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183 推しとドラゴンの管理者
しおりを挟む帝国の貴族が一瞬で消された話は、流石に皆知っている様で、コクコクと頷いていた。
「それにしても、ギル様以外の方が管理をしている状態なのですか?」
一人のご婦人が不思議そうに尋ねて来た。
そりゃ鋭いツッコミが入るよねぇ。
「管理と言いますか、レッドドラゴンは我がジャメル領で自由にしております。もちろんギルが連れて来たのですから、レッドドラゴンの夫夫はギルを尊重しておりますよ。鱗もギルとテオドール殿下に一番良いものを渡すと申しておりました」
おっとそうだったのね!
通りで俺とテオの鱗は人一倍輝いているはずだよ。
父様のフォローに、ホセ兄様も大きく頷いた。
「ドラゴン達もギルが賢者であり、多忙である事は理解しております。ドラゴンリーフの農園は我々が管理していますが、設計やその後の薬の製法など細かく提案したのもギルなんです。とても効率良く動かせていますし、ドラゴン達の住処も好評です。先程話した子供のドラゴンは、父にとても懐いておりまして、父の家とジャメルを良く行き来していますが、夫夫は彼らの希望でジャメルでゆったりと暮らしていますよ」
その説明に、周りは納得していたが、俺が一緒に生活をしていないってのは、カグラみたいに共闘する感じでは無いって思われても仕方ないのかも…。
「子供のドラゴンは好奇心旺盛で、私や父と稽古をするのも好きなので、戦い方も日々学習しております。もしもの時は夫夫のドラゴンと共に、彼も戦力になるでしょう。私も父も日々鍛えておりますが、こう見えてギルも中々の腕なんです。魔術は我が国の中でも飛び抜けていますし、剣術はしっかり我々が教え込んでおりますので」
おお、ホセ兄様ナイスフォロー!
と思ったけど、カーリンと稽古って何…。
父様達、最近更に強く逞しくなってるなと感じてたんだ。
どちらも妻を迎えて張り切ってるのかと思ってたんだけど、ドラゴンと稽古してたの!?
チラリと周りを見ると、帝国の騎士達は引き攣った笑いをしている。
「ドラゴンと稽古が出来るのか…?」
「末恐ろしい…」
「やはりジャメル騎士団は格が違う…!」
そりゃそうだよね。
どこの世界にドラゴンと稽古する奴がいるのさ。
いや、俺の父と兄なんだけどさ。
「ああ、ギルの実力は私が良く知っている。魔術も素晴らしいが、剣術も中々見事だ。私の一撃もしっかり受け止める事が出来るからな」
「殿下の剣をですか!?」
驚く騎士達に、テオはそうだと頷き、今度はカグラに声を掛ける。
「そうだ。そしてギルの剣も中々重く力強い。カグラ殿。自己犠牲を考える程に国を思ってくれてとてもありがたいが、貴方を大切に思う人々も多い。あまり無理をせず、今後は周りにも甘えて良いのだぞ」
「殿下…。ありがとうございます」
カグラのホッとした表情に、今まで張り詰めていたんだろうと察しが付く。
聞けば、帝都よりレモルトに近い領土の、それなりに大きな農家の末の息子だとか。
そんな状況でドラゴンの管理者に選ばれ、あれよあれよと帝都に連れて来られて爵位を貰ったものだから、始めはさぞかし居心地が悪かっただろう。
いきなり伯爵位だし、容姿も良く騎士達にも人気が出た為、嫌がらせもあったみたい。
例の伯爵が消されてからは、嫌がらせ行為も無くなったみたいだけどね。
「あまりしつこい縁談などがある時も、周りに相談する様に。困った時はゼンドラルもいるからな」
「はい。ゼンドラル公爵にも大変良くして頂いております。縁談…。そうですね。ドラゴンの管理者となるとやはり皆様、お声掛けしやすいのでしょうか」
少し困った様に笑うカグラに、縁談が沢山来てるんだなと想像する。
大きな農家の息子だから、それなりに良い暮らしをしていたみたいだけど、いきなり貴族の中に放り込まれたら混乱するよね。
こちらではゼンドラル公爵が後見人らしく、とても可愛がってもらってるみたい。
…孫みたいなもんよね。
「カグラ殿には、その、想い人などはいらっしゃらなかったんですか?」
俺がそう尋ねると、周りの騎士達が聞き耳を立てているのが分かる位、カグラは人気がある様だ。
「ええ。特にお相手はおりませんでした。兄達は歳も離れており、すでに子供もおりますが、私と年齢が近いくらいなんです。縁談の話も、まだ早いと言われておりましたから」
おお、箱入り息子だったか。
聞けば年齢は二十二との事で、相手がいてもおかしく無いんだろうけど、こんなに可愛かったら、歳の離れた兄弟や親も心配しちゃうよねぇ。
帝都に来る時は、ドラゴンがいたし皇帝からの声掛けもあったから、泣く泣くカグラを送り出したそうだ。
「ふむ。それならなおの事、国やゼンドラルが責任を持って相手を探すだろう。もちろん乗り気で無いのなら断れば良い」
まぁそうなるだろうね。
グリーンドラゴンの管理者だし、国に囲い込みたいだろう。
それもあるけど、先程の覚悟を聞く限り、カグラ本人も帝国を愛している様だから、こちらで良い縁があれば良いね。
「はい。実は、いくつかお話を頂いておりまして…」
照れながらそう言うカグラに、周りが騒つく。
ふふふ、一足先に抜け駆けしたのは誰かなぁ?
こりゃ、お相手探しも大変そうだね。
それにしても、うちのドラゴンはジャメル家の者は話せたから、みんなそうだと思ってたんだけど、他は管理者とその血を継いだ中でも選ばれた者だけらしい。
お祖父様は話せないから、ジャメルの血族だけ何か特別なんだろうか?
それにしても、グリーンドラゴンリーフは、俺が生まれる前には既に栽培されてたはず。
つまり、カグラはその血縁者って事になるけど、
元の管理者って誰なんだろう。
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