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175 推しと皇帝の宣言
しおりを挟む俺とテオの婚約や、領地の一つがトーレになる事について、やはり苦言を呈する貴族はいるみたい。
「皇帝の弟殿下が、小国の貴族の三男に婿入りなど…」
「レモルトは随分と寂れたところであろう?テオドール殿下が治めるには役者不足過ぎるのではないか?」
「…まさか、テオドール殿下を帝都から遠ざける為では」
決まった事にチクチクと面倒臭い奴らだなと、俺は涼しい顔で聞いておく。
テオを皇帝にと望んでいる奴らは、まだ居るんだなと呆れる。
「今回の婚約。私は大変喜んでいる」
そこに、とても通る声でしっかりと皇帝が発言すると、貴族達は静かになる。
「テオドールは、我らの父であり前皇帝であるテオニラ皇帝に容姿が良く似ている」
そう言うと、周りは皇帝は何を言い出すのかとザワザワしだす。
「しかし、テオドールは父では無い。テオドールと言う一人の個人である。それにも関わらず、前皇帝の面影を押し付けて皇帝にと望む愚かな者達が多かった」
おお、皇帝突っ込むね!!
皇帝の言葉に、テオも大きく頷き、テオを皇帝にしたいであろう派閥には冷たい視線が集まる。
「テオドールは、私や我が息子に気を使い帝都から足を遠ざけてしまった。度重なる婚約の申し出にも嫌気がさした事も原因である」
ちょっと皇帝の声がキツくなり始めると、しつこく婚約を迫っていたであろう貴族達は、居心地が悪そうに目を泳がせている。
「…皇帝のおっしゃる通りだな」
「テオドール殿下を皇帝にし、自分の子やらを嫁がせて利益を望んでいたのだろう」
「それこそ帝国への謀反ではないか」
ヒソヒソと他の貴族達も小言を言い始めたので、余程の醜態を晒していたんだろうね。
「テオドールは、先程紹介した様に他国で騎士として活躍していただけではなく、身分を隠し帝国でS級の冒険者として活動していた。随分と危険な事もあったであろうが、我が国の為に裏で大きく働いていたのだ。自分の弟に危険な任務をさせてしまい申し訳無かったが、テオドールはそれこそが自分の使命なのだと努めてくれた」
俺達が入室する前に、テオの活動については明かされるって言ってたな。
テオがS級冒険者って驚いただろうね。
「その時に出会った相手がギル殿である。彼も身分を隠し冒険者となり、家族の病を治す為に翻弄していたそうだ」
俺の情報も少しずつ出してくれるみたい。
俺がジェレミー兄様の魔力拒否症を治すために、奔走した事も説明してくれたからか、好印象な視線を感じる。
「お互い苦労をなさっていたのだな」
「ふむ。確かにご年齢は離れているが、このくらい問題は無いしな。お互い力を合わせて苦労し、惹かれあった上でのご婚約なら、素敵な話じゃないか」
「正直、世間知らずで着飾るだけの令嬢令息がテオドール殿下の婚約者に名乗り出るなど、不相応だと感じていたからな。ギル様はお若いが多くの開発やら提案をなさっていると聞く。レッドドラゴンリーフも彼の功績が大きいのだろう?テオドール殿下が生涯を共にとお考えになるのも納得だ」
おお!
すごく好意的に話が広がってない?
これって絶対、皇帝や皇室関係者が頑張ってくれてるよね?
テオって思った以上に、皇室に愛されてるんだなと嬉しくなる。
「テオドールは結婚はしないと公言していたが、こうやって素晴らしい相手と良縁が結ばれた。それは大変喜ばしい事だ。サンジカラの討伐やサンジカラの悪行に加担した貴族の摘発など、長年に渡る我が国への貢献を考え、本人の希望通りレモルトを治めることを許可した」
皇帝はテオの希望でレモルトに拠点を移すのだと、しっかり周りにも知らしめる。
「レモルトは確かに帝都からは遠いが、私やテオドールにとって大事な土地である事には変わりは無い。ギル殿と共に今後益々発展して行くであろう。それに、煩わしい婚約の話が無くなれば、ギル殿と結婚後も頻繁にこちらへ顔を出すと申した。今まで以上に帝都へ足を伸ばしてくれるのなら、私は本望である」
あら、もしかしてもしかしなくても、皇帝ってテオが可愛いんだな。
そりゃ俺にはカッコいい年上イケメンだけど、
皇帝にとっては歳の離れた可愛い弟だもんね。
皇帝はテオを僻地へ送るのでは無く、煩わしい帝国のしがらみから解放し、今まで以上に家族として交流を持つ事になると嬉しそうに言った。
そりゃ、容姿が似てるからってだけで皇帝にと推されたり、子供と婚約を迫られ続けたら嫌にもなるよねぇ。
それでも皇帝や皇太子の為に動いていたテオもまた、兄である皇帝を尊敬しているんだな。
「さて、二人とも前へ」
皇帝はそう言って、玉座から降りて来る。
俺とテオは前へ進み、皇帝の手前で二人で膝をつく。
皇帝が両手でそれぞれ俺とテオの頭に手をかざすと、なんだか暖かな力な様なモノが流れ込んで来る。
これがマラサッタ帝国皇帝の力か!
おおと感じつつ、皇帝が腕を下ろしたのを合図に深く頭を下げて一歩下がる。
皇帝は玉座に座り直し、俺とテオは振り返り貴族達へ体を向けた。
「ここに、我が弟であるテオドールと、トーレ王国ジャメル侯爵家ギル殿の婚約を正式に宣言する。式は本人達の希望によりレモルトにて行われる事となった。正式な婚姻後はトーレ王国のレモルト領として発展し、我が国との大きな架け橋になる事を期待している」
皇帝が高らかに宣言すると、ワッと拍手が起こる。
「おめでとうございます!!」
「スイレン神のご加護があらん事を!」
不満のある貴族もいるだろうけれど、取り敢えず正式に婚約が成立した。
俺がテオを見上げると、とろける様な笑顔を見せてくれる。
それに応える様に、俺も極上の笑顔を返した。
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