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201 推しと醜い恋敵
しおりを挟む「あ、あれがタニア嬢…?」
「おぞましい…」
黒いボゴボゴした塊に、顔が二つ付いてるのだ。
確かに気持ち悪い。
そうか、チョントの一部に吸収されていたから、所在が分かりづらかったんだな。
『て、テオドール。どこに居るの。私を、私を愛して…』
視界は随分と悪いみたいだけど、思考は図々しいままみたいだね。
フンと鼻を鳴らすと、テオは愛おしそうに俺を見ている。
俺のテオだよって思ってるのバレちゃった?
場違いながら、テオと目配せイチャイチャしていると、一人の魔術師が何かに気が付いた様に呟いた。
「タニア嬢と融合しているのなら、バランモス公爵家の攻撃は有効と言う事だろうか?」
「!!」
「確かに、チョントには攻撃が効かぬとしても、タニア嬢になら…?しかし、公爵令嬢であるぞ?」
「今しがた、廃嫡が決定したと聞いたぞ」
あ、そうだね。
何故かチョントの父親であるザラムゼフ伯爵は王都を出されたみたいだけど、ここにはタニアの親族がいるもんね。
話の流れを聞いていたバランモス公爵は、しっかりと前を向いて一歩前進した。
「…娘の落とし前は私が取ろう」
バランモス公爵は魔術の使い手でもあるみたいだから、少しはダメージが与えられたらありがたい。
それにしても、どうして皇帝ったらザラムゼフ伯爵を返しちゃったんだろ?
バランモス公爵が手を構えると、スッと横にサポート役らしき騎士が立つ。
がっしりした体型の、公爵より年上そうな方だけど、強さはここからでも分かる。
ジャメルでも帝国でもない服装をしていて、騎士なのだがどちらかと言うと神職者の様な格好だ。
「…ラッカルの聖剣であるサルマ殿だ」
「あの方が」
テオに言われてみれば、宗教大国であるラッカルの色がはっきりとあるな。
ラッカルの聖剣と呼ばれる、神殿騎士のサルマ。
先の戦争でも百人力とも呼ばれる戦力で、サンジカラを追い詰めた一人である。
短く切り揃えられた金髪と、真っ青な瞳。
それなりの年であろうが、体付きは筋骨隆々で剣も大きく立派だ。
今回は俺とテオの婚約パーティーに参加してくださった方々の、護衛の一人だと聞いている。
マド公爵家と懇意にしていて、今回はマド公爵が体調を崩されたそうで、護衛だけでもと手配したと聞いている。
「こんな姿になってまで…」
それ以上は言わずに、バランモス公爵は炎らしき魔術をチョント達に放つ。
小さく見えるが、あれは中々威力が高いな。
さすが、皇族。
そう思って事態を見ていたが、思いもよらない事が起こった。
『無駄よ』
「!!!!」
先程と同じ様に、チョント達の体に魔力が吸収されてしまったのだ。
「な、そんな。どう言うことだ!?」
「もしや、タニア嬢は不貞の…」
「!!」
周りが騒がしくなる。
バランモス公爵とタニアに、血縁関係が無いと出てしまったと言う事だ。
「ヌハリはその様な事はしない!!」
ここで、バランモス公爵が声を荒げた。
おお、いつも大人しい方なのに、奥方の事では激昂されるのか。
その勢いに、隣にいたサルマも驚いた顔を一瞬見せた。
「し、しかし…」
「現に、魔術が」
でも確かに、バランモス公爵の攻撃は効かなかったのだ。
そこへ、カルパがサッと前に出て手を構えた。
「ならば!!」
そう言って、今度は氷の魔術をチョント達に向ける。
「!!!」
そして、やはり魔術は吸収されてしまった。
それってつまり。
「…タニア嬢は、バランモス公爵と奥方の血は一切流れていないのでは」
誰かの呟きに、周りはシンとなる。
そう言う事だよね。
タニア嬢は、父であるはずのバランモス公爵の魔術も効かなかったし、母親が同じであるはずのカルパの攻撃も効かなかったんだから。
「元から、公爵家の人間では無いと言う事ですね」
俺がそう呟くと、バランモス公爵は真っ青になっていた。
「…そんな…。いや、確かにヌハリは私の子を…。まさか」
フラつくバランモス公爵を、サルマが優しく支えていた。
その間にもチョント達は怪しく蠢いている。
『…ふふふ。これで誰も私達に攻撃出来ないでしょう?』
『えエ。タニアサマ…。テオどーるでんかヲ、吸収シテしまいマショう』
ああ?
何寝ぼけた事言ってんのコイツら。
怒りを顔には出さずに、心の中で中指を立てつつも、俺は色々考察する。
タニアは普通に会話している様だけど、なんでこんなにもチョントは不安定なんだろう。
事前情報でも、タニアには大した魔力は無いと聞いている。
それなら、今の状態を維持しているのは全てチョントだろう。
サンジカラの魔術も駆使して、タニアを己の中に吸収して隠していたとしても、結構な魔力が必要だろう。
もしかしたら、麻薬やそれに近い薬を駆使して、既に中身も崩壊寸前なのかもしれない。
それにしても、ややこしい事になったな。
『今…ナラ…ぐふっ!!!ウウうう』
動こうとするチョントを、ホセ兄様がまた容赦なく切りつけ始める。
うん、地味だけど足止めにはこれが一番なのかも…。
それでも回復し続けるチョントに、周りは焦り出す。
「ざ、ザラムゼフ伯爵は…」
「帝都を出たと聞いているぞ!」
どうするんだろうとチラリと皇帝を見ると、異常に落ち着いているのは変わらない。
これは、ひょっとしたらひょっとするね。
『田舎者が小賢しいわね。チョント。バランモス公爵を先に取り入れておしまい。ザラムゼフも手が出せなくしなくては』
切り付け続けるホセ兄様を一瞥すると、タニアはチョントに指示をする。
『ふふフ。さすが、タニア様』
チョントはグッと、まるでジャンプする前のバッタの様に体勢を構える。
うーん気持ち悪いね。
サッとサルマがバランモス公爵を後ろに下げ、剣を構える。
来るか。
俺もテオも、飛び出す構えで、剣を前に出した。
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