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181 推しと帝国の婚約事情
しおりを挟む「おやおや、令嬢達はレース編みはお嫌いですかな?」
そこに、帝国で手広く服飾関係の商いをしているガルドル伯爵が現れる。
レモルトパーティーにも来てくれてた、反タニア派の一人だね。
「ええと…。実は、学園ではあまり…。刺繍やレース編みは流行っておりませんの」
「ええ。最近は観劇やお茶会が流行っておりまして…」
しどろもどろに答える令嬢に、それは残念ですとガルドル伯爵は言う。
観劇やお茶会も令嬢達には交流の場なんだろうけど、そう言うところで刺繍とかレース編みの話は無い物なのかな。
トーレは特に慣習では無いけれど、刺繍やレース編みのお茶会を頻繁に開いているご婦人達も結構居るんだよね。
「殿下、ギル様ご婚約おめでとうございます。ふふふ。今はレース編みもですが、こう言ったハンカチに刺繍をしてお相手に贈る事も流行っているんですよ」
そう言って見せてくれたのは、レースと刺繍で美しく飾られたハンカチだ。
レースと刺繍と聞くと男性が持つには可愛らし過ぎるけど、どうやらコレは恋人や婚約者から貰ったとアピール出来るモノらしい。
帝都では今コレが男性達の流行りなんだとか。
「お久しぶりですガルドル伯爵。素晴らしいレースと刺繍ですね」
紺色のシルクハンカチには、本当に細かい刺繍とレースが飾られており、こちらはセンスが良いのか男性が持っても派手すぎないデザインだ。
「そうでしょう?私の婚約者である、こちらのモールからの贈り物なんです」
「もう、ジャック様ったら…。テオドール殿下、ギル様ご婚約おめでとうございます。お初にお目にかかります。ジャック様の婚約者のジャン伯爵家のモールと申します」
お、スムーズに婚約者紹介しやがったな!!
そう思いつつ、俺とテオは笑顔で対応する。
とても幼い感じがするが、黒髪青目で整った顔の美少年で、ガルドル伯爵に腰を抱かれながら、恥ずかしそうに微笑んでいる。
…合法だよね??
そんな事を考えていると、令嬢達が騒ぎ出す。
「えぇ!?モール様の婚約者様って、ガルドル伯爵でしたの!?」
「ガルドル伯爵は独身を貫くと噂されてましたのに…」
確かに服飾関係のガルドル伯爵は派手だしチャラそうな感じだからか、そんな風に見られてたんだね。
そんな令嬢達に苦笑していると、モールはそうですと嬉しそうに笑う。
どうやら同じ学園の生徒の様だ。
「彼は今年学園を卒業しますので、卒業したらすぐに結婚式を行う予定です」
合法だった!!
俺の一つ下って事か。
顔には出さず驚いていると、令嬢達はその早さに驚いていた。
「卒業後すぐにご結婚なさるんですか?」
「モール様に婚約者がいるとは聞いておりませんでしたが…」
確かに帝国一の服飾関係の伯爵の婚約なら、確かに話はすぐに広まりそうなモノなのに。
「レモルトのパーティーの時には、婚約の話もなかった様だが?」
俺が不思議に思っていると、テオも同じだった様でガルドル伯爵に尋ねると、伯爵はご機嫌に話し始める。
「ええ、あのすぐ後でした。彼が我が商店にトーレ王国から仕入れた、防護魔術を施したシルクの布を購入しに来たのです。その時に彼の刺繍とレースの美しさに驚きました。そして何度か話をしているうちに大変彼に惹かれまして。婚約者も居ないとの事でしたので急いで話を進めたんです」
おお、トーレの布の仕入れも早いけど、婚約者を囲い込むのも早いね。
惹かれたのは絶対刺繍とレースだけじゃ無いだろうと言う、無粋な事は黙っておこう。
「確かに見事な刺繍とレースだな。そしてセンスも良い。ガルドル伯爵の婚約者に相応しいな」
「ありがとうございます」
テオが褒めると、モールは嬉しそうに頭を下げるが、令嬢達は青い顔をしていた。
帝国一の服飾関係の貴族に見初められたのが、レース編みと刺繍だったからだろう。
貴族の慣習ってバカに出来ないよねぇ。
俺は刺繍やレース編みはそこまで出来ないけど、トーレの貴族は妻でも魔術や剣術を嗜む事が慣習だから、そちらはしっかりと励んだしね。
「さて、私も話し合いに参加するので自宅までは送れないが、気を付けて帰るんだよ。さ、馬車停までは見送ろう。テオドール殿下。ギル様。失礼いたします」
「はい。ジャック様もお気を付けて。それではテオドール殿下、ギル様。失礼いたします。ご令嬢方もお帰りの馬車が来ているのでは?」
モールの言葉に、令嬢達は慌てた様に親を探し出す。
「え、ええ。私達も失礼いたします…」
「この度はおめでとうございます」
「ええ。お気を付けて」
俺とテオは慌ただしくその場を後にする令嬢達を、苦笑しながら見送った。
彼女達、名乗らなかった事に気が付いてなかったねぇ。
「ふふ。彼女達も刺繍やレース編みを始めると良いね」
レース編みや刺繍は親世代に習うだろうから、その時に礼儀作法やらも身に付けるだろう。
お茶会も良いけれど、編み物って集中出来たり落ち着けたりするから、自分の感情のコントロールにも役立つと思うんだよね。
「ああ。古いしきたりかもしれないが、帝国の慣習は残ってほしいからな。昔は刺繍に魔力を込めたりして相手に贈る風習が盛んだったが…。今は宝石などの贈り物も増えたからな」
俺がテオに贈った様にね。
宝石も良いけど、俺も刺繍は挑戦してみようかな。
そう思いつつ帰宅する貴族達を見送っていると、ドンガルバの周りの貴族達は感心した様に俺を見ていた。
「ドンガルバ殿の言う通りの方ですな。我が家の娘達にもこの話を聞かせなければ」
「まさかガルドル伯爵の婚約のきっかけが、刺繍やレース編みとは。やはり慣習はバカに出来ぬな。学園でも指導して良いのでは無いだろうか」
「ええ。賛成ですね。魔力を込める刺繍でしたら、お相手への贈り物にも適しておりますし。一昔前は帝国の産業の一つでしたでしょ?無くしてしまうのは勿体無いですわ」
お、良い方向に行きそうだね。
それにしても、帝国でもトーレでも、若い令嬢達に変な観劇が流行るねぇ。
もしかして、もしかすると裏で何か動いてるんじゃないだろうな。
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