211 / 247
204 推しと終わりの時※残酷な表現を含みます
しおりを挟む「…サンジカラの禁忌の一つだな。薬で魔力を大幅に増殖するが、命を削る」
ダイナレートの言葉に、周りはなるほどと頷いている。
皆でやり込めば何とかなる感じだけど…。
「く、ここに来て動かぬか馬鹿者が!」
「ワーク、どうすれば」
「ご安心ください!外にもおります!!」
「!!」
ワークが外と言うと、外が騒がしくなる。
「ご報告します!!外で数人が怪物に!!」
バタバタと護衛が走って来て、周りが騒がしくなる。
「外の対応の者は外へ!!」
ダイナレートの声に、騎士と魔術師がサッと動く。
動きの速さから、ここまで予測してたんだろうなと。
父様が外に出たから、父様は外を担うんだろう。
「く!チョント!!しっかりなさい!あなたは私の為に動くんでしょう!?」
いやいやいや。
この状況で何言ってんの。
タニアに呆れつつも、チョントの動きからは目が離せない。
チョントは間違いなくタニアを襲うだろう。
こちらには目もくれず、タニアを恨めしそうに睨みつけている。
…まぁ、被害がタニアだけなら良いけど、他にも及んだら大変だしなぁ。
そんな事を考えつつも、周りを確認すると、ザラムゼフ伯爵はちゃっかりバランモス公爵の護衛に混じってる。
皇帝はしっかり護衛がついてるし、ドムジンも青い顔をしながらもしっかり魔術で防護壁を作ってる。
ビャールは…。
思った以上に大人しく捕らえられてるな。
動くのか動かないのか。
ビャールは読めないから要注意だなと思っていると、ブワッとチョントが魔力を放出した。
「来るぞ!」
その瞬間、チョントはものすごい勢いでタニアに襲い掛かる。
『ゆ゛る゛ざな゛い゛!!』
「ぎゃああああああ!!」
大きな黒い塊から、鋭い爪が付いた腕が振り下ろされ、タニアの左頬から肩を斬り付ける。
のたうち回るタニアを助ける者は居ない。
放出された魔力に、チョントの思考が載っている。
(なるほどね…)
チョントは、父親に大きなコンプレックスを抱いていた。
帝国皇室の騎士として名高く、活躍もしていたザラムゼフの息子なのに、チョントは剣の才能は全く無かったみたい。
ザラムゼフは早々に、息子には剣ではなく魔術の道を進ませた。
見捨てた訳でなく、自分に合った方向を伸ばす為だったのだが、周りは落ちこぼれと嘲笑う。
それでも魔術を鍛え、皇室魔術師となったが、上には上が居る。
それでもと進んでいた中、タニアに出会った。
『あら、あなたの魔力は素晴らしいわ。ぜひ私の為に働いて欲しいくらいよ』
タニアに褒められてから。
認められてから、チョントの世界は大きく変わっていったんだろう。
タニアにとっては、サンジカラの禁忌を使うに十分の魔力と、ザラムゼフ伯爵の息子と言う好都合な立場が好都合だっただけだろうけど。
「痛い…!いやぁっ!!たす、助けて…!!」
タニアは痛みで動けず、ワークが急いで近付くと、チョントはワークに飛び掛かる。
「ひ、ひぃっ!!ぎゃああああああ!!」
近くにいたワークは、首を大きく斬り付けられ、倒れ込む。
暫くビクビク動いていたが、動かなくなった。
「ひいっ!ひっひっ」
タニアは恐怖で体が震えていた。
『ゔ…あ』
チョントがぐるりとこちらに体を向ける。
『だ、だれか…』
体が言う事を聞かないのか、泣きそうな顔をしている。
もはやこうなったらただの殺人鬼になるのだろうか。
「気を付けろ」
テオの言葉に、俺は気を引き締めて剣を構える。
バッとチョントは皇帝達の方へ飛び掛かる。
「ぐっ!」
ドムジンが防御壁を作っていたので免れるが、チョントの力が思った以上に強かったみたいで、ドムジンがよろける。
『!!』
あ、ヤバい。
もうチョントは周りが見えていない。
グラついたドムジンが次のターゲットだ!!
俺が飛び出そうとしたら、それより先にドムジンとチョントの間に飛び出した人がいた。
チョントが再び爪を振り下ろす。
ザシュッ!!
「!!」
「グッ!!」
「ビャール!!!」
ドムジンとチョントの間に飛び出したのは、後ろ手に腕を縛られたままのビャールだった。
「う、うぅ…」
チョントに胸から腹を切りつけられ、ビャールはそのまま倒れ込む。
どくどくと血が流れ、床に広がって行く。
「ビャール!ビャール!!」
皇帝への防護壁を解く訳にも行かず、ドムジンは悲痛な声をあげている。
『あ、あ、あ。ち、ぢがうんだ…』
チョントは誰かを傷付けたい訳では無いと、必死で体を動かすが、もはや自分の意思でも体が動かせなくなっていた。
『ど、とうさま…』
絞り出す様に出た声は、小さな子供が泣いている様な声だった。
その声を聞いたザラムゼフ伯爵は、両目を大きく見開いて、そして強く目を瞑る。
そして、再び開かれた目には、覚悟が見えた。
「…ああ。今、楽にしてやろうチャント」
ザラムゼフ伯爵は、再び剣を構える。
『う、う、うぁ、と、さま』
またも飛び掛かろうとするチョントが体を屈めた瞬間、ザラムゼフ伯爵は歳を感じさせない速さで動いた。
剣が大きく振り下ろされる。
『グワァァァァァアアアアアア!!!』
ザンッ!!
チョントの体が、左肩から斜めに真っ二つになり、そのまま崩れ落ちて行く。
塊がモゾモゾと集まり、人の形に戻った時には、チョントは大きく体を切り付けられていた。
「…チョント…!」
ザラムゼフ伯爵はすぐに剣を鞘に収めると、息子の体を抱き上げた。
「あ…あ…。コレ…で。おわ…る?」
「…ああ。終わりだ」
「…あぁ…」
ザラムゼフ伯爵に髪を撫でられながらチョントは、安心した様に息を吐き、そのまま動かなくなった。
356
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる