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170 推し達の実力
しおりを挟む「ふむ。今我々が剣を交える事は、皇帝閣下への失礼にあたる。しかしながら、我が騎士団の一人となら問題もないでしょう」
どうしたものかと考えていたら、父様がそう言い、護衛で来ていた騎士達が前に出る。
カイトの婚約者であるベルガーと他に三人、そして今年から正式に騎士になったロンだ。
「そうですね。…実力的に、まだ半人前ですがロンが良いのではないでしょうか」
兄様に言われ、ロンは驚いた様子だったが、誇らしげに胸を張って前に進む。
しかし、半人前と聞いたマーカトラは眉を顰める。
しかし、ゼンドラル公爵が先に口を開く。
「全く。ジャメル侯爵達のご厚意に感謝しなさい。場所はこちらで良いですね」
「…はい」
渋々と言った感じのマーカトラは、ロンを見下す態度を全面に出している。
ロンとマーカトラが手合わせする為に、周りがサッと下がり場所を作る。
「…半人前ですか。やりすぎたら申し訳無い」
マーカトラがそう言うと、ロンは笑顔で大丈夫ですと返す。
ロンは平民の出身ではあるが、父様や兄様、ジャメルの騎士達に指導を受けているので、失礼の無い様に振る舞いは出来ている。
「魔鳥をあと一匹倒したら、一人前だと言われておりますので、あと少しです」
ロンがそう言い、自分の胸元を指差すと、魔鳥の心臓にある赤い宝石が四つ縫い付けられている。
ジャメル騎士団は、一人で五匹魔鳥を討伐したら一人前と言われている。
「ま、魔鳥だって!?」
「聞いた事があるぞ。ジャメル騎士団では魔鳥を一人で討伐出来ると…」
周りが騒ぎ出し、マーカトラの表情も変わる。
俺は当然だと想っていたけど、魔鳥を一人で討伐出来る騎士団なんて、そうそう無い。
ジャメルが守り人と言われる所以だ。
「ロンは筋が良いですからね」
「ああ、すぐに一人前になるでしょう」
ベルガーや他の騎士達も、ロンの実力を買っており、父様達も頷いている。
そんな状態に、マーカトラと父親であるセンフラ伯爵も顔色を変えているが、開始役の騎士が前に出て二人に合図を送る。
二人が鞘から剣を抜くと、また周りは固唾を飲んで見守っている。
「それでは、始め!!」
開始の掛け声と共に、マーカトラがロンへ剣を振り下ろす。
ガァアッン!!
激しい音がするが、ロンは簡単に剣を受けると、そのまま剣を右へ振る。
「…くっ!!」
マーカトラはバランスを崩すが、必死で体勢を整える。
ロンったら優しいな。
正直、今の隙に攻撃出来ただろうが、一応帝国の貴族に気をつかっているんだろう。
マーカトラが剣を構え直したのを確認して、小さく頷いた。
しかし、次は自分の番だとばかりにロンの顔付きや気配が一気に変わると、周りは息を飲む。
ガンッッッッ!!!!
マーカトラの数倍の速さでロンは飛び掛かり、剣を振り下ろすと、もの凄い音が響く。
「…うっ!ウワァっ!!」
一瞬剣を受け止めたと思ったが、ロンの力が勝った様で、マーカトラはそのまま後ろに吹っ飛んだ。
「「!!!!」」
周りの騎士達も驚き、事態を見守っていたゼンドラル公爵がバッと右手を振り上げた。
「そこまで!!」
ゼンドラル公爵の指示で、合図役が終了の声を上げると、尻餅をついたマーカトラは呆然としていた。
「失礼します」
ロンは礼儀正しく頭を下げ、俺達の所に帰って来る。
父様達が良くやったと手放しで褒め、俺も大きく頷く。
飲み込みも筋も抜群に良く、父様や兄様、先輩方が指導し甲斐があると大変可愛がっているからね。
本人も病気で苦しんでいた期間を取り戻す様に、魔術も剣術も励んでいるから大変努力家だ。
俺達の仲間を舐めて貰ったら困るね。
そう思いながら、センフラ伯爵に笑顔を向けると、青い顔で呆然としていた。
「素晴らしい腕前です。半人前とは信じられません。ジャメル騎士団はそれだけレベルが高いのでしょうな。急な手合わせに対応して頂きまして、ありがとうございます。さ、先へ急ぎましょう」
ゼンドラル公爵は、騎士団に訓練を続ける様にと言い、案内を再開する。
チラリと目の端に映るマーカトラは、まだ呆然としていたが、イイ気味だなと思いつつ俺達は先を急ぐ。
そして、客人の待機用だと案内された部屋は圧巻だった。
大変広く調度品も豪華だが、窓は全面ガラスになっており、執事がカーテンを開ける。
すぐに美しい庭園が現れ、シェル様が感嘆の声を出す。
「素晴らしい庭園ですね。これが噂の帝国の花園でしょうか」
大きな噴水もあり、色とりどりの美しい花が咲き誇っている。
ガゼボも複数設置されている様で、お茶会などが開催されるそうだ。
大きなテーブルをソファが囲み、俺達がそれぞれ席に着くと、お茶や軽食が運ばれてくる。
ゼンドラル公爵も席に着き、また簡単にみんなの挨拶を済ませると、庭の説明を始める。
「先の皇帝が皇妃様にと作らせた庭園です。テオドール殿下も、幼い頃は良くここで遊ばれていました」
そう聞くと、中々良い場所だと思っちゃうね。
テオの子供の頃か。
可愛かったんだろうな~。
自然と笑顔になる俺に、ゼンドラル公爵が優しい顔を向ける。
「…正直申しますと、私共はテオドール殿下はご結婚なさらないのではと諦めておりました」
おお、正直ですな。
確かに、テオは貴族での結婚適齢期はとっくに過ぎてるからね。
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