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202 推しと裏切り者
しおりを挟むチョントの塊が、バランモス公爵にグワっと飛び掛かろうとした瞬間。
ザンッッッ!!
後ろの扉が開き、鋭い光がバッサリとチョントの体を真っ二つに切り裂いた。
『キァいぇエエエエ!!』
『ぎゃああああ!!』
ドベシャッと、塊は二つに分かれて床に叩きつけられると、それぞれがモゾモゾと人の形になって行く。
その間には、鬼の形相で剣を振り下ろしたイケオジが立っていた。
(あー。なるほどなるほどねー)
「ざ、ザラムゼフ伯爵!?」
「まさか、速すぎる…」
チラーリと皇帝を見ると、バッチリと目が合って軽くウィンクされた。
皇帝ったら。
やっぱりザラムゼフ伯爵をどこかに隠してたんだね。
チョントやらを安心させる為に、帝都から出したって言ってたのか。
もー!!
俺達にも教えといて欲しいもんですー!
「ひっ…!ひっな、なぜ父上が…」
人の形に戻り、取り敢えず怪我の無さそうなチョントは腰を抜かしつつ後退りしている。
驚きと切られた衝撃で、魔力が吹き飛んだのを感じる。
「愚息が…っ!バランモス公爵の娘でもない、ただの不敬な女に入れ込んでいたのか…!!」
あ、やっぱりバランモス公爵の娘だから、バカみたいな振る舞いも大目に見てたんだね。
うーんそれもそれで凄いな。
本当にバランモス公爵の娘だったら、マジで最後まで味方するつもりだったんだろうか…。
いや、バランモス公爵も危険に晒されたら、公爵を取るかこの人は。
バランモス公爵かそれ以外かって考えで動いていそう…。
重いね…。
頭の中でヤダーオモーイと揶揄いつつ、見守っていると、ザラムゼフ伯爵は手際良く息子を縛り上げてしまう。
「ひ、ヒイィっ」
「情け無い声を出すなバカ者が!!」
そのまま近くの騎士に投げ渡すと、ギロリとタニアに向き直る。
周りが静かに見守っている感じからして、この人は本当に強いんだろうと感心する。
「貴様…。何者だ」
「ヒッ!」
タニアはカサカサと動く、黒い虫の様に慌てている。
みっともないなぁ~と思いつつも、俺とテオは目配せしつつ剣は構えておく。
「う、嘘よ、こんな事が…。だ、誰か」
「む?」
何かの気配に気が付いたザラムゼフが、ザッとタニアから距離を取ると、ザラムゼフの入って来た扉に二人の魔術師が立っていた。
「ビャールとマコリ…?」
ドムジンが、自分の恋人であるビャールと、マコリと呼ばれた魔術師を見る。
マコリは、マッシュルームカットの黒髪黒目メガネで、幼い感じの小さな青年だ。
「ヒッ…」
「!!ビャール!?」
その時、ビャールはマコリの首に短剣を押し当てたのだ。
「彼が裏切り者か…」
「そんな…」
ドムジンの顔が青くなっている。
昨日二人の様子を見た時は、本当に仲睦まじかったから…。
ハニートラップと言うやつか。
「下がれ。タニア嬢はこちらに」
ビャールは淡々と言い、ホッとした様にタニアはビャールの後ろへ隠れた。
チラリと皇帝達を見るが、やはり随分落ち着いている。
これは全て計算通りなのだろうか?
「チョントはどうなさいますか」
「…そうね。今後あまり使えそうにないもの。必要無いわ、置いていきましょう。…テオドール。あなたは私と一緒に来るのよ」
おやおや。
長年尽くしてくれた男を一瞥して切り捨てたと思ったら、随分な寝言だね。
フンと鼻で軽く笑うと、テオも同じ気持ちだったみたい。
「断る」
「あら。私の夫になれるのよ?サンジカラだったら、あなたは王にだってなれるわ」
サンジカラ。
その言葉に、彼女の正体が判明する。
やはりサンジカラ関係か。
さてどうしたものかとマコリを見ると、怯えたフリをしているだけで、至って冷静だと気が付く。
そして、彼は魔術師長であるダイナレートに軽く目配せまでしている。
彼は味方か、それ以上なのか?
取り敢えず、剣を構えたまま様子見か。
そんな事をぐるぐる考えながらタニア達を警戒していると、フンとテオが鼻で笑う。
「サンジカラの王に何の価値がある?」
「あら、私と言う素晴らしい妻を目取れるのよ?」
それって価値ありますかー?
そう思っていると、テオは呆れた様に溜息をつく。
「私が妻にと欲するのはギルだけだ。身分を捨てたとしても、妻にと求める者はただ一人。ギルだけだ」
「テオ…」
ですよねー!!
俺も俺もと嬉しくなりながら、テオにスススと近付くとテオは嬉しそうに笑う。
こんな時にイチャイチャして申し訳無いけど、本来なら婚約パーティーの流れなんだから大目に見て欲しい。
「!!こ、こんな薄汚い田舎者の何処が良いの!?ここの誰よりも私の方が何倍も何百倍も美しいでしょう!?」
タニアは髪を振り乱しながら、ズイッと前に出て来る。
うーん。
帝都の薔薇とか何とか言われていた割に…って感じなんだよね。
容姿がバランモス公爵に似ていたら、そりゃ美人であったろうけど…。
正直、ジェレミー兄様やフロル様の方が格段に美しいし、俺だって負けて無い。
本当にこんな人が、貴族の中でもオシャレの権威みたいな顔をしていたんだろうか?
「…あの令嬢は鏡を見たことが無いのか?」
「ホセ様…」
ホセ兄様の呟きに、何人かが吹き出しているが、俺はグッと耐えたからね!
「何ですってぇ!!!」
あらあらあら。
ヒステリーは醜いねぇ。
そう思いつつ周りを見ると、周りの貴族達も何やら不思議そうな顔をしている。
ん?
あなた方が担ぎ上げてたんじゃ無いの?
そんな中、数人の貴族令嬢達がポツリと口を開く。
「…美しく無いわ。何故、あの方を盛り上げていたのかしら…?」
「私も…。何故、完璧な令嬢と思い込んでいたのかしら…」
おやおや。
何かが解けたのだろうか。
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