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193 推しとラッカルの貴族
しおりを挟む「私の不妊は、あの宝石のせいだったんでしょうか…」
カルパの呟きに、胸が痛む。
「ああ、カルパ。もう大丈夫だろう。辛い思いをさせてしまって…」
「ジンギ様…」
二人は結婚して数年経っているのに、子供が出来ずに悩んでいたんだって。
ジュレス公爵はラッカルでも名家であり、人気も高かった事から、カルパへの風当たりは始めから強かったそうだ。
そこへ姉であるタニアの愚行、自身の不妊も加わり、離縁の話を勧める貴族まで出て来ていたと言う。
「この様な行い。許される訳がない。帰国次第、しっかり糾弾しよう」
「ええ、本当ですわ。スイレン神の教えにも背く行為です。許せませんわ」
ジャクリ公爵夫妻は、穏やかな笑顔を見せているが後ろに恐ろしい鬼と般若が見える。
ラッカルの三大公爵家を敵に回して、果たして無事に終わるのかね。
それに、カルパの母親はラッカル三大公爵家の一つのマド公爵家出身だ。
そのバランモス公爵へ嫁いだヌハリ夫人は、現マド公爵がかなり溺愛していた弟だったはず。
マド公爵は三大公爵家の中でも一際魔力と聖力が強く、敵には回したくない相手のはず。
「まさか、カルパにまで魔の手が…!そうだな、こうしてはいられない。身分も捨てラッカルへ出家を考えておりましたが、やはりしっかりと膿を出し切らねば。私には帝国でやるべき事が残っている」
先程まで打ちひしがれていたバランモス公爵は、こうしては居られないと背筋を伸ばす。
おお、これぞ愛国者の鏡。
感心していると、ジュレス公爵も大きく頷いた。
そして、カルパを優しく抱きしめる。
「カルパに宝石を送ったグルーミ伯爵家は、私にしつこく令嬢との婚約話を持って来ていた所です。全てお断りし、カルパを迎えてからは接触が無かった筈なのですが、私の目を盗んで巧妙に接触していたのでしょう。…私の注意でカルパを傷付けてしまって…」
「いいえ、いいえジンギ様は悪くありません。私も不注意でした」
「いや、帝国の大事な令息を、無理を通して迎えたのだから、私がもっと気を付けるべきであった。バランモス公爵。私の不手際です」
「ジンギ様…」
おお、本当にカルパを大切にしてるんだね!
二人のラブラブっぷりを見せ付けられつつ、テオは咳をした。
「コホン。やはりどの国でもサンジカラに利用されてしまう貴族がいるのだろう。今回招待した方々は大丈夫だろうが、どうか国に帰っても気を付けてほしい」
「ええ。本当に巧みに接触して来ますね。我々も摘発はありましたが、油断出来ません。帰国してから王家へ報告しなくては」
セルジオ様も他国の方々と話している。
その間にジェレミー兄様とフロル様にお願いして、カルパへの治癒をお願いする。
「失礼します。少し魔力を送りますね」
「はい。ありがとうございます」
治癒が始まり、周りも今後について話し合いを始める。
何日か滞在してから、国に帰る予定にする人や、早めに帰国を考えてる人もおり、テオが呼んだ大臣などが手続きを進める。
その隙に、俺はダイナレートに渡した魔術を込めた紙を辿る。
『…大丈夫です。タニア様はこちらに…』
『…さすがですチョント様』
『トーレからの婚約者さえ消せれば…。タニア様をテオドール殿下と結婚させ、皇帝を殺してタニア様を皇妃に…!』
『明日には援護が来ますゆえ、少しの辛抱です。チョント様、お父上は?』
数人が、牢屋内でコソコソとヤバい話をしている。
チョントと、サンジカラの刺客だった観劇の主催者であるワークと、後は顔を隠しているから分からないな。
『父上は謹慎として欠席しておりますから、大丈夫でしょう。父上がいらっしゃったら、危険なのですか?』
『ええ。ザラムゼフ伯爵の剣の腕は衰えていないでしょうから、もしもの時はチョント様。並びにタニア様の危機でございます。いらっしゃっても、なるべく近付かない様に』
『ふむ。気を付けましょう』
なんだ?
ザラムゼフ伯爵が来たら問題があるって、どんな仕組み?
自分の息子が捕まって、牢屋から逃げてまた捕まったんだから、普通は呼ばれるよねぇ…。
『バランモス公爵も、邪魔になりましたら消しても…』
『そうですね。問題は無いでしょう』
いや、問題あるでしょう!!
もう少し情報を、と思って力を込めると、顔の見えない男が何かを察した様で、強い目眩しの魔術を使われ、声が聞き取り難くなる。
中々やる魔術師がいるんだな。
俺はサッとテオに視線を向ける。
「…どうした?」
優しい顔もイケメンだとキュンキュンしつつも、俺は小声で大事な話があると呟く。
テオはすぐに理解してくれて、話を始める。
「…ここは一旦、私とギル、叔父上とジュレス公爵夫妻は皇帝に話をしに行こう。セルジオ殿。こちらで待って頂いてもよろしいか?」
「ええ、大丈夫です。大叔母もいらっしゃいますし、今後のサンジカラついても話がしたいですので」
ジェレミー兄様とフロル様も、俺の代わりに皆さんのお相手を快諾してくれた。
取り敢えず俺達は、バランモス公爵家の子息への悪意のある行為を告発しないとね。
前皇帝の弟であるバランモス公爵の息子に手を出すって、中々失礼だからね。
あっちに行ったりこっちに行ったり忙しいけど、今は仕方ないよね。
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