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166 推しと家族の絆
しおりを挟むあの後、屋敷に居た父様とシェル様、ホセ兄様とフロル様に秘密を打ち明けた。
父様が悲痛な顔をしていて、ショックだったのかとオロオロしていたら、父様は優しく抱きしめてくれた。
「昔の記憶が戻ってしまうほど、両親の死が辛かったのだな…」
あ、そっちか。
でも確かにショックで心がズタズタになっていたので、記憶が戻って何とかなったのは本当だけども。
「だから色々と考えつくのか。納得だな。それで、昔の名前は分かるのか?」
ホセ兄様に聞かれ、俺は首を振る。
「それがね、昔の知識はあるんだけど、俺がどんな人だったかは何も分からないんだ」
これは本当だ。
日本で大学生だった記憶はあるんだけど、名前も容姿も人間関係も分からない。
好きな人が居たかもだ。
「なるほど。記憶持ちか…。確かに国家機密だが、昔トーレにも存在していた記憶がある。賢者もそれに等しいと考えられていたが、その者は庶民として生まれ、最終的には貴族に仕えていたそうだ」
シェル様は三大公爵家だから、そう言った情報も持っていたのだろう。
国家機密なら、俺の耳にも入らないわな~。
「それにしても。その記憶がありながら、ギルは自分の為ではなく家族や周りの為に、動いてくれていたんだな」
父様の言葉に、周りも頷いてくれた。
だって、昔の俺自身の記憶が無いから、今の自分の周りを幸せにしようと思うのが普通じゃないの?
たくさん愛情を貰ったのだから。
俺の答えに、父様もホセ兄様も俺を抱きしめてくれた。
「そうか。急ぎになるが、このまま王都へ向かい、お祖父様やジェレミー達。そして城へ報告に行こう」
「うん」
父様はそのままテオに向き直り、頭を下げる。
「テオドール殿下。どうか、国からの指示があるまで帝国へは黙っていて頂けませんか」
「無論。私にとってはギルが最優先だ」
「ありがとうございます」
そして、そのまま急いで支度を済ませると、王都へ向かう事になる。
テオにはジャメルで待っていてもらう。
「ごめんねテオ。すぐに帰ってくるから」
「大丈夫だ。ギル。私は何があっても君の味方だから」
テオに見送られ、俺達はまずリーナイト公爵家へと馬車を走らせた。
その間、同じ馬車に乗った父様が辛そうな顔をしていたので、俺はやはり何か都合が悪い事があるのではとヒヤヒヤしていた。
リーナイト家には、報告を受けたお祖父様も来ており、俺達は一同集まった。
お祖父様とジェレミー兄様とセルジオ様に説明すると、もちろん驚いていたのだが、ジェレミー兄様は涙を流しながら俺を抱きしめた。
「ああ…。ギル。誰にも言えず不安だっただろう?気が付けなくてすまない。それなのに、そんなに昔から私や家族の為に、沢山無茶な事をして来たんだね」
「兄様…」
「ギル。ありがとう。だけど、お願いだからもう。無茶な事はしないで」
そう言って泣くジェレミー兄様の肩を、セルジオ様が優しく抱きながら頷く。
父様達も、大きく頷いていた。
ああ、そうか。
父様が辛そうな顔をしていたのは、俺に長い間、一人で秘密を抱え込ませてしまったと思っているからか。
三歳の頃から、俺は長い間一人で好き勝手してきただけなんだけど、家族からしたらそれだけ耐えて来たって見えるのか。
俺は反省した。
そうだよね。
俺が逆の立場だったら、同じ様に胸が痛むだろう。
俺は、自分のチートにあぐらをかいていた。
それが、こんなに家族に心配と心労をかけてしまう。
そう思うと、胸が痛くなって来て猛省した。
「…ごめんなさい」
絞り出す様に声が出て、一緒に涙も溢れた。
自信過剰になって、家族の気持ちを置き去りにしてしまっていた。
俺は強いからと好き勝手に動いていたけど、家族に心配をかけていた事に変わりは無いよね。
優しくジェレミー兄様に背中をさすられながら、俺は反省する。
「取り敢えず、国王へ報告し、今後の事を話し合わなければな。私が若い頃もその様な観劇が流行ったが、それは前世が恋人同士や敵対同士と言った話だったからな。王家なら何か詳しく話を知っているかもしれん」
お祖父様に言われ、俺達は城へと急ぐ。
ゾロゾロ行ったら何事かと思われるから、父様とシェル様、お祖父様と俺の四人で向かう事になった。
「ギルは自身の記憶は無いのだろう?」
お祖父様に問われ、俺は頷く。
「はい。暮らしていた事やその環境は覚えているんです。でも、自分に関する事は特に何も…」
推し活をしていた事は黙っておこう…。
あの世界とこの世界だと、考え方が違う気がする。
「ふぅむ。実はな、私も記憶持ちとされる者と接触した事があるのだ」
「えぇ!?」
お祖父様の告白に、俺も父様達も驚いていた。
お祖父様の生まれは元リネー領近くなのだが、平民である。
優秀な魔術師の功績を前王に認められ、伯爵の爵位を頂いたのだ。
それまでは、平民として冒険者に同行などもしていたので、その際に会ったと説明をしてくれた。
「その者は既に亡くなっているが、確かに昔の自分を知っていた。だが、ギルの様に新しい知識は特に無かったな。ドラゴンの存在にも驚いておったから、生きた世界や年代が違うのだろう」
その人は、魔法が普通にある世界だったそうだけど、魔物とかドラゴンは架空の生き物だったんだって。
のどかに農作物を育て、家畜を飼育している家庭が殆どで、偉い人も居たそうだけど、そんなにピリピリしていない世界だったとか。
魔法のある世界って時点で、違うよね。
ラッカルヘと送られたパニは、俺と同じ日本からだったっぽいし、同じ位の世代っぽかったけど、どうやら世界からしてランダムなんだな。
その事実に驚きながら、俺達は王家への謁見を待った。
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