転生腹黒貴族の推し活

178 推しの家族との和解

「初めまして。この度はレッドドラゴンリーフの治験に参加して頂けるとお聞きしております」

俺がにこやかにそう言うと、ナナカは嬉しそうに涙ぐんで頷いているが、アルバスは複雑そうな顔をしている。

サーディンの話は耳に入っているだろうからね。

子供を救いたい気持ちは本当の様だが、弟を見捨てた自分が恩恵を受けても良いのかと悩んでいるのだろう。

俺がそっとサーディンに目配せすると、サーディンは静かにゲールと俺達の近くに移動してくる。

「…サーディン」

「兄様。お久しぶりです」

ぎこちないアルバスの声とは裏腹に、サーディンの声は柔らかく、微笑んでいた。

その顔を見て、アルバスは懐かしそうな、悲しそうな顔をしていた。

母親を思い出し、己の弟への扱いを心底後悔したのだろう。

「ナナカ様。オレント伯爵家三男、サーディンと申します。この度はご結婚。そしてご出産おめでとうございます。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません」

サーディンがそう挨拶すると、ナナカは優しい顔で頷いた。

「アルバス様とレン様よりお話は伺っております。私もオレント家の人間として、サーディン殿に謝らなければなりません。お辛かったでしょうに…。ギル様に認めて頂き、大変活躍していると聞いておりますよ。今回の治験も、サーディン殿の縁だと。本当にありがとうございます」

頭を下げるナナカに、アルバスも揃って頭を下げたので、サーディンは少し慌てながらどうか頭を上げて欲しいと頼む。

次期伯爵が頭を下げたか。

アルバスはサーディンへの扱いを止めはしなかったけど、きちんと悪い事だとは理解していたんだね。

そして、ナナカのサーディンへの態度を見るに、反省してたみたいだね。

サーディン次第だけど、アルバスは許してやっても良いかもね。

「私は恵まれておりました。祖父や、テオドール殿下に使える方々、友人もおりましたから。そして、ギル様により多くの事を学ばせて頂きました。魔術も使える様になったんですよ。もっともっと、多くを学び、ギル様やテオドール殿下の為に努めてまいります。私は私の進むべき道を見つけました。ですので、どうぞ謝らないでください」

サーディンはそうハッキリ告げた。

アルバスは、寂しそうな、そして少しホッとした顔でそうかと呟いた。

「サーディン。お前には本当に辛い思いをさせてしまった。すまなかった」

「兄様…」

「レンよりお前の話は聞いていた。良い主人に出会えたのだな」

アルバスがそう言うと、サーディンのもう一人の兄であるレンが、テオの屋敷にいたジックと共に現れる。

「レン兄様…」

これまた美人だね！！

長い黒髪を一つに結んで右前に流し、瞳は薄い茶色で、魔術師特有の黒いローブを身に纏っている。

顔立ちは大叔母に似ているそうなのでサーディンとは似ていないが、涼しげな目元と鼻筋もキレイな美人だ。

「サーディン。勝手に魔術を掛けてしまって、君に苦労をさせてしまったね」

悲しそうに目を伏せるレンに、サーディンそんな事は無いと首を振る。

「いいえ。レン兄様が私に魔術を掛けてくださったから、私は無事にレモルトへ向かえたのです。こうやってギル様のもとで働ける様にもなりました」

うんうんその通り！

それにしても、幼いながらサーディンに目眩しの魔術を掛けれるってすごくない？

レンは中々の実力者なんだろうな。

そう思っていると、レンは俺達に向き直る。

「サーディンの兄のレン・オルネスと申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。テオドール殿下、ギル様。ご婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「この度は、サーディン。そしてザックがお世話になりました。ザックに関しては、私に責任がございます。どうか、罰は私にお与えください」

あ、そう言えばザックはテオの屋敷に潜入してた事になるんだもんね。

チラリとテオを見上げると、テオは苦笑する。

「今回ばかりは許容範囲だろう。ジックの行いはサーディンを守る為だったのだろう？それなら不問にしても問題は無い」

「レン殿。私も同じ考えですので、どうぞお気になさらずに。サーディンは私達ジャメル家にとっても、両親の残した大切な存在です。決して悪い様には致しませんので、安心してください。ジック殿にも処分など考えてはおりませんよ。レモルトではしっかりと働いて頂いていたそうですから」

そう伝えると、レンもジックもホッとした顔をして頭を下げる。

本来なら皇子の屋敷に隠者を送ったなどと言われそうだけど、ジックがした事ってサーディンの護衛だけなんだよね。

そんなの責められないよね～。

俺からしたら表彰ものだもん。

そこからは、サーディンがゲールを紹介したりして、久しぶりの家族との会話になる。

「また帝都にいらした際には、ぜひ我が家にも遊びに来てください。帝都に新しく、美味しい干し葡萄やベリーを使った焼き菓子のお店が出来たんですよ」

ナナカがそう言うと、サーディンは驚いた顔をしてアルバスを見る。

そう言えばサーディンは、ドライフルーツを沢山使った菓子が好きだったな。

よく帝都から届くと言って、俺のお茶請けにも出してくれていた。

ヤンダークが頼んでいると思っていたけど、もしかしたらアルバスが贈ってたのかな。

「…ありがとうございます。必ず顔を出しますね」

アルバスは気まずそうに目を逸らすが、サーディンは嬉しそうに微笑んだ。

やはりそうか。

アルバスはサーディンの好物を覚えていたのか。

そりゃ伯爵家の長男は父親の言う事を聞くしか無いし、帝国の帝都の貴族なら尚更だ。

それにサーディンが冷遇されだした時は、アルバスだってまだ子供だったはず。

うーむ。

サーディンも嬉しそうだし、反省してるならアルバスは見逃してやるか…。

勝手な事を考えつつ、俺はテオとその様子を微笑ましく見ていた。

同じ様にサーディンを慈愛に満ちた眼差しで見つめる人がいる。

皇妃だ。

そう言えば、皇妃はサーディン達の母親であるキクととても仲が良かったと聞いている。

皇妃と言う立場上、オルネス家の事には口出ししにくいのだろうが、これならサーディンを父様が養子に迎える話もスムーズに行くかもしれないな。

そこに、ふと視線を感じて目をやると、オルネス伯爵と目が合う。

さて、どう出ますかね。