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163 推しとの出会い(回想)④
しおりを挟む「…そうか。分かった。レッドドラゴンの情報が来たら、すぐに君に知らせよう」
「!」
テオの言葉に、俺は驚いて顔を上げる。
レッドドラゴンの情報なんて、今考えれば極秘情報だろう。
それでもテオは、俺に教えてくれると言ったのだ。
その後は、一緒に行動を共にする様になった。
ギルドで俺が注目されたのは、テオが面倒を見ると公言していたかららしい。
もちろん、Sランクの冒険者と得体の知れない俺が行動すると、嫉妬やっかみもあったのだが、俺が魔術や剣術で相手をしたりしていたらそれも無くなっていった。
そして次第にテオに惹かれる気持ちが大きくなっていく。
テオは優しく紳士で、それでいてとても強くて頼り甲斐がある。
高価な薬草の依頼の時も、俺に多く渡してくれるし、俺の知らない薬草の効能なども詳しく教えてくれる。
学園の図書室より情報が多いなと、感心したものだ。
「この薬草は、遠い国の魔力拒否症に苦しむ平民が良く飲んでいる薬草だ。今はグリーンドラゴンリーフがあるが、以前は他の薬草に頼っていただろう?その中でも、貴族や王族しか使用出来なかった高価な薬草より、こちらを使った者の方が長生きしていたと分かったんだ」
「この薬草は知らなかった…」
国毎に、薬草の種類が違う事は知っていたが、初めて見る薬は錠剤で瓶に入っていた。
「こちらには自生していないし、風土に合わず育てる事は困難だ。だが、比較的安価で薬が手に入る。この一瓶が約一月分と考えて、金貨一枚だな。グリーンドラゴンリーフと併用して使う者も多い」
一月で金貨一枚なら、確かに安価だと思い、俺はジェレミー兄様にこちらも服用してもらおうと、取り敢えず三ヶ月分を買い求める事にした。
この時に、テオは俺がただの平民では無いと確信したそうだ。
この世界の通貨は国毎に違うのだが、小切手、金貨、銀貨、銅貨が主に使用されている。
平民の一月の平均的な収入は金貨五枚程なのに、金貨一枚を安価だと納得したからだ。
まぁ、元々グリーンドラゴンリーフを買えている時点で、平民では無いとバレていたのかも知れないが…。
「…ギーは何か欲しいモノは無いのか?」
「え?」
欲しいモノ??
その日もテオに薬草や討伐の話を聞きながら、ギルド近くの食堂で食事をしていた。
平民向けであり、冒険者が良く使う食堂で、テオはSランクと言う事もあり、よく個室やパーテーションで区切られた場所を利用していた。
「うぅ~ん。欲しいモノかぁ…。今は、あの薬草以外は特に無いかなぁ」
レッドドラゴンリーフ以外に無いと言うと、テオは苦笑する。
だって、ジェレミー兄様が助かるかも知れない最後の頼みの綱だからね。
「それはもちろんだが、ギー自身が欲しいモノだ。…いや、最近冒険者の若者の中でも、組紐のアクセサリー等が流行ってるだろう?」
あー、なんか流行ってますね。
組紐にガラス玉などを通したブレスレットだね。
冒険者や平民には流行っているらしいんだけど、俺は当時アクセサリーに興味が無かった。
「俺は興味無いかな。欲しいと思ったら買うだろうけど、今はそんなに…。あ、木の実のパイは食べたいかも」
俺が食べ物に話を変えると、テオは苦笑しながら注文してくれた。
露店などでも何か欲しいモノは無いのかと聞かれたが、俺は食べ物以外は特に無いと言っていた。
兄様達への土産は、俺が買わないとと思っていた事もあるけど。
今思えば、テオは俺に何か贈りたかったのかもしれない。
「…ギー。今夜は冷える。こちらへ」
「うん」
二人で野宿する時も、俺が魔術で目眩しを掛けたので、襲われる事は無かったが、念には念をと二人で交代で見張をした。
寒い時はくっ付いて寝たり、小屋を利用できる時は、数が限られているから同じベッドに寝たりもした。
どんな時も、俺が寝るまでしっかり周りを確認してくれているし、テオはほとんど仮眠を取っていない時もある事を知っていた。
テオが仮眠をしないなら、もう行動を一緒にしないと怒ったら、一応仮眠を取ってくれる様になった。
その時はケンやユウリが居てくれたりして、過保護だなと思っていたが、皇帝の弟なら当然だったんだな。
一度、どちらも居ない時に俺が本気で防護魔術を使ったら、テオは驚きながらもちゃんと寝てくれた。
その時に見た寝顔に、俺は思わずときめいてしまったのだ。
いつも精悍で、カッコ良くて。
Sランクの冒険者で、しかも皇族だからか、どこに行くにも周りを良く見ていた。
その鋭い目が、俺を見る時は優しくなる事も、俺は気が付いていた。
俺がつい気を抜いて笑顔を見せると、テオはとても優しい、愛おしそうな顔を見せてくれるのだ。
俺はあの顔を知っている。
無くなったゼノン父様が、コリーヌ母様を見ていた時の顔に良く似ていたからだ。
そんなテオの、寝顔は俺くらいしか見られないのだろうと思うと、とても特別な人間になった気がしたのだ。
(この思いが恋なんだろうか…)
ジェレミー兄様の病気を治すんだと気を張りすぎている俺に、テオは優しく色々教えてくれ、助けてくれる。
そんな相手に、張り詰めた気が緩んでるだけなんじゃ無いだろうか。
(でも。この人の隣には俺が居たい。ジェレミー兄様の病気を必ず治して、この人と生きて行きたい)
そんな思いが芽生え始め、俺はテオへの思いを確信していく。
日に日に体調が悪くなっていくジェレミー兄様に、気が気じゃ無い俺に、テオがレッドドラゴンの話を持ってきたのは、共に行動してから一年がたっていた。
そして、俺はテオとレッドドラゴンの元へと向かうのだった。
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