173 / 247
168 推しの心配事
しおりを挟む「ふむ。皇帝には一応知らせておいても良いか?」
「もちろんです」
ジャメルに帰宅後、すぐにテオとの話し合いが行われた。
テオには、俺には前世の知識だけがあり、昔の記憶は無い事は説明してあったので、スムーズに話が進む。
「もしギルに昔の記憶が戻ったとしても、私がギルを愛する気持ちに変わりは無い。困難かもしれないが、必ずギルを支え、ギルと共に生きて行きたいと思っている。もし、帝国が難色を示すのであれば、私は皇族から抜けるだけだ」
テオが家族にハッキリとそう言ってくれて、俺は胸が熱くなる。
父様達も、ホッと安心していた。
帝国の皇族がここまで言うのだからと、俺とテオの婚約は継続で問題は無いと一同安堵したのだ。
「それでは、婚約の挨拶の話し合いに移りましょう」
父様がそう切り出すと、テオも頷き、ホセ兄様が説明を始める。
「護衛については、我が騎士団を数名同行する予定です。ギルも、剣を携帯する様に」
数名で良いのかと聞かれそうだけど、要らないくらいなんだよね。
なんせ父様とホセ兄様が居るからねぇ。
「馬車は四台ですね。テオドール殿下とギル。私達夫夫と、父とシェル様。そしてリーナイト公爵夫夫ですね。レッドドラゴンリーフの治験についても、進めればと」
「ああ。何人か候補を集めてもらっている。それについては…」
何とか帝国へ挨拶に行けそうだな。
内心ホッとしていると、ふとテオの表情が硬い印象を受ける。
どうしたんだろう。
一通り話し合いが終わると、テオが疲れているかもと思い、俺とテオは離れで過ごすと告げる。
「私とシェルは、また王都で今後の調整を行う予定だから、今日はリネーの屋敷に帰ろう」
「ああ。それなら、ジェレミーに届けて欲しいものが…」
父様達も色々忙しい様子だったので、俺とテオはそのまま離れへ引っ込んだ。
「お風呂は仕度が出来ております。こちらに何か軽く軽食を準備いたしますね」
「ありがとう」
メイドのララに礼を言いつつテオを見ると、やはり少し表情が硬い。
「テオ?どうしたの?」
「あ、ああ。…すまない」
テオは、おれを心配させてしまったなと苦笑する。
うーん。
これは何かあるぞ!
「テオ、お風呂に入ろ?」
「!」
いきなりのお誘いに、テオは驚いた顔をするが、俺は腕を引いてグングンと脱衣所へテオを押し込んだ。
軽食を持ってきてくれたララに人払いを頼み、俺もいそいそと脱衣所に入る。
テキパキとテオの脱衣も手伝い、広い浴槽に二人でゆったりと浸かる。
「ふぅ~。…で。どうしたのテオ」
「…ギルには敵わないな」
テオにピッタリとくっつくと、テオは肩に腕を回し俺を抱きしめた。
何かに困っているのか、傷付いている様にも見えるけど。
心配そうにテオを見つめていると、
「…ギルに昔の記憶が戻り、もし誰か想い人がいたらと思ってしまった。もし、今世でもその者が現れた時、私はギルを手放すつもりは無いと」
「テオ…」
テオが、そんな事を考えてたなんて。
俺は大丈夫だと言いかけて、記憶が無い事でそれも言い切れないと唇を噛む。
「帝都に記録のある記憶持ちは、前世の記憶を持っており、死に別れた恋人に会えたらと各地を探し回ったと記述があった。結局その者は探し出せず、一人で生涯を終えたとあった」
テオの話を、俺は静かに聞く。
「しかし、別の記憶持ちは恋人を見つけ出し、相手も記憶持ちであったと。二人はこの世界で結婚したと記述もあった。生まれ変わっても相手を愛していたのだ。もちろん、そうで無い者も多くいた様だが…。もしギルに記憶が戻り誰か他の者への恋心が蘇ったらと思ったら。情けないな…。それでも私は君を手放せないと強く思ったんだ」
「テオ…」
まさかの記憶持ちの弊害に、俺は深呼吸をして考える。
確かに、前世で愛し合った人がいて、その人がこちらの世界にいたとしたら、きっと俺も探し回るだろう。
だけど、俺には記憶が無いんだ。
知識しかないから、記憶持ちって言うより、知識持ちだしね。
「ね、テオ。俺の話を聞いてくれる?」
「ああ」
俺はテオと向き合う様に体制を変える。
「確かに俺は前世の知識と言う記憶を持っているけど、この世界で成長する上で構成された性格や記憶達は、ギル・ジャメルなの。家族が大好きなのも、いろんな事を考えて周りを少し幸せにするのが好きなのも、嫌いな奴らを打ち負かす事が好きなのも、魔術や剣術に優れているのも、全部ギル・ジャメルが培ってきたモノなんだ」
テオは、頷きながら静かに俺の話を聞いてくれる。
「だから、生まれて初めて恋心を抱いて、愛しいと言う感情を抱いたのはギル・ジャメルのモノなの。もちろん相手はテオだよ。もし、昔の記憶が蘇って来たとしても、今の俺を築き上げた年数と記憶と感情達が、その記憶に負けるとは思えない。テオ。俺が逆の立場だったら同じ様に不安だと思う。でも、あなたを愛しているギル・ジャメルを信じて欲しい。そして、手放さないで欲しい」
俺が力強くそう言うと、テオは優しく俺を抱きしめる。
この言葉は、テオだけに向けたモノではない。
俺に向けた言葉でもある。
前世の知識はあるけど、男性が恋愛対象だったとか、推し活してたなって記憶しか無かった事に、何の疑問も持っていなかった。
ジェレミー兄様の病気を治す事が第一だったし、テオに出会ってからも彼一直線には行けなかった。
でも、今は違う。
俺が今後一生を共にと決めたのは、テオだ。
もちろん家族と縁を切るなんて絶対に無いけど、第一に愛して行くと決めたのはテオだ。
そんな相手を不安にさせてしまったなんて、なんたる失態。
「テオ。これからは、ちゃんとテオと秘密を共有して行くね。だから、不安にならないで。俺が家族以外で愛しているのはあなただけ。胸が締め付けられるくらい想ったのもあなただけ」
「私も、生まれて初めてこんなに強く想ったのは君だけだよ」
テオの背中に腕を回し、俺達は強く抱き締めあった。
「愛してるよ」
「ああ。愛している」
そして、やっと笑顔になってくれたテオに、俺はキスをした。
544
お気に入りに追加
1,282
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる