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165 推しと前世の記憶
しおりを挟む前世の記憶を持つ者。
一部では記憶持ちと呼ばれているらしい。
それは、稀にこの世界に産まれると昔からまことしやかに語られてきた話らしい。
「ジェレミー殿が言っていた、ラッカルの令嬢もそれだと私は思っている。他にも、賢者と呼ばれ様々な開発や発明を行っている者達も、それに近いのだと」
なるほど確かにと思いながら、俺はテオの話を聞く。
「良い影響を与える者だけでは無く、やはりあの令嬢の様に、悪用しようとする者もいた様だ。賢者や聖者となれば良いが、紙一重という感じだな」
俺はまだ自由に生きてるけど、それなりに役になってるつもりだから良いのかな?
「悪い行いを扇動する者も、記憶持ちが現れたりすると厄介だと言うからな。まぁ、ほとんどが良い方向へ進むと文献にはあったが。スイレン神の導きと言われている」
「スイレン神の導き…」
スイレン神とは、この世界で広く信仰される、愛と平和を愛し、体を鍛え豊作を喜びなさいと言う信仰の神だ。
黒い髪と黒い瞳で美しい男性神であり、美しく鍛えられた青年で描かれる事が多い。
夫である大豊作のツキ神に愛され、その喜びを人々にも与えていると言われている。
スイレン神の導きとは、スイレン神の教えの中の一つだ。
祈りを捧げ、その祈りに応じる様に恵みを与えるとされるスイレン神は、神への祈りは神への愛。
愛を返す為に、悪い事が続かない様にスイレン神が手助けをすると伝えられている。
良い事と同じ様に悪い事も起こるが、それこそ神からの試練であり、最終的に神は皆を救うと言われている。
実際、魔物戦争の時にラッカルの神父達が魔物達やサンジカラを追い詰めた時も、ものすごい力を感じたそうだ。
「…実は、あの魔物戦争もサンジカラ側に記憶持ちが居るのではと言われている」
「サンジカラに?…でも、あり得るかも。トーレの令嬢もサンジカラと繋がっていたし、記憶持ち同士が繋がったのかも知れない」
記憶持ちなら、要注意人物だよね。
そんな人と同じ様に見られたら、どうしよう。
俺が難しい顔をしていると、テオは優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫。ギルが人々の役に立っている事は、誰にも覆せない事実だ。それに、実は我が国にもいるんだ」
「え??」
記憶持ちがいるって事?
それって国家機密なんじゃ…。
「まぁ、国家機密だな。だが、確かに国の中枢に存在している。だから、どうかギルも安心して欲しい」
テオったら!!
「そんな簡単に話したらダメだよ!テオの立場が悪くなったらどうするの!」
しょんぼりしていた俺が、急に怒った姿を見て、テオは驚いた後に笑い出す。
笑い事じゃ無いよ!!
「ははは!!やはりギルは悪人では無いな。自分より私を心配してくれた」
そう言って、おでこや頬にキスをしてくれる。
んもう…。
俺がジトーッと見ていると、テオは苦笑する。
「取り敢えず、帝国で皇帝達に話す前に、こちらの王達に話をした方が良いだろう。賢者と言う事で、受け入れられるだろうから」
「そうかな。…まずは、家族に話さないと。気持ち悪がられたりしないかな」
またもしょんぼりすると、テオは面白そうに笑う。
膝の上にいるから、笑ってる振動が伝わるんですけど!
なんかさ、意を決して告白したのにさ!!
解せぬ気持ちでテオを見ると、テオは軽く唇にキスをする。
「ギルにとっては重大な悩みだったのだな。私にとっては、昔の記憶がある愛する人だ。何も変わらない」
「テオ…」
「それに、君の祖父殿ならすんなり受け入れてくれる世代だろう」
え、世代によって関係あるの?
俺が不思議そうにしていると、テオはこちらで流行ったおかしな観劇を覚えているかと聞いてくる。
「うん。今は、ちゃんと悪い令嬢が断罪される話とかに変わってるって聞いたよ」
「いつの時代も観劇は人気だからな。ギルの祖父殿の世代には、記憶持ちとは断定出来ないが、昔の記憶を持つ者の観劇が流行ったそうだよ。帝国でも記録が残っているから、交流のあったトーレでも流行っただろう」
はー!?
いつの時代も訳わかんないのが流行るんだね。
「一番人気は記憶を持ちつつ良い者と、悪い者の話だな。最終的に良い者がスイレン神の力をお借りして悪い奴を倒すと言う話だ。設定や役柄は変わるが、同じ様な観劇がいくつも人気だったそうだ」
正義が悪を成敗か。
確かに、いつの時代も人気の出そうな感じだね。
それにしても、国家機密の記憶持ちに近い話を作るなんて、何処かで漏れてたのか?
それとも、記憶持ちがこっそり話を書いていたりしてね。
「ギルを記憶持ちと公言する事は無いだろう。記憶持ちが存在すると広く知れれば、悪用されかねないからな」
「そうだね。その方が良いかも」
何とか無事に話が終わりそうだなと安堵していると、テオが優しく抱きしめてくれる。
「安心したか?」
「!」
「私の愛は、こんな事では変わらないさ」
「テオ…」
テオからの熱烈な愛にキュンキュンしながら胸に抱きつくと、それにしてもとテオは続ける。
「三つの時に思い出したと言う事は、精神年齢は私と同じくらいと言う事か?それなら落ち着いているはずだな。いや、それにしては幼いのか…?」
ちょっとちょっとー!!
今、良い雰囲気だったよねぇ!?
「もう!三歳の可愛い盛りが、急に大人になったら気持ち悪いでしょ!」
精神年齢的に、テオと同じくらいでもおかしくは無いんだろうけど、末っ子で甘やかされてのびのび自由に生きてきた俺は、体に合わせて精神年齢も自由にしてるんだぞ!
そんな感じで説明するが、テオは面白そうに見ているだけだ。
「…ふん」
こうなったらと拗ねた様に横を向いたら、テオはまた楽しそうに笑って俺の頬にキスをした。
「すまないギル。機嫌を直してくれ」
「…」
「おっと。ダメか。…ギル?」
「…」
ふーんだ。
ぐるりと体を動かして、テオの膝の上から降りると、テオも立ち上がる。
「ふふふ。すまない。精神年齢が同じくらいなら、すぐに君を迎えに行ったのにと思ってな」
そう言いながら、後ろから抱きしめてくる。
まぁ、子供だから我慢してくれてたんだもんね。
でも体はピチピチですけど?
「中身も若い方が良かった?」
「まさか。ギルなら年上でも構わないさ」
ホントかなぁ?
そう思いながらも、上昇してきた機嫌に任せて、俺は振り返ってテオにキスをする。
「ん…。テオ、受け入れてくれて、ありがとう」
「ふふ。当たり前だろう?さて、ご家族に話に行かないとな」
テオに促され、俺は腹を決める事にした。
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