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173 推しと皇帝の謁見へ
しおりを挟む改めて見ると、とてつもなく豪華で大きな扉だな。
城は石造りだが廊下は全て高級そうな絨毯が敷き詰められている。
先程まで居た部屋の扉も中々大きくて立派だったけど、この扉は桁違いだな。
両開きのアーチ型で、細工が細かく施されており金色に輝いている。
うーんお金掛かってますねえ。
この先は、今回の謁見の間である大広間だと聞いている。
帝国は大国だ。
その皇帝と貴族が勢揃いのはず。
俺は静かに深呼吸をすると、いつものポーカーフェイスの笑顔を本日仕様にと、とびきり極上に仕上げ口角を美しく上げる。
巨大な扉なのに、音も立てずに開いて行く。
魔術だなと思いながら、俺は真っ直ぐと前を見る。
開き切った扉の中は、これまた豪華な部屋だった。
天井から吊るされ光り輝くシャンデリアがズラッと並び、正面にはスイレン神をモチーフにした大きなステンドグラスの窓がある。
その下に皇帝と皇妃の座る玉座があり、一段下がって皇族の座る玉座。
そして数段下がって広間と言う感じだ。
床はレンガ色の絨毯が敷かれており、その上に入り口から玉座まで縁が金色の真紅の絨毯が一直線に敷かれている。
その両脇には、貴族の当主夫妻と次期当主やらがズラッと並んでいる。
これが帝国の貴族かと感心しつつ、歩き出したゼンドラル公爵に続いて俺達も歩き始める。
まずはセルジオ様とジェレミー兄様。
次にジャメル侯爵家当主ホセ兄様と夫人であるフロル様が俺を挟んだ形で、その後ろに父様とシェル様だ。
もちろん護衛のジャメル騎士団は両脇を歩き、執事であるサーディンとゲールは一番後ろからついて来ている。
「…新しいリーナイト公爵夫夫だそうだ」
「何と美しい…!あの方はギル様の兄上だとか」
でしょー!?
この場で俺じゃなくジェレミー兄様が褒められているのは問題なのかもだけど、ジェレミー兄様が美しいのは本当だからもっと言って!!
俺は魔術を使い、ヒソヒソ話も全て拾いながら進む。
「何でも、魔力拒否症を克服なさったとか」
「なんと…!確かに十八より年上に見える。レッドドラゴンリーフは本当に魔力拒否症を治したのだな」
フンスフンスと心の中で興奮していると、先程ロンに剣術で負けたセンフラ伯爵親子の姿がある。
「…魔力拒否症を妻にするとはな」
ボソリと呟いた言葉は侮蔑的で、俺はアイツ潰すと心の中で中指を立てておく。
「ホセ殿の奥方もお美しい。先日ジャメル領で行われた花祭りは圧巻でしたな」
「ええ、素敵でしたね。奥様はリーナイト家の次男だとか」
「ほほう。前リーナイト公爵も前ジャメル侯爵へ嫁いだと聞いたが…」
「三大公爵家でありながら、下位の家へ嫁いだのですか?」
おいおいおい誰だ?
和やかな話の中に毒を吐くおっさん、顔は覚えたからな!!
「学園での同窓だそうだぞ。お二人とも、前当主を魔物戦争で亡くしている。お互い若くして家を継ぎ、立派に家を盛り上げたのだ。子息が立派に後を継がれたのだから、誰と余生を過ごそうが彼らの自由であろう。我が国でも似た環境の者も多かったであろう。失礼な発言は慎みたまえ」
「ぽ、ポートランス公爵…。申し訳ありません」
そこに、宝石商で皇帝とも親交の深いポートランス公爵が叱責を入れる。
イケオジありがとう!!
「そうか…。魔物戦争後に若くして家を継いだ者は、帝国にも多くいるからな。皆苦労をしていらしたな」
「ええ。どちらのご子息も、前当主の忘れ形見だそうですわ。立派に育て上げたのですね」
「ふふふ。私トーレの親戚に聞きましたわ。何でもご学友の頃から惹かれあっていたそうで、やっと思いが通じ合ったそうですの」
「あら~素敵ね。魔物戦争後はどこも混乱してしまって、結婚や婚約も大変でしたものね」
好意的な方々も多くいるみたいで、安心しながら俺達は前に進む。
「あの方がテオドール殿下の?」
「ああ。婚約者様であり、トーレ王国の賢者様だ」
「お美しい方だな。兄上とはまた違った美しさだな。あの方が様々な発明をなさっている方か」
「柑橘のスイーツは素晴らしかったわ。最近流行りのお茶会の軽食も提案されたそうよ」
よしよし。
俺の情報は正しく伝わってるみたいだね。
やはり親世代は田舎者と言う顔をしてたりするけど、若い世代には俺のアイデアが斬新で刺激的だと好評みたい。
「美しいだけではないそうだぞ。何でも、テオドール殿下の護衛が言うには、殿下の剣を受ける事が出来る腕前だとか」
「何と…!いや、ジャメル家のご子息なら当然かもしれぬな」
ふふふ~ん。
ケンとユウリ達の話も伝わるのが早いね。
「ん…?後ろにいる付き人は…」
「亡くなったオレント伯爵家のキク夫人に良く似ているが…。オレント伯爵、もしやご子息では?」
「…!!」
お、ここにもサーディンに気付く人がいたね。
そちらに意識を飛ばすと、サーディンの父親であるオレント伯爵と、次期当主であろうアルバスの姿が見える。
こいつがオレント伯爵か。
確か皇城魔術師の一人だよね。
茶髪で茶目の、魔術師にしては鍛えられた体をしており、隣の騎士であるアルバスは父親にそっくりだった。
二人はサーディンを見て、目を見開いて驚いている。
「…キク」
小さくそう呟いたのを俺は聞き逃さないぞ。
愛した妻が命を犠牲にしてまで庇った息子に、酷い扱いをしやがって。
俺が見つけて磨いた原石は、お前の愛した妻にそっくりだろう?
自分の行いがどれだけ愚かだったか思い知れ。
そう思いながら玉座近くまで進むと、ゼンドラル公爵はスッと横にずれる。
セルジオ様がトーレ王国からの文書を差し出し、それを受け取ると皇帝へと届けられた。
この方がテオの兄で、ラッカル帝国のエラード皇帝か。
長い黒髪を一つに結び、瞳は青みがかった黒だ。
顔つきはテオとは似ていないが精悍で、黒髭がよく似合うこちらも中々ワイルドな美丈夫だ。
背もそれなりに高そうだし、もっと細いかと思ったけれど鍛えているのか中々逞しい。
横には長い金髪を三つ編みにして右に流した、緑色の瞳の美しい男性が座っている。
皇妃であるサルパンドラだ。
どちらも五十過ぎであるはずだが、大変若々しく美しいなと感じた。
やはりスイレン神を国が信仰しているから、トップに立つ人間は体を鍛えてこそだよね。
皇帝はトーレからの文書を読み終えると小さく頷き、それを見ていたゼンドラル公爵はこちらに合図を送る。
さて、いよいよ本番って感じだねぇ。
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