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167 推しと記憶持ちの話
しおりを挟む「ふむ。ギルは賢者で記憶持ちと…。しかし、昔の自分の事は一切覚えていないと」
王とオール殿下、そしてサーガルド伯爵との話し合いで、サーガルド伯爵が難しい顔をしていた。
「記憶持ちは偶に存在するが、大抵は過去の自分の事を細かく知っている。家族や恋人などな。しかし、知識だけとは初めて聞いたな」
王もそう言うので、俺は何か問題でもあるのかと内心ヒヤヒヤしていた。
記憶持ちは、殆ど自分の記憶を細かく覚えているんだって。
その記憶を元に、自分が動くべき道へ進むんだとか。
そりゃ、前の記憶があったらその記憶を頼りに生きるよね。
悪い奴は昔も悪かったり、パニみたいに物語だと思い込んで暴走したりね。
そこに、オール殿下が口を開く。
「父上。ギルが記憶が戻ってからも、品行方正で周りの為に動いて来た事に、変わりは無いのでは?実際、周りを助ける発明やアイデアばかりですし。昔の自身の記憶が無いと言う事が、問題になるとは思えません」
そう言ってフォローしてくれる。
王も、確かになと頷いた。
「両親の死と言う大きなショックにより、知識だけが戻って来た可能性もある。もしくは、前の記憶の時に大きなショックを受け、自分に関する記憶を封じたのかもしれん」
「つまり、今のギルは昔の知識はあるが、人格はこちらでギル・ジャメルとして育ったと言う事ですな」
王とサーガルド伯爵家の難しい話を聞きながら、俺は確かにと思いを馳せる。
前世の記憶は確かにあるんだけど、自分の記憶にはハッキリモヤがかかっている。
家族も友達も、恋人がいた事も分からないし、顔も性格も思い出せない。
分かるのは同性が恋愛対象ってだけ。
この太々しい性格は、前世からのものなのか、こちらで逞しく育ったおかげかもだ。
正直、昔の十八ほどの知識が蘇り、そこから考えて生きて来たから、こちらで形成された性格と言っても間違い無いしね。
「それなら、過去の自身の記憶が戻ると言う事もあるのでしょうか?」
父様の言葉に、サーガルド伯爵はあるかもしれないと頷いた。
「しかし、今までのギルの性格が変わってしまう訳では無いだろう。新しい記憶で混乱する事もあるだろうが、そこは周りがしっかり支えて行く事が大事だな。テオドール殿下にこの事は?」
「伝えてあります」
「そうか。それなら問題も無いだろう。帝国なら記憶持ちの情報も多く持っているはずだ。もしもの時は殿下が動かれるだろう」
取り敢えず、どんな世界だったかの説明を聞きたいとの事なので、軽く説明をしておいたが、魔法も無い世界に皆、興味津々だった。
王城での話し合いで、何かあったらすぐに連絡をする事が決まり、俺は今まで通りに生活をして問題無いと決まった。
もちろん、俺が記憶持ちだとは公表されない。
今回の話し合いも、テオとの結婚に向けての話し合いだと周りには説明してある。
一応だが、帝国へ挨拶に行く際にと王家から文書を持参して欲しいとの打診があり、父様達と共に快諾した。
その後、リーナイト公爵家では、ホセ兄様達も俺達を待っていてくれた。
「つまり、三歳の時に一気に知識がついただけと言う事だな」
「いきなり奔放に動き出しはしたが、性格が変わった様子も無かったからな。もし、昔の自分に関する記憶が戻ったら、混乱するかもしれん。その時は、しっかりと周りに助けを求める様にな」
父様とお祖父様の話を聞きながら、神妙に頷いていると、ジェレミー兄様が心配そうな顔をしていた。
「…あの。もし昔の記憶が戻り、その記憶にギルが支配されたりする心配は無いのですか?」
確かに。
そう考えてると、ちょっと怖いかもしれない。
「ううむ。今のギルより太々しく、強い者だったら可能性はあるが…」
ちょっとお祖父様?
「そうだな。その時は厄介かもしれない。しかし、十八年以上こちらのギルの意識下の状態なら、問題は無いのでは。テオドール殿下にも相談し、帝国の話も聞いた方が良いだろう。陛下がおっしゃっていた通り、帝国には記憶持ちの情報も多く集まっているはずだ」
シェル様のフォローに、皆もそれが良いと大きく頷いていた。
近く、テオと一緒に帝国へ挨拶に行く。
その時に、記憶持ちの話もしないといけないからね。
「…取り敢えず、テオドール殿下としっかり話し合ってみなければ」
「うむ。一応こちらでの対応を伝えておかないといけないな。明日の朝には出発しよう」
一応話が収まった感じになると、俺は前世の世界についての質問攻めに合う。
「魔術も魔物もドラゴンもない世界か…」
「平和そうですが。…ええ!?空を飛んでいた!?」
「馬のいない馬車はジャメルも使用しているが、魔力も必要無い乗り物が沢山あるのだな…。数百人を一気に運べるとは」
「洋服や宝飾の加工に何日も掛かるんだね。皆さんはもっと軽装だったの?ふむふむ。ああ、こう言ったスタイルならこちらでも取り入れやすそうだね」
飛行機や車の説明から、電車やトイレやお風呂の話までしていく内に、どんどんビジネスの話になって行くのが面白い。
「恋人同士や家族が揃いで何かモノを持つ習慣は、あちらではよく見られたんだ。パニが言っていた物語を自分の好きな様に動かせる玩具もあったしね」
テレビやゲームについての説明は、皆感心が強く、観劇が家で見る事が出来ると説明しておいた。
「しかし、こちらでは中々作り出す事は難しいだろうな。しかし、令嬢達が夢中になるモノは似ていて面白いな」
その後、乙女ゲームの様に自分で物語を進める本を提案した。
ゲームの様にどちらかを選んで、そのページに進んで話を読んでいくスタイルなので、少し分厚くなったのだが、何通りも話が読めると、爆発的に流行ったのだった。
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