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190 推しと恋敵の父親
しおりを挟む「ただいま戻りました」
俺達が皇帝達のいる部屋へ戻ると、多くの騎士や魔術師達も勢揃いしていた。
オレント伯爵への治癒を行なって来て、現在は落ち着いていると報告しておく。
「他にも数名術を掛けられていた方が見つかりました。現在治癒中です」
「ザラムゼフ伯爵と親しくしていた者ばかりです」
例のチョントの父親か。
タニアとテオを結婚させて、テオを皇帝にと考えていると前に聞いたけど。
何故そこまでと考えていると、ドアがノックされて一人の紳士が部屋へ通される。
耳までに切り揃えられた黒髪と、黒い瞳の美しい中年の男性だ。
佇まいも上品で、すぐに上位貴族だと分かる。
「叔父上」
テオの言葉に、前皇帝の弟であり、タニア嬢の父親であるバランモス公爵だと気付く。
娘に似てないね。
失礼ながら公爵の方がずっと上品で美人だな。
バランモス公爵は俺達家族に気が付くと、申し訳無さそうな顔をした。
「テオドール。ギル殿。ジャメル家並びにトーレ王国の皆様。せっかくの婚約だと言うのに、娘が大変迷惑を掛けてしまった。申し訳無い」
そう言って頭を下げる。
慌てて頭を上げてもらうが、バランモス公爵は覚悟を決めた様な顔をしている。
「会談中にすまない。皇帝閣下。私は爵位を返上したいと考えている。周りに迷惑を掛ける前に」
そうハッキリ言うと、周りは騒つく。
「バランモス公爵。あなたが返上する必要は無いのでは?」
「ええ。公爵亡き後返上と言う形でも問題無いかと…」
おや、周りは結構庇うんだね。
事前にテオに聞いていた情報によると、娘の行動や暴走をしっかりと注意していたみたいなんだけど、周りがタニアを囃し立てて好きにさせるもんだから、公爵も参っていたみたい。
学園を卒業する前に家を出て、家には寄り付かず、支援者の準備した館で自由気ままに暮らしてたんだと!
もう一人の子供であるタニアの弟は品行方正、優秀にしっかりと育ち、ラッカルの高位貴族へ嫁いでいるらしいけど、姉とはソリが合わず没交渉なんだとか。
ラッカルの貴族から縁談が来た際も、断って公爵家を弟に継がせては、との声があった程だとか。
国同士でも良い縁だった事と、本人の希望も考慮されて、嫁いで行ったそうだけど、その時にはバランモス公爵は、自分の代限りにしようと決めていたそうだ。
「元々、私の代限りと決めておりましたが、娘の失態があまりにも続いております。私が公爵として存続し続ける事も、国民への信頼に掛けると考えております」
「何を言いますか。叔父上の献身は国民も良く知っています。タニアは既に成人しており、彼女の除籍の手筈は既に済んでおります」
バランモス公爵の言葉に、皇帝がそう言うって事は、本当に国に献身的な方なんだろう。
テオに聞いていた話だと、兄であった前皇帝をとても尊敬しており、国の発展の為に国外有数の貴族と結婚し、魔物戦争の時も民の為にと自分の資材を使って多くの施しを与えたと聞いている。
亡くなられた奥方はラッカルの公爵家出身で、息子を産んですぐに亡くなったと聞いている。
その縁もあり、ラッカルから乳母や家庭教師を派遣され、優秀に育ち、ラッカルヘ留学中に貴族に見初められたと言う。
タニアにも派遣されたのだが、中々ソリが合わずに、結局自分を甘やかす周りに流されて行ったのだとか。
タニアの周りの人達も、良くなかったんだろうなぁ。
「それに、今爵位を返上すれば、ご子息であるカルパ様にも影響があるでしょう。本日は婿殿であるジュレス公爵もいらしている。一度話をしてみてはどうでしょう」
ゼンドラル公爵の言葉に、皇帝は大きく頷く。
「うむ。別室で待機している。前回と今回の件でカルパはジュレス公爵に迷惑をかけぬ様にと、離縁を考えていると言っていた。もちろんジュレス公爵は大反対していたが。お互いに頭を冷やして少し話してくると良い。テオ。ギル殿と共に叔父上と話をして来てほしい」
お、何か分からないけど、大役を仰せつかったな。
まぁ、俺とテオの婚約パーティーな訳だし、二人で他国の大事なお客様にお礼をしつつ、今回のタニアの件は気にして無いですよアピールをしておくのも大事かもね。
「そうそう。ラッカルからの客人でジャクリ公爵夫妻もいらっしゃっております」
おお、セフ夫人!!
それは挨拶に行かないとな。
せっかくの婚約の場に来てくださった方々に、しっかり対応するのも今後のレモルト公爵としての仕事だよね。
とりあえず、俺とテオ、セルジオ様とジェレミー兄様、フロル様が一緒に行く事になる。
「スノラリアの客人も数名いらしているからな。遠い所から来てくださったから、しっかり挨拶をしておこう」
そう言えば、俺とテオの婚約の後に、帝国の皇子であるネラが嫁ぐって聞いたな。
それ以外にも、最近スノラリアは帝国との交易が盛んらしいから、しっかり対応しておかないとかいけないね。
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