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196 推しと帝国の魔術師達
しおりを挟む「取り敢えず、護衛や監視の番を不定期で交換する事にする」
「うむ。それが良いでしょうね」
「それでしたら、組み合わせも変えた方が?」
俺とテオが皇帝達の元に着くと、皇室魔術師達が熱心に話し合いをしていた。
「…どうやら、魔術師達の中に裏切り者がいるかもしれないと考えて、今までの役割を変更する案が出たそうだ」
そこに、父様が来て説明をしてくれる。
チョントの牢の件もあるし、犯人はまだ分からないけど、手を打っておく必要はあるもんね。
「テオドール。ギル殿」
皇帝に呼ばれ、俺とテオは皇帝の話の輪に入る。
既にバランモス公爵やカルパに起こった事なども説明されており、皇帝も立腹していた。
「叔父上には別に護衛を付ける。少し不自由になるだろうが、我慢して欲しい」
「いえ、感謝します。それと、タニアの行方が分からなくなっていると聞きましたが…」
「ああ、乳母も捕らえて尋問したのだが、どうやら乳母も行方を知らない様だ。どこかで匿われているか…」
ん?
そう言えば、あの時チョントはタニアもここにって言ってたよな?
タニアの姿は見えなかったけど、もしかしたら近くに潜んでいるんじゃ無いだろうか。
そう思い、魔術師達には聞こえない様に魔術を掛け、皇帝達に進言する。
「…ふむ。そうなると、動き出すのは明日か…」
「チョントは魔術師ではあるが、そこまで強い力は持ち合わせていなかったはずだが。しかし、サンジカラが関わっているとしたら、何かしらの策があるのだろう。私を狙うと言うのなら、受けて立つまで」
テオと皇帝の話を聞きつつも、皇妃が心配そうな顔をしながら話に入ってくる。
「皇帝を亡き者にと考えているのでしたら、危険なのでは?あまりご無理をなさらないで…」
「そうですよ父上」
皇太子にも釘を刺され、皇帝は頭を掻く。
愛妻と息子には弱いんだなと微笑ましく思った。
「しかし、そこまでテオドールに懸想しているとはな…。ギル殿も危険なのでは無いのか?」
おっとこちらに飛び火したな。
「ギルは私が守ります。…まぁ、ギルだけでも十分強いですがね」
テオの言葉に嬉しいと喜びつつ、俺もテオを守ると気合を入れる。
取り敢えず、今日は休息を取りつつも厳戒態勢を維持しつつ、チョントがどこから来ても大丈夫な様に、警備体制を幾らか変える事になったみたい。
それと、明日は早々にグリーンドラゴンの管理者であるカグラの正体を発表するらしい。
ドラゴンが釘を刺したにも関わらず、俺達ジャメル家もドラゴンの言葉を理解出来た事が広まってしまっていて、カグラ不要論を口にするバカな貴族が、やっぱり出て来たんだって。
早めに彼の身分とドラゴンの考えを浸透させて、バカな貴族への釘刺しも兼ねてるんだ。
「…ゼンドラルの家系に喧嘩を売ったと知ったら、気が動転どころでは無いだろうな」
「ええ、しっかりと対応させて頂きますよ」
おお、ゼンドラル公爵ったらしっかりと怒ってたんだね…。
さて、魔術師達は大丈夫かなと聞き耳を立ててみると、ドムジンが少し不満そうな顔をしていた。
「…仕方ありませんね。私は明日から皇帝の護衛を務めさせて頂きます」
「ああ。頼みます。ビャールは西門の護衛に回って欲しい」
「分かりました」
魔術師長であるダイナレートがテキパキと指示をしている。
「それでは、私達は持ち場へ向かいます」
「私は東の城門の外ですね。久しぶりなので緊張します」
「私も一緒ですから、気を張らずに…」
ダイナレートは平民上がりだが、部下達はしっかりと彼の指示を聞いており、信頼の厚さが伺える。
「さ、ドムジン様。お役目をしっかりなさってください」
「…ビャールも気を付けてね」
「もちろんです。ドムジン様も気を付けて」
おうおう、今生の別れじゃ無いんだから…。
「はいはい。持ち場に付いてくれ」
ドムジンとビャールのいちゃつきっぷりに苦笑しつつ、ダイナレートは魔術師達をそれぞれの場所へと送り出す。
ドムジンは皇帝の護衛の一人だから、この場に留まるはずなのだが、準備があるとの事で明日集まる予定の広間へ派遣されていた。
「…さて、ダイナレート。誰が裏切り者か大体の予想は付いたのか」
その場から魔術師達が居なくなると、皇帝がそう言って切り出した。
「…予想ですが。取り敢えず怪しいと思った者には罠を仕掛けた場所を見張らせております」
なるほどね。
ダイナレートには何人か予想が出来ているそうで、どこで何を聞かれているか分からない状態なので、今は何も話せないと言った。
「兄上。詳しく聞かなくても良いのですか?」
「ああ。大丈夫だ。ダイナレートは明日は叔父上の護衛を頼む」
え、魔術師長をバランモス公爵につけちゃうの!?
てっきり、彼も皇帝の護衛の一人かとおもってたけど…。
他の護衛がバランモス公爵とジュレス公爵夫夫を、休む部屋へと案内しに部屋の外へと連れ出して行く。
「さて、叔父上の件について、まだ聞いていない事があるのでは無いのか?」
おお、皇帝閣下ったら、さすがですね。
俺は驚きつつも顔には出さず、テオが先程の話を詳しく話してくれるのを静かに聞く事にした。
「…なるほど。ザラムゼフ伯爵なら命を懸けてでも叔父上を守る為に、チョント達の前に立ち塞がるだろうが…。チョント達にとって危険因子とは何故か。やはりサンジカラの魔術が関係しているのだろうか」
「そうでしょうね。それに、タニアがここにいると言ったチョントの行動にも疑問が残ります。ギルが言うには、タニアの姿はどこにもなかったとか」
「うむ。ますます不穏だな。ギル殿、今の牢はどの様な?」
少々お待ちくださいと、牢の様子を伺うが、モヤのようなモノを張られていた。
しかし、じっくり見るとやはりチョントとワークの姿しか見受けられない。
「…やはり、タニア嬢の姿はありません。しかし、チョントの言葉が本当なら、上手く隠しているのかもしれません」
「ふむ。確かにタニアの足取りはなぜか掴めていないからな。分かった。客人達には先に休んで貰おう」
そう言われ、家族と俺とテオは一旦与えられた部屋へ戻る事にした。
明日が山だと言うのに、皇帝は随分と落ち着いているな。
そう思いつつ、俺は与えられた部屋へと向かうのだった。
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