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177 推しと交渉の始まり
しおりを挟むそこに、スッと大きなオーラが入って来る。
「センフラよ。子息がテオドールの婚約発表の席だと言うのに、手合わせを願い出たそうだな。確かにジャメル騎士団と手合わせする機会は滅多に無い事ではある。血の気が多い事は良いが、一撃で負かされたと聞いたぞ」
「こ、皇帝閣下」
おおっと~!
皇帝が参戦だ!!
顔には出さずワクワクしていると、父様はああそう言えばと、とぼけた感じでロンを呼ぶ。
「皇帝閣下。こちらが手合わせをさせて頂いた、ジャメル騎士団のロンと申します」
「は、初めまして。お目に掛かり大変光栄です」
父様が紹介すると、ロンは緊張しながら頭を下げる。
平民のロンからすると、帝国の皇帝に紹介されるって大事だから、緊張する気持ちも良く分かるな。
「うむ。半人前と聞いたが良い力強さを感じるな」
そんな会話を聞きながら、周りも魔力拒否症の話は流れたのかと感じていただろう。
そこに、更に父様が話を続ける。
「彼も、ジェレミーと同じ魔力拒否症を患い、レッドドラゴンリーフの治験に協力した一人なのです」
「なんと!!」
この発言にはポートランス公爵も驚いていた。
確かに、ロンの事はジャメルの騎士としてしか紹介していないから、驚くのも無理は無いかも。
そして周りも驚きの声を上げている。
「ま、魔力拒否症を克服して、ジャメル騎士団になったと言う事か?」
「先程、センフラ伯爵家のマーカトラ殿を負かしたと聞いたが…!半人前と言ってもジャメル騎士団の半人前は、こちらとは訳が違うぞ」
「魔鳥を一人で倒せるのでしょう?もはや魔力拒否症であった事など問題無いのでは」
むふふふふ~ん。
周りの反応が気持ち良いね!!
俺がそう思っていると、皇帝や皇妃も驚いた様に感心していた。
「彼も魔力拒否症の治験者だったのか…!素晴らしい回復だ。体付きも大きく、力強さも魔力の高さも感じる。もちろんジェレミー殿からも、魔力の高さが感じられる。レッドドラゴンリーフは、本当に魔力拒否症を克服したのだな」
「これは素晴らしい事です。我が国の魔力拒否症の者達にも希望が見えてまいりましたね」
皇帝と皇妃の手放しの賞賛に、父様は頭を下げる。
チラリとセンフラ伯爵を見ると、まさか自分の息子が魔力拒否症であったロンに負けたと知り、真っ青になっていた。
これで少しでも考えを改めて貰わないとね。
「…これは私の憶測ではありますが」
俺がそう話始めると、周りは興味深そうに耳を傾けてくれる。
「魔力拒否症の方々は、他の方々より魔力に優れている傾向があると思うのです。実際、我が国で治癒した方々や、回復に向かっている方々の魔力の高さには驚いています。適応力も素晴らしく、魔力拒否症の方々は病さえ克服出来れば、国にとって素晴らしい人材になると」
俺がそう言うと、ホセ兄様が大きく頷いて更に話を広げてくれる。
「我が領の魔力拒否症であった者達も、ロンの様に才能を開花させています。まだ幼い子供ですが、将来はレッドドラゴンリーフの農園や王都の城でも活躍出来ると確信していますよ。我が国の第四王子の回復も目覚しく、魔力の高さから素晴らしい魔術師になると期待されております。魔力拒否症は元の魔力が他の者とは桁が違うと、私も感じています。ロンは体の使い方も上手いですが、魔術も上手く使えますので、今後に大変期待しております」
そう言うと、ロンは照れくさそうにしていたが、周りの視線はとても暖かかった。
実際、ジェレミー兄様の魔術の覚え方も凄まじいし、彼らは才能の塊なのだ。
「魔力が高く、優れた魔術師になる可能性が高いのなら、確かに国にとって大きな利益だ。テオドールからも聞き及んでいるが、是非とも我が国でも治験を始めて欲しい」
皇帝の言葉に、俺達は大きく頷く。
「もちろんです。テオドール殿下の紹介でニムラス伯爵に動いて頂いております」
父様がそう告げると、ニムラス伯爵も輪に入って来る。
「うむ。ニムラス伯爵なら薬にも造詣が深い。すでに候補も見つかっているのだろう」
皇帝がそう言うと、ニムラス伯爵は大きく頷いた。
「はい。既にお声掛けさせて頂いております。早ければ今日。明日にでも治験を開始したいと」
手際の良さに、皇帝も満足そうに頷いている。
「うむ。そのまま続けてくれ。成果を楽しみにしている」
皇帝の言葉に、俺達は頭を下げる。
よしよし。
これで帝国での治験もスムーズに行きそうだね。
ジェレミー兄様もだけど、ロンって言う素晴らしい回復者で尚且つ騎士を見せつければ、帝国の貴族だって魔力拒否症患者を軽んじたりしないと踏んでたけど、思った以上だったね。
ジェレミー兄様は美しいし、優しいし、健康的だし、魔力も申し分無いし、すっごく美人で自慢なんだけど(大事な事なので二回言います)、帝国とか王都でも貴族的には騎士の方が立派ってイメージが強いんだよねぇ。
まぁ、剣に覚えがあるのは貴族的にも大事だとは思うけどさ。
そこに、若い夫婦がやって来る。
「…テオドール殿下。ギル様。オレント伯爵家のアルバスと申します。こちらは妻のナナカです」
おお、サーディンの兄だね。
ニムラス伯爵に手紙を送ってもらっていたから、彼らも魔力拒否症の治験に参加する予定だったはず。
さて。
サーディンの為にも一肌脱ぎますか。
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