転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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203 推しと帝国の薔薇

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バランモス公爵家長子である、タニア嬢。

産まれてきた時から蝶よ花よと育てられ、年頃になると帝国のおしゃれの最先端と囃し立てられた。

見た目も礼儀も完璧で、目指すべき令嬢と持て囃され、姿絵は国の隅々まで広がったのだ。

やれドレスはこのデザインだ、手袋はこの長さだ、好むお茶は何だと。

彼女を広告塔として、流行り廃りが目まぐるしく踊りる。

数年前迄は、だったはずだ。

しかし、蓋を開ければだ。

「いつの頃から、タニア嬢の事を素敵な令嬢と思い込んでいましたわ…」

「ええ、本当に。まるで何かに感染したかの様でした。今はそれが微塵もありませんが」

「ええ。姿絵も流行りましたが…。関心が薄れたのは平民からでしょうか」

周りに話が広がって行く。

へぇ。

関心が薄れたのは平民からなんだ。

聞けば、平民に流行ったのは一瞬で、すぐに馬鹿馬鹿しいと言う声が上がったんだとか。

目が覚めるのが早かったのは、平民に広げるほどの魔力が使えていなかったのかもしれない。

それに平民に流行る服装では無かった事もあるけど、彼らは貴族の順列なんか気にしないし、他にも綺麗な方はいるよねぇとなったんだって。

もっと言えば、家事なんかしてませんわって感じの美しい手指なんか、今時羨望の眼差しは向けられないのだ。

荒れた手にって、特別なクリームを気になる相手にプレゼントするって流れも出来てたりするからね。

それを使えば、酷い手荒れもすぐにキレイになるし、そこまで高価でもない。

後は、強くて美しい女性がギルドには多くいて、それが美の基準の一つみたいになってるのも大きいのかも。

彼女達は鍛えられていて、男顔負けの腕を振るうが、その為羽振りも良くおしゃれもしっかりしてるから。

貴族内でも最近人気だったのは女性騎士だったり、魔術師だったり、何かに秀でた令嬢で、平民も共働きは当然な所があるから、実力で上に立ち腕を振るう女性の方が、魅力的なのだ。

「何故かタニア嬢が持ち上げられるまでは、やはり騎士の方や魔術師、調合師などの令嬢の方が人気がありましたものね…」

「ええ、服装も。タニア嬢の様にの厚いドレスも人気はありますが、動きやすいドレスや服装を提案した令嬢のスタイルは、平民にも今なお人気ですものね」

確かに…。

タニアのドレスは少し古臭い。

パニエやらを重ねたフワッとしたプリンセスラインってヤツだね。

もちろんそれなりに人気もあるが、最近だとなデザインと言われている。

チラリと周りを見ると、タニアと同年代らしき女性達には、すらっと見えるAラインやマーメイドライン、胸から下で切り替えられたエンパイアラインが人気の様だ。

「…それにしても、姿絵と随分と違いますな」

一人の紳士が、胸元からタニアの姿絵を出す。

となってからは、こうやって持ち歩く者も多いらしい。

「あら、本当ですわね。描き手の腕が悪かったのかしら?」

「悪いと言いますか…。これは…」

確かに俺も見た事ある姿絵とは、結構違うけど…。

ザワザワと周りがしだすが、ちょっと今人質取られてるの忘れてません?

貴族達の緊張感の無さにも、これは何かの作戦かと疑ってしまう。

「…っ!なんですって!?ふざけないで…!こちらには人質が居るのよ!?」

ビャールに捕えられているマコリが、ビクリと体を震わす。

髪を振り乱して喚く姿は、本当に醜い。

それを、貴族達は口元を隠して笑う。

何だ何だ?

何が起きてるんだ?

テオを見上げると、テオは何かに勘付いた様で、剣を構えつつも俺と一歩下がる。

サッと周りを確認すると、タニアを挑発している人達は、皇帝に忠誠心のある人達ばかりに見えるが…。

「…」

「ビャール!そいつを殺しておしま…っ」

ダンッ!!!

「グワッ!」

本当に一瞬だった。

タニアが言葉を発した瞬間に、マコリはビャールの腕を掴んでナイフを払い落とし、そのまま地面を蹴り付けると、壁へ体ごと強く押し付けたのだ。

そのまま、数人に取り押さえられる。

「…!?だ、誰か!!ワーク!!」

焦った様にタニアが叫ぶと、後ろに隠れていたらしきワークが現れる。

「た、タニア様!チョント!!今こそ薬を使え!!」

ワークは、捉えられているチョントに向かって叫ぶ。

「…」

薬…。

その時、チョントは何かを噛み潰す動きをした。

「しまった…!薬を仕込んでたのか」

皆が気付いた時には、チョントの体がまたも気持ちの悪いモノに変化しだしてした。

ブチブチッと両手や体を縛っていた縄が引きちぎられ、先程とは比べ物にならないくらい、大きくなって行く。

「!!危険だぞ、下がれ!!」

その声に貴族達は後ろへ下がり、騎士や魔術師が前に出る。

「チョント!早くそいつらを始末しなさい!」

タニアが好機とばかりに声を張る。

しかし、チョントは動かない。

ボコボコと、体が黒く肥大して行く。

『…い、いらないと…。いらないと言った…』

絞り出す様な声に、周りはハッとしてタニアを見た。

「な、何を言っているの。早く私を助けなさいっ!!」

「早くしろチョント!!」

タニアとワークが騒いでいるが、チョントは怒りで震え出す。

『い゛ら゛な゛い゛どい゛っだ!!』

グワッと力を放出する。

「くっ!」

「これは危険だぞ」

ビリビリと魔力が溢れている。

先程とは比べ物にならない位だ。

魔力増力剤みたいなモノ?

これは厄介だな。






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