189 / 247
182 推しと帝国のドラゴン
しおりを挟むそこに、小柄で細身の青年が、騎士に連れられてこちらにやって来た。
「初めまして。私は帝国でドラゴンの管理を任されております、カグラ・ソリュートと申します。伯爵位を頂いておりますが、平民の出ですので、失礼がありましたら申し訳ありません」
おお、この人が!!
ボブっぽい黒髪と、瞳は黒と緑が混ざったキレイな色をしていて、少しそばかすがあるが健康的で可愛らしい青年だ。
想像していたより随分と若く、可愛いね。
もしかしてドラゴンに消された伯爵って、彼にも手を出そうとしてたんじゃ無かろうか。
そんな下世話な事を考えつつ、俺達もそれぞれ自己紹介をした。
「ギル様とテオドール殿下には、直々にお礼を申し上げなければと思っていたのです」
「お礼ですか?」
お礼を言われる様な事って、何かしたっけ?
俺とテオが不思議に思っていると、カグラは実はと話し始める。
「レッドドラゴンが帝国外れの岩山に潜伏していた時に、我が国のドラゴンであるモモルルも気が付いておりました。皇帝閣下へ進言し、もしもの事があった時は、モモルルが全力で対応する事になっていたのです」
帝国のドラゴンって、モモルルって言うのか…。
可愛い名前だなと思いつつ、もしもの時とはと聞く。
「あの時、レッドドラゴンは産気づいておられたのでしょう?そしてとても危険な状態であった。もしも出産が無事では無く、最悪の事態が起きた時、番であるドラゴンは発狂して暴れ回った事でしょう。その時は我が国もトーレ王国も大変危険だったはずです」
おおっと、思った以上にもしもの時だった!
あの時は俺が会話が出来た事と、テオが持っていたレッドドラゴンリーフで何とかなったけど、確かにあの時のドラゴンの殺気には凄いモノを感じたな。
出産が上手く行かずに母体ごと最悪の事態になっていたら、大変なことになってたかも…。
番になるために、遥々遠くまで来たんだからね。
「お二人がドラゴンの元へ向かったとモモルルから聞いた時は、私とモモルルも近くまで行っていたのです。もしもの時は共倒れになっても構わないと覚悟しておりましたが…」
その言葉に、周りの貴族や騎士達も驚いていた。
どうやら一握りの人間しか聞かされて無かったみたい。
「私は平民でありながら帝国で爵位まで頂き、モモルルと一緒に良い生活をさせて頂いております。レッドドラゴンの強さは計り知れないですが、グリーンドラゴンも心が通じた人間と共になら、力を最大限に発揮出来るのです。その時はやはり少し周りを巻き込んでしまいますので、私とモモルルだけが乗り込む予定でした」
えええ~!!!
こんなに小柄で可愛らしい青年が、そこまで覚悟してたのか!!
いや~その心意気、気に入ったよ。
顔には出さずフンスフンスしていると、テオはそうかと頷いていた。
「あの時、実はドンガルバと仲間達も麓で待機していたのだ。もしもの時はギルだけでも逃がそうと思ってな。グリーンドラゴンの待機も知らされていた」
そうだったの!?
そんな状態で俺とテオを行かせてくれた帝国には感謝だな…。
まあ、あの状態なら誰が行っても危険だったから、国を代表してテオが行く事になったんだろうけど。
「そんな危険な状態でギルを連れて行ってしまい、ジャメル家の方々には申し訳無い事をした」
テオはそう言い父様達に頭を下げる。
しかし、父様もホセ兄様もケロッとしていた。
「いえ、その話ならレッドドラゴンに聞いておりましたので」
「そう言えば、殿下やギルには話していませんでしたね。申し訳ありません」
もー!!
レッドドラゴン達は、父様達に話をしておけば大丈夫だろって思ってるんでしょ!?
その通りだから何も言えない…。
俺も勝手に連れ帰ったくせに、父様達に放り投げてるもんね。
そりゃ父様達に懐くよねぇ。
そう反省していると、カグラは驚いた顔をしている。
「あの、ギル様がドラゴンと会話が出来るとは聞いておりますが、もしやご家族もお話が出来るのですか?」
んん?
もしかして、カグラの家族はそうでも無いって事??
「ええ。父と兄二人もドラゴン達と会話が出来ますが…」
「ええ!?あ、大声を出してすみません。驚いてしまって…。私の家族は特にドラゴンと会話は出来ませんし、エルフの国のドラゴンの管理者も同じだと聞き及んでおります。ご家族が皆様会話が出来るとは…」
え、そうなの!?
驚愕の事実を知らされ、父様達と顔を見合わせてしまう。
テオもそう言えばとそうだなと、今更ながら気が付いた様だ。
「ジャメル家が特殊なのだろうか?」
「うーん。父様達は会った時から会話が出来ていましたし…」
俺はてっきり、血縁者は会話が出来るもんだと思ってたよ。
周りも確かにと今更ながら言い出してるけど、父様達とドラゴンの組み合わせが似合い過ぎていて、違和感が無かったみたい。
「ええと、話が飛んでしまいましたね。あの時、ギル様がお話が出来たからこそ、レッドドラゴンの暴走が防げたのです。話が出来なければ交渉も出来ませんからね。おかげで帝国にもトーレ王国にも被害は及びませんでした」
おお、それのお礼でしたか。
でも、勝手にレッドドラゴンを連れ帰ったし、レッドドラゴンリーフの栽培も成功しちゃってて良いのかな。
そんな空気を少~し感じてたんだよねぇ。
そんな事を考えていると、カグラは柔らかく微笑んだ。
「ドラゴンは自分で住処を決めますから、ギル様達の所へ向かった事は誰にも責められません。少しお話をお聞きしたのですが、こちらについて行くと騒ぐ程、皆様に懐いているのでしょう?引き離す様な事をしたら、それこそ我が国以上の怒りを買ってしまいますよ」
おお!!
さすが帝国のドラゴンの管理者!!
気に入りましたぞぉ~!!
518
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる