185 / 247
179 推しと推しの父親
しおりを挟むさすがに俺と目が合って無視は出来なかった様で、オルネス伯爵は俺とテオに近付いて来る。
ふむ、本当にアルバスそっくりだねぇ。
どことなく厳しそうと言うか、不機嫌そうな顔をしている。
しかしなんだろう。
帝都の騎士家系とは聞いているけど、変な魔術を感じる。
巧妙に隠されている感じの魔術だ。
「…テオドール殿下。ギル様。この度はご婚約おめでとうございます。オレント伯爵家当主、コンと申します」
「ああ、ありがとう」
テオが返事をして俺は頭を下げておく。
まぁイケオジの部類よねと思いつつ、注意しながら魔術の出所を探る。
「うぅ…」
少し俺の魔術を送ると、オレント伯爵は苦しそうに片手で頭を押さえる。
んん?
俺そんな魔術使ってないぞ??
「どうされました?」
俺がそう聞くと、オレント伯爵は苦笑しながら頭を下げる。
「いぇ、失礼しました。昔から頭痛が酷いもので…。治癒院へ向かっても悪化する一方でして」
「治癒魔術も効かないのか」
テオの言葉に、オレント伯爵は頷いた。
治癒魔術が効かない頭痛って何?
そもそも、俺の魔術に反応して痛くなってたよね?
もしかして、何らかの魔術が掛かってて、他の魔術を遠ざけてるんじゃ無いのか。
顔には出さずぐるぐる考えていると、オレント伯爵は苦笑しつつも胸元から何かを取り出す仕草をする。
んんー。
ちょっとその仕草って、中々不敬じゃ無いの?
「…失礼。このペンダントを握ると頭痛が治るのです」
そう言って胸元から赤と緑の石の付いたペンダントを取り出した。
「それは?」
テオが聞くと、オレント伯爵は悲しそうな顔をする。
「…妻の形見です」
その言葉に、サーディンに緊張が走ったのを感じ取る。
こいつ、サーディンの話をしている所に来たってのに、息子を見もしないな。
さっきは妻に激似に育ったサーディンを見て、茫然としていたのに。
しかし、おかしいな。
俺、ペンダントに使われてる石を知ってるんだよね。
俺がチラリとオレント家の息子達に目を向けると、彼らは怪訝な顔をしており、特にアルバスは初見の様な表情をしている。
「…オレント伯爵。そちらのペンダント、よく見せて頂けますか?」
俺の言葉に、周りは驚いていたが、テオは何かあるのだと理解してくれた様で、オルネス伯爵を見る。
「え、ええ。構いませんが…」
すると、やはりどこからか悪意を持った魔力を感じる。
チラリとサーディンの近くにいるゲールに視線を向け、オルネス伯爵の後ろに自然に回ってもらう。
パンッと軽く音を立てて魔術を弾き飛ばすと、周りは何事かと騒然とした。
「今の音は!?」
「な、何かしら」
慌てる貴族達をよそに、皇帝達は静かに静観してくれている。
俺が皇帝を見ると、皇帝は小さく頷いた。
その隙にスッと近付いて、オルネス伯爵の目を見つめ魔力を送ると、今度は頭痛はない様だ。
「…あ…。何だ?頭のモヤが…晴れる様な…」
「失礼します」
俺はサッとペンダントに手を伸ばす。
パァンッッッッ!!
「!!!」
凄い音がして、オルネス伯爵のペンダントのチェーンが外れる。
サッと受け止めるが手がビリビリする。
これは中々強い魔術だね。
俺はサッと胸ポケットからハンカチを取り出し、ペンダントをその上にのせる。
俺が開発した魔力を通さない布だ。
「何事か!!」
「皇帝、ご無事ですか!?」
さすがに周りは騒がしくなるが、皇帝は静かに片手を挙げる。
「良い。騒ぐな」
オルネス伯爵がぐらりとし、サッとゲールがその体を支えた。
「…ギル殿。どう言う事か説明を」
皇帝の言葉に、
「はい。皇帝閣下。こちらのペンダントに魔術が掛けられておりました。ご覧下さい。例の国の特産品である宝石です」
「「!!!!」」
サンジカラを匂わせると、周りは息をのむ。
皇帝の指示で、皇室の魔術師達が集まって来る。
スッと前に出たのは先程のダイナレートだ。
「どの様な魔術かお分かりですか?」
「はい。中々強力な思考制圧と幻覚の魔術が感じられます。こちらは身に付けたり、触れるだけでも危ないでしょう。この布ごとお持ちください。魔力を通さない特別な布です」
「!!」
おっと、この布もあまりこちらには出回って無いのか。
ま、売り出すには良い機会だと思いつつ、俺はダイナレートへ手渡す。
そのままオルネス伯爵に向き直ると、ゲールに支えられながらもしっかりと立っている。
「オルネス伯爵。今、頭痛はなさいますか?」
「いえ…。とてもすっきりしていて、何やら晴れやかです。停止していた時間が動き出した様な…。そんな感じがします」
おや、本当に一瞬で顔付きが変わったな。
先程までは気難しそうな顔だったのに、穏やかな顔になっている。
集まった魔術師達は、ペンダントを見ながら話し合いをしている。
先程のドムジンも真剣に魔術を調べている。
「…間違いありません。サンジカラの宝石です。魔術もかなり危険なものですね。どうやって周りに気付かれずに、魔術を掛け続けたのか」
「うむ。オルネス伯爵。コレは本当に奥方の形見で?」
ダイナレートの問いに、オルネス伯爵は驚いた顔をして首を振る。
「…形見?いいえ。妻の形見は我が家に大事に保管してあります。なぜ私は形見などと…。それは確か、ガンタレ伯爵が生前開かれたパーティーで頂いた物…です。そうです。確か妻が亡くなり塞ぎ込んだ私にと、なぜかガンタレ伯爵と…。ザラムゼフ伯爵がくださったんです。そうです…。その時から意識がはっきりせず…。私は一体…」
オルネス伯爵は、昔の記憶が蘇ってきている様で少しずつ顔が青くなっている。
と、言う事は。
もしかしてオルネス伯爵がサーディンに冷たく当たっていたのって、サンジカラの宝石による物だったんじゃ。
俺がテオを見ると、テオは厳しい顔をして頷いた。
そうなってくると、話が変わってくる。
「ガンタレとザラムゼフか。ガンタレは我が国のドラゴンの権利を奪おうとしてドラゴンに消された。ザラムゼフは何処にいる?」
皇帝が聞くが、周りはそう言えばとザワザワしだす。
「先程までは姿がありましたが」
「ギル様の魔術に押され、逃げ出したのかもしれません」
「あの方のご子息は、その。タニア嬢に盲信されていましたから、もしかしたら…」
タニアの犬の家か。
婚約パーティーだって言うのに、こりゃ無事に済みそうにないね。
首を突っ込んだのは俺だけどね。
486
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です
光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。
特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。
「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」
傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。
でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。
冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。
私は妹が大嫌いだった。
でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。
「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」
――――ずっと我慢してたけど、もう限界。
好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ?
今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。
丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。
さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。
泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。
本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。
ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。
中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。
悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい
たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた
人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ
そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ
そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄
ナレーションに
『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』
その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ
社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう
腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄
暫くはほのぼのします
最終的には固定カプになります
《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
百姓貴族はお呼びじゃないと言われ婚約破棄をされて追放されたので隣国で農業しながら幸せになります!
ユウ
恋愛
多くの女神が存在する世界で豊穣の加護というマイナーな加護を持つ伯爵令嬢のアンリは理不尽な理由で婚約を破棄されてしまう。
相手は侯爵家の子息で、本人の言い分では…
「百姓貴族はお呼びじゃない!」
…とのことだった。
優れた加護を持たないアンリが唯一使役出るのはゴーレムぐらいだった。
周りからも馬鹿にされ社交界からも事実上追放の身になっただけでなく大事な領地を慰謝料変わりだと奪われてしまう。
王都から離れて辺境地にて新たな一歩をゴーレムと一から出直すことにしたのだが…その荒れ地は精霊の聖地だった。
森の精霊が住まう地で農業を始めたアンリは腹ペコの少年アレクと出会うのだった。
一方、理不尽な理由でアンリを社交界から追放したことで、豊穣の女神を怒らせたことで裁きを受けることになった元婚約者達は――。
アンリから奪った領地は不作になり、実家の領地では災害が続き災難が続いた。
しかもアンリの財産を奪ったことがばれてしまい、第三機関から訴えられることとなり窮地に立たされ、止む終えず、アンリを呼び戻そうとしたが、既にアンリは国にはいなかった。
幼馴染と義妹、合わされば魔王レベルだと思いませんか? なので、逃げさせてもらいます
井藤 美樹
恋愛
先日――
二年上の先輩方が、卒業式後のパーティー会場で、あろうことか婚約破棄騒ぎをおこしましたの。
それも、二件同時に。
勿論、男性側の不貞ですわ。
どちらも浮気ではなく、〈真実の愛〉だと騒いでいたと聞きました。
一人は幼馴染と、もうひと方は義妹と。
なら、私はどうなるのでしょう。
だって、私の婚約者のそばには、常に元幼馴染であり義妹でもある方が寄り添っておられますから。
あのような晒し者になる前に対処しなければなりませんね。それとも、このまま放置して、気ままなスローライフを手に入れるのもいいですね。
ほんと、どうしましょうか……
まぁ、どちらに転んでも、私は私が生きたいように生きるだけですけどね。
鋼なみにメンタルが強い少女が兄姉の手を借りながら、様々な障害を乗り越え、自分の居場所を探し掴み取る物語です。
いつから魔力がないと錯覚していた!?
犬丸まお
BL
婚約者に無理やり襲われそうになり、寮の二階の窓から飛び降りたサフィラスは、落下した衝撃で前世を思い出した。サフィラスの前世は、無詠唱の大魔法使いと言われた最強の魔法使いフォルティスだったのだ。今世では、魔法伯爵家に生れながら5歳の魔力判定で魔力なしと判じられてからというもの、ずっと家族から冷遇されていた大人しいサフィラス。ところが前世を思い出した途端、サフィラスの人格は前世のフォルティスの人格にほぼ飲み込まれてしまった。これまでの可哀想なサフィラスよ、さようなら。これからは我慢も自重もしない。転生する前に、女神から与えられた強運という祝福と無敵の魔法で、これまで虐げられてきたサフィラスは人生を謳歌することを決意する!主人公が1ミリもピンチに陥らないお気楽な話です。恋愛&ラブHは物語後半に予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる