぞ!」
「ハイッ!!」
ロンは剣に魔力を込めると、ギャーギャー鳴きながら突進してきた魔鳥に剣を振り下ろした。
「くっ!」
一撃では終わらなかったけど、やっぱり筋が良いね。
ロンはしっかりと一匹を倒し、周りのジャメル騎士達もうんうんと頷いている。
「…よしっ!魔鳥は全て始末したな。外へ応援へ行こう!」
ババッと締めた魔鳥を一纏めにして、ホセ兄様の指示でジャメル騎士達が外へ向かう。
あっと言う間に魔鳥を片付けて外へと向かうジャメル騎士団に、周りは呆気に取られていた。
「流石だなギル」
剣を鞘に収めたテオは、そう言って俺を抱き寄せる。
「ふふ。やりすぎちゃったかな」
「そんな事は無い。強い君も素敵だよ」
イチャイチャする俺達を、周りは唖然と見ているが気にしない。
やっと無事に終わったって感じなんだもん。
少しくらいイチャイチャしても良いよねぇ?
「…魔鳥を一刀だったな」
「やはりテオドール殿下が認めた方だな。…末恐ろしいが」
うんうん。
俺の評価が上がるなら怖がられても良いもんね~。
さて、後始末も色々あるだろうけど、外は大丈夫かな?
父様兄様が居るから大丈夫だとは思うんだけど、と思っているとまた外が騒がしくなっている。
「!!ど、ドラゴンが!!」
「きょ、共闘している!?」
あらあらあらあら~。
やっぱり来ちゃったねぇ。
俺とテオは顔を見合わせると、取り敢えず外を確認する。
そこにはいつの間にか外に出ていたカグラと、グリーンドラゴンのモモルルと、レッドドラゴンの子供のカーリンがいた。
いたって言うか、カーリンの背中に兄様が乗ってるんだけど…。
乗りやすい様に鞍まで装着してる。
いつの間に…。
「れ、レッドドラゴンに乗っている…!?」
「す、凄い…」
数人の魔術師達は捕らえられ、その時に解放したらしき魔物達をドラゴン二匹とジャメル騎士団がバッタンバッタン倒している。
魔鳥は特に美味しいみたいで、カーリンはウッキウキすらしていた。
こりゃ、お肉が食べられなかったら拗ねてしまいそうだ…。
「…テオ。こちらの魔鳥のお肉って頂けるのかな」
「肉?ジャメル騎士団が仕留めたのだから、問題は無いが…」
貴族は魔鳥の肉をあまり食べないから、テオと周りは不思議そうな顔をしている。
「カーリンがね、魔鳥のお肉が好きみたいなんだ」
「なるほど」
テオが指示をすると、周りは急いで処理に取り掛かってくれる。
こんな時に申し訳無いけどと思いつつ、最後の魔物が倒される様子を見て、やっと終わったなと安堵するのだった。
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