転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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172 推しと帝国の貴族達

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「ゼンドラル様。そろそろお時間です」

外から声がして、ゼンドラル公爵は頷く。

そして立ち上がると、俺に向き直る

「…最後にギル様」

「はい」

「あの様に晴れやかな笑顔のテオドール殿下は、久しぶりでございます。良くぞ殿下と出会ってくださいました。テオドール殿下をよろしくお願い致します」

そう言って、ゼンドラル公爵は頭を下げた。

帝国の公爵が、小国の田舎領主の息子に頭を下げるとは…。

ゼンドラル公爵は、テオを本当に大切に思っているんだなと感じた。

俺も立ち上がり、頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

そんなやり取りの後、俺達は揃って謁見の間へ通される。

謁見の間だが、他の貴族達も揃っているそうで、当主や次期当主以外は廊下や控え室にいるみたい。

長い廊下を歩いている間も、周りからは好奇の目に晒される。

田舎者と蔑む視線も感じるが、俺の活躍やらがしっかり浸透している様子で、若い貴族からは羨望の眼差しで見られている。

父様や兄様も有名なので、そちらにも羨望の眼差しが注がれていた。

「あれがジャメル騎士団…!素敵…」

「…聞いたか?センフラ伯爵家のマーカトラ殿が、ジャメル騎士団の半人前と呼ばれている者に負けたと」

「ああ。力の差が歴然だったそうだぞ。半人前と言っても、魔鳥を既に四匹は倒しているそうだからな。基準が違い過ぎるのだろう」

先程の手合わせの件も広まっている様で、ロンにも視線が集まっている。

「ん?テオドール殿下の婚約者様の後ろに居るのは…。もしやオレント伯爵家のご子息では?」

「確かに…。こう見ると、母君に良く似ているな」

俺の後ろを歩くサーディンにも注目が集まる。

俺が見つけて磨き上げた原石は、思った以上に優秀で、自ら輝きだしていた。

顔が良く見える様に切り揃えた黒髪もツヤツヤで、顔立ちも可愛らしいから美しいへと変貌している。

両親に似ていないと言われていたが、明るくなり良く笑顔を見せる様になったサーディンは、亡くなった母親にどんどんと似てきたのだ。

「なんでも、婚約者様であるギル様の専属の執事だそうだぞ。前オレント伯爵のヤンダーク殿と共に、レモルトでテオドール殿下に支えていたらしい」

「聞いた所によると、魔術が使えなかったそうだが…」

「現在は素晴らしい魔術の使い手だと聞いたぞ。レモルトやトーレで学び、賢者様であるギル様に指導を受け開花したとか」

「なんと…!」

俺がそれとな~く広めたサーディンの話も、しっかり広がっている様でなにより。

サーディンは本当に努力家で優秀で、レモルトでの俺の事業は最早彼がいないと困るくらいだ。

肩書は執事となっているけど、完璧に俺の右腕だ。

「…しかし、前ジャメル伯爵夫妻は彼を庇って亡くなったのでは?」

「そんな事を言うものではない。ギル様やご家族は、良くぞ生きていてくれたと大変喜んで迎え入れそうではないか。居場所を無くした彼を受け入れ家族の様に接しているそうだぞ」

ホセ兄様やジェレミー兄様にも事情を説明して紹介した所、サーディンの置かれた待遇にとても心を痛めていた。

そして二人から、生きていてくれてありがとうと言われたサーディンは、大粒の涙を流していた。

『ギル様にもテオドール殿下にも。そしてジャメル家の方々にも誠心誠意努めさせて頂きます』

そう言って、サーディンは物凄く努力をしてくれた。

あまり頑張りすぎない様に、ドンガルバの息子のゲールに息抜きの為に出掛けてもらったりしている。

二人はとても良い感じで、まだまだ結婚を考えられないサーディンに、ゲールはしっかり待ち続けると告げたらしい。

かくして、二人はサーディンの祖父であるヤンダークに報告し、ヤンダークも手放して喜び二人は恋人同士になった。

サーディンは貴族だし、本来は当主の許しが必要なのだが、サーディンを見捨てたオレント伯爵に口出しなんかさせない。

帝都に来た目的はテオとの正式な婚約発表だが、サーディンとゲールの婚約も勝ち取る気持ちで来たんだよね!

ゲールと結婚となったらサーディンは平民になる訳だけど、実は父様とシェル様がサーディンを養子にしようと考えているんだ。

今二人は元リネー領に住んでいるんだけど、サーディンを養子に迎え、リネー伯爵をお祖父様から継いでリネー領を復活させたらどうかと話が出たんだ。

なんせ元ジャメル当主と元リーナイト当主の夫夫だからか、王家からも簡単に許可が出たんだと。

現在はジャメル領なんだけど、ジャメルが広すぎるから分家分けみたいな感じにするんだ。

元々は住民も少ないし、元ジャメル当主である父様の評判も良いから、賛同を得られそうなのだ。

その後はサーディンにリネーを継いでもらい、ゲールを婿養子にすれば良いからね。

現リネー伯爵のお祖父様も、一代限りだと思っていたみたいだけど、後継が出来るのなら喜ばしいと快諾してくれた。

サーディンの事も、愛娘が命をかけて守った青年だと知ると、是非継いでもらいたいと言ってくれたのだ。

父様は侯爵になったけど、ホセ兄様に継いでもらったのだから、自分は伯爵に降下しても問題は無いと笑っていた。

父様のそう言う豪快で思い切りの良い所、大好き!!

シェル様は公爵から伯爵家の嫁になると言うのに、父様と一緒にいられるのなら問題は無いと言っていた。

父様ったら幸せ者だよね。

そんな訳で、今日俺は皇帝と謁見する時にサーディンの父親とも初対面する。

サーディンを苦しめたオレント伯爵は、どんな顔をするか見ものだね。

そんな事を考えながらも、俺は周りの貴族達に笑顔を振り撒きながら、謁見の間の扉の前までやって来た。

「皇帝とご家族。そしてテオドール殿下がお待ちです」

扉の前の護衛が、そう言って俺達に頭を下げるとゼンドラル公爵は小さく頷き一歩前に出る。

「ああ。ご苦労」

そう言って護衛を下げさせると、扉の前で深呼吸をする。

「お呼びに預かりました、ゼンドラルです。皇帝閣下!テオドール殿下の婚約者であります、トーレ王国ジャメル侯爵家ギル様。ジャメル侯爵夫夫。トーレ王国代表であるリーナイト公爵夫夫。前ジャメル侯爵夫夫の謁見の許可を頂きたい!」

おお。

お年寄りにしては随分と通る声ですな。

そんな事を考えながら、これが帝国の謁見の仕方かと感心する。

「皇帝は許可されました」

室内から、また違う声が聞こえてくる。

ふむふむ。

さすがに皇帝が声を張り上げる事は無いよね。

さて、いよいよですね。



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