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192 推しと敵の目的
しおりを挟む「セイレートと帝国の仲を壊そうとしたのでしょうね」
「ああ。サンジカラはエルフと手を組もうと考えていたのだろう。しかしエルフ族も馬鹿では無い。何度かラッカルにもセイレートより接触があり、サンジカラの人間には警戒する様にとの連絡があった」
ジャクリ公爵夫妻の言葉を、皆は重々しく聞いている。
エルフは仲間を大切にする。
子供を攫ったとなると大事だ。
「何と言う事だ…。私の首で済めば良いが…」
弱々しく呟くバランモス公爵に、カルパも悲痛な顔をしているが、ジュレス公爵は大丈夫ですと力強く言う。
「テアは我々が手厚く保護してあると説明してありますし、実際テアはとても健康に成長しております。極秘でセイレートの泉も訪問しましたし、エルフとして暮らす事も考えて教育していると伝えた所、安堵しておりました」
おお、ジュレス公爵って出来る男だね。
「そして、帝国や義父上の長年のセイレートへの援助なども感謝していると。義父上とタニア嬢は別の問題だと考えているとの事です。サンジカラが関わっているとあちらも疑っていたそうなので、どうぞご安心ください」
うん、予想以上に出来る男だった!!
事前情報だと、ラッカルに留学したカルパとは、剣術指導をする臨時教師と生徒の関係だったらしい。
その時にカルパに一目惚れしたジュレス公爵は、あの手この手を使い、パラット共和国への一時的な移住も受け入れて、カルパに求婚したそうだ。
ラッカルの公爵家でジャクリ公爵家とも親交が深く、美丈夫なジュレス公爵はそれはそれはモテモテだった様だが、そこまでして求婚してくださるならと、帝国も許可を出したそうだ。
もちろんカルパ本人も憎からず思っていたそうだから、トントン拍子だったみたい。
カルパは帝国でもラッカルでも人気があったから、落胆した殿方も多かったみたいだけどね。
「ジンギ殿…。何から何まで、苦労をかけてしまった。深く感謝する」
「いいえ、お気になさらず。義父上はどうぞ今はご自愛ください。心労が多かったと聞いております」
優しく告げるジュレス公爵に、周りも頷いている。
最愛のカルパに瓜二つの父親にも、全力で尽くすとはやるねぇ。
そう思っていると、ふとジェレミー兄様が難しい顔をしている事に気が付いた。
そっと近寄ると、ジェレミー兄様は小さな声で話し掛けてくる。
「…ギル。お話の途中だけど、少し気掛かりな事があるんだ」
「どうしたの?」
「ギル。カルパ殿に意識を集中してみて。何か感じない?」
何だとカルパに意識を集中すると、胸元に僅かだが魔術の気配を感じ取る。
おお、ジェレミー兄様やっぱり凄い…。
「…お話中失礼します。カルパ様。胸元に何か…」
俺とジェレミーの様子を見ていたテオは、何かあると察してカルパの胸元を見る。
ジュレス公爵も先程の俺の力を見ているからか、察した様で、カルパを立ち上がらせて俺達に歩み寄る。
カルパの胸元には、金のオーバル型に深緑の石を使用したブローチが輝いている。
「ええと。こちらは…。確か行商の方からの薦めだった様な…」
一瞬、カルパの目の奥が暗くなるのを俺は見逃さながった。
「カルパ様。私の目を見てください」
「え…」
ゆっくりと魔術を送ると、カルパの目の曇りが少しずつ晴れてくる。
「え…。こちらはラッカルの、グルーミ伯爵夫人に…頂いたのです。アレ?お守りだと…。お聞きしたのですが…。どうして…。親しくも無い方ですのに…」
混乱した様に呟き出したカパルを、ジュレス公爵が優しく支える。
ジュレス公爵に目線を送られ、俺は頷いてハンカチ越しにブローチに手を掛ける。
周りも、固唾を飲んで見守っている。
「…失礼します」
パンッと乾いた音がして、ブローチが外れると、カルパはジュレス公爵の肩に倒れ込む。
「あ…、わ、私は」
「大丈夫かカルパ」
ジュレス公爵は、カルパをそれはそれは優しく抱き上げると、ソファに座らせる。
「ギル、それはまさか」
「ええ、ご覧ください。先程までは深緑に見えていましたが」
テオの言葉に、俺は皆に見える様にハンカチに乗せたブローチを見せる。
「!!赤と緑…。サンジカラの宝石か!」
「まさか、カルパ様にまで魔の手が…」
周りが騒つく中、俺とジェレミー兄様は宝石に込められた魔術を調べる。
「どうして大事にしていたのでしょう…。ジンギ様に頂いたブローチより、大事なものなどありませんのに…」
「君が気に入っているのだろうと思っていたが…。まさかグルーミ伯爵夫人とは…!ああ、すまないカルパ。君の不調に気が付かなかった」
「いいえ、ジンギ様に責任はありませんよ」
二人のやり取りで、本当にお互い大事にしあっているんだなと感じる。
「ギル。どんな魔術が?」
「…これは」
随分と悪趣味な魔術だった。
俺がチラリとジェレミー兄様を見ると、兄様は頷いて俺の代わりに説明を始めた。
「こちらの魔術は、避妊です。術を掛けたお相手の、ご懐妊を妨げる魔術が掛けられています」
「なんと!」
「そんな…」
ジェレミー兄様の説明に、ジンギは憤怒し、カルパは青ざめる。
周りも、なんて非道なと非難し始める。
「サンジカラの宝石が関わっていると言う事は、こちらも掛けられた相手の魔力で威力が強まるのか?」
「そうでしょうね。厄介な魔術です」
そんな会話をしていると、テオが呼んだらしきダイナレートが、数人の魔術師と宝石を回収して行った。
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