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197 推しと敵の襲来に備えて
しおりを挟む俺とテオに用意された部屋は、それはそれは豪華な部屋だった。
扉も大きかったけど、中に入って驚いたのはその窓の大きさだ。
中庭が綺麗に見えるし、空もとても広く感じる開放感だった。
「全てに最上級の護衛魔法が掛かっているが、今日は安全の為にカーテンを閉めておこう。このカーテンも特注品で、外からは中に誰も居ない様に見えるんだ」
「凄い刺繍だね。…テオ。少し聞きたい事があるんだけど」
部屋に用意されているこれまた立派なソファーテーブルセットの一つに、俺とテオは横並びになって座る。
テーブルには既に暖かいお茶と軽食が準備されており、手筈の良さも流石だなと感心した。
「どうした?」
「ねぇテオ。皇帝閣下は随分と落ち着いてらっしゃるけど…」
明日がXデーだとしたら、明日に備えて俺達がゆっくり休まされるのも分からなくは無いけれど、本人も随分とゆったりした感じを受けたんだよね。
俺がそう言うと、テオは苦笑した。
「いや、アレは兄なりの気遣いだ。せっかく婚約をした私達が、異常に気を使わなくて良い様にとの考えだろう。皇妃や皇太子が心配していただろう?兄は国の為なら、命を落とすくらいの無茶はするからな…。しかもそれを周りには気付かせない様に振る舞える。…皇妃や皇太子は気が付いているが、皇帝の考えを尊重するからな。きっと、既に水面下で動き始めているし、敵の動きも掴んでいるだろう」
「なるほど」
やだ、皇帝ったら思った以上に腹が決まってたんだね!
と言う事は、既に裏切り者の尻尾を掴んでいるのかもしれない。
父様達も、何も心配無いと振る舞っていたけど、きっと俺達が部屋に引っ込んだのを見届けてから、また会議に参加してると思う。
そっか、本当なら今日は俺とテオの婚約パーティーだもんね。
気を使わせちゃったな。
「そうそう。話は変わるが、令嬢達が口々にワークの行いを告発しに来たのには裏があったんだ」
「裏?」
何だろうと聞くと、テオは少し可笑しそうに笑う。
「何でも、ワークは言葉巧みに令嬢達を操っていたのだが、数人の令嬢がガルドルを紹介すると言われていたそうだ」
「ええ!?」
ガルドルってガルドル伯爵だよね?
可愛らしい婚約者を見せに来て、ラブラブアピールしてたよね?
「ワークもまさかガルドルが裏で婚約していたとは知らなかった様で、独身貴族で人気の高いガルドルを、勝手に餌として利用していたそうだ。だが、今回ああやって周りに発表しただろう?勝手にガルドルとの関係を夢見ていた令嬢は一人だけでは無かったみたいでな。目が覚めた令嬢達が親に泣き付いたそうだ。始めは憤慨していたが、自分の娘の失態に気が付いた様で青くなっていたと」
あらあら。
可愛い娘が騙された!って意気込んだものの、蓋を開ければ国家反逆のお手伝いだもんね。
やっぱり教育って大事だと痛感する。
「それにしても、ワークもチョントも、詰めが甘すぎるね」
「やはり、彼らも麻薬を使用しているのだろう。自分達に都合の良いモノしか見えなくなっている。きっと利用した令嬢達の事も判別が難しくなっているのだろう」
使うだけ使って、こっそり処分しそうなものなのに、あっさり裏切られている所を見ると、本当に判別も難しくなっているみたいだね。
「でも、それなら恐怖心も無くなっていそうで心配だね。こちらが想像するよりも無理な事を平気でしてきそうだ」
「ああ。最初の計画など忘れているかもしれん。平気で命も捨てそうな危うさがある」
トーレのサンジカラ関係の人間達は、まだ判別が付いていた気がする。
自分達の欲望も、しっかり把握していただろう。
しかし、チョント達は全てを投げ打ってでも、周りに攻撃しようとする気配がするのだ。
「でも、本当にタニア嬢の姿は無かったんだよね。気配も感じられなかったし…」
「ああ、彼女にもまた何かが起こっているのだろうが…。そうそう。彼女の乳母なのだが、もしかしたら入れ替わっているかもしれない」
やっぱり?
どう言う事かと聞くと、タニアの乳母は、カルパが産まれて以降顔を隠す様になったそうだ。
診断の結果も本人であったから、問題は無いだろうとされていたのだが、その診断書が偽装された疑いが出て来たのだ。
「タニアの子供が誘拐された疑惑があるとの事で、再度色々な事が調べられたのだが、乳母やらの診断書に不備が見つかったのだ。今までは強い魔術が掛けられていたのだが、ギルがこちらに来てから、その魔術の術式がズレ始めた様で、見えなかったモノが見える様になって来たそうだ」
「見えなかったモノ…」
「ああ、これは強い魔術だ。多分誰かの命やらを掛けた魔術の一つだと考えられている。それか、生きながら生贄にされる禁忌の一つだろう」
国を騙すくらいだから、まあ恐ろしい魔術だよね。
学園で習ったけど、世界には多くの禁忌とされる魔術がある。
その多くが誰かの命を使ったモノだ。
自分の命と引き換えに呪ったり、誰かの命を捧げたり。
トーレやこちらでもあった、自分の魔術で更に強い魔術を掛けてしまうのもその一つだね。
「どうして、生きながら生贄だと?」
俺がそう聞くと、テオは苦々しい顔をする。
「…本物の乳母とされる診断書を見た所、存命だと出たのだが、彼女の力が偽物と見られる乳母の診断書に影響を与えていた。恐らくだが、彼女はどこかで生かされている」
「!!」
スノラリアからの令嬢と聞いているが、スノラリアは雪国で、魔術にも秀でた国だったはず。
帝国の公爵家に嫁いて来る位だから、優秀だっただろう。
その令嬢の力を操って利用するなんて、やはりサンジカラ絡みなんだろうか。
「今は、彼女の行方も追っている。彼女が見つかれば、謎の解明にも繋がるだろう」
「そうだね。…明日は長い一日になりそうだね」
「ああ。今日はしっかりと休もう」
そう言いつつも、テオはゆっくりと俺にキスをする。
もっとと言いたいけど、嵐が過ぎるまで我慢だよなぁ…。
そう思いつつ、俺はテオの腕の中で眠りにつくのだった。
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