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200 推しと不穏の始まり
しおりを挟む「次に、バランモス公爵家タニアの廃嫡が正式に決定した。タニアとその支援者達の悪行は皆も知っているだろう。それに伴い、タニアの筆頭支援者であったザラムゼフを呼び寄せ話をした所、タニアへの支援は息子であるチョントの考えだった事も判明している」
それでも息子に許可を出していたのは確かだから、ザラムゼフ伯爵にもそれ相応の処罰はあるみたいだけど。
「オレント伯爵に術を掛けた事は身に覚えが無いとの事で、チョントが父親に扮して悪事を行っていたと言う証言も出て来ている。処分については全容が明らかになってからと考えている」
なるほどね。
ザラムゼフ伯爵は、バランモス公爵の娘がテオと結婚して皇妃になると言う考えには反対していたそうだ。
ただ、テオと結婚してそれなりに裕福に暮らす事には賛成していたんだって。
バランモス公爵の娘だから、贔屓目で見ていたんだろうな。
「ザラムゼフには謹慎を言い渡し、処分が下るまでは帝都の外へ出る様言い付けてある」
ん?
ザラムゼフ伯爵を外に出したって事?
俺の戸惑いを他所に、皇帝は淡々と話を続ける。
「先程のリストに載っている、ドラゴンの管理者を侮辱した者達は、すぐさまナング地区へ輸送するよう手筈しろ。ドラゴンの怒りで帝都が焼け野原になる前に」
「かしこまりました。すぐに連れて行け!!」
皇帝の指示で、カグラに不満を言っていた貴族が一斉に取り押さえられる。
取り敢えず、カグラの問題は終わりかなと静観していると、一人の令嬢が外へ駆け出した。
「こ、こんな所で捕まるくらいでしたらっ!!」
そう言って、どこに隠していたのか、ナイフを手にカグラへ飛び掛かろうとする。
「カグラ殿!!」
咄嗟にハンクが庇う。
「ギャアッ!!」
俺がスイスイッと指を動かして魔術で令嬢を吹っ飛ばすと、令嬢はドスンと尻餅をつく。
「捕らえよ!」
「そんな…そんな…ハンク様…」
ああ、ハンクに横恋慕してた感じかな。
捕えられる令嬢をよそに、ハンクは恭しくカグラを気遣っている。
「大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。ハンク様はおケガはありませんか?」
「あなたが無事でしたら大丈夫」
おうおう、ラブラブやんけ。
そう思いつつも周りに警戒を強めていると、一人の伯爵が震えながらも前に出る。
「こ、こうなったら…!もはや帝国に未練は無い!!チョント様!!我々をお導きください!!」
お導きください??
チョント様??
その時、ズンと、嫌な気配が広間に近付いて来る。
俺は咄嗟に反逆者達を魔術で縛り上げて、隅っこに放り投げた。
「な、ギャアッ」
ドスンと隅へ飛ばされて、カエルの様な声を上げているが、無視だ無視。
「ぎ、ギル様?」
俺の近くに居た騎士達が何事かと驚いていたが、俺は気配のする入り口を見据える。
「彼らに構っている場合では無さそうです。何かが来ます」
俺がそう言って剣を抜くと、テオも剣を抜いた。
皇帝の前ではとてつもなく失礼だって分かってるけど、俺達の動きを見て、騎士達も剣を構え始める。
「…カグラ殿。下がっていてください」
「さ、こちらへ」
「…はい」
ジェレミー兄様とフロル様が、カグラを守ってくれるのを確認して、俺達はゆっくりと開き出した扉を凝視する。
『うぅ…ウ…。とキはキた…』
「「「!!!!」」」
ゆっくりと現れたソレに、みな息を飲む。
何あのバケモノ…。
人だとは思うけど…。
俺は冷静にソレを凝視する。
黒い大きな塊で、まるで薬を作る時の瓶の中の様に、ボコボコと音を立てて蠢いている。
そこに、チョントらしき顔が付いてるのだ。
「ひ、な、何だあれは」
「バケモノだ」
周りは怯えているが、父様兄様やジャメルの騎士、皇城の騎士達は、剣を構え始めている。
「さて、始まったか」
皇帝は思いの外落ち着いていて、スッとドムジンが前に出てチョントに魔術で攻撃を仕掛けた。
しかし、魔力はスゥッとチョントの体に吸い込まれて行く。
『ふグゥッ…ふフフ。きカぬ』
「!!」
「魔力を吸収していますね。魔術は効かない様です」
あら、予想してたみたいな言い方。
「サンジカラの魔術の一つだな。魔術攻撃はかえって相手の力になってしまう」
なるほど、そこまで分かってるんだ。
チョントはサンジカラの魔術を使い、バケモノになった上で、攻撃は受け付けないと…。
え、冷静に分析してる場合これ?
「ならば剣でしょうか」
ホセ兄様がそう言って、ものすごい速さでチョントをバババババッと切り付けた。
『ぅグッ…!う、ウゥきかぬ…』
傷はすぐに回復してしまう。
回復するけど、タイムラグがあるから、延々と切り付けていけば何とかなりそうな感じだね。
「ふむ。取り敢えずこのまま切り続けてみても?」
「構わないが、体力もいるだろう。何か策を…」
皇帝に許可を取ったホセ兄様は、そのままバババババと切り付け続け、チャントは少しずつ焦り始め、必死に回復している。
え、何この地味な作業…。
多分兄様が疲れたら次は他のジャメルの騎士がいるし、皇城騎士もいるし、最悪俺もいるし…。
『お、オノレ…。だがスグに回復…デキルぞ…!父ハおらぬカラな…』
父、ザラムゼフ伯爵ね。
「どう言う事だ?」
皇帝や周りも目配せしている。
確かに意味が分からないね。
「もしや、親族の者しか危害を加えられないのでは。サンジカラの魔術で聞いた事があります」
そこへ、バランモス公爵の息子であるカルパが呟く。
なるほど、だから父親を遠ざけようとしていたのか。
母親は既に鬼籍と聞いているし、親族ってどこまでが通用するかも分からないな。
そう思っていると、チョントの体の右側が大きく動き始める。
…虫みたいで気持ち悪い。
そう思っていると、聞いた事のない声が発せられる。
『忌々しいわね』
その声を聞いて、カルパは凍りつく。
「あ、姉上?」
え、姉ってタニア?
ギョッとしていると、チョントの右側にヌヌヌと顔が浮き出て来る。
美しい金髪と、緑の瞳の女性が、おぞましい表情でそこにいた。
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