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162 推しとの出会い(回想)③
しおりを挟む小屋の外に出ると、ふと人の気配を感じる。
そちらを見ると、ケンとユウリが立っていた。
何だか気まずそうな顔をしている。
「…ああ、気になって戻って来たんだ」
「おいおい。私に信用が無いのか」
ケンとテオの軽口に、当時はテオを心配したのだろうとか仲が良いのだろうと思ったが、まさか俺が二人に気付くとは思わず、そう言って話を合わせていたらしい。
「丁度良かった。今から手合わせをするから、二人にも見てもらおう。ケンとユウリとはパーティーを組む事が多いからな」
「分かった」
ユウリも快諾し、俺も誰か見届け人が居た方がやり易いかと了承した。
俺が邪魔になるからとマントを脱ぐと、テオが驚いた顔をしていた。
俺は黒いシャツと黒いパンツ、黒いブーツだったのだが、とりあえず平民の店で買い揃えた物だ。
しかし、その中でも肌触りやらを考えて購入していたので、俺の年齢の平民が着るには上等過ぎる物だった様だ。
「…ふむ。それでは初めようか」
テオが剣を抜いたのを合図に、俺も腰から剣を抜く。
俺の剣を見て、ケンとユウリも息を飲んだ。
子供が遊びで使う剣では無いと気が付いたのだ。
俺の剣はホセ兄様からのお下がりだったので、半人前用だと思っていたのだが、テオに後から話を聞いたら本格的な騎士の剣だとすぐに気が付いたそうだ。
「…それでは。始め!!」
ケンの掛け声に、俺は取り敢えず一発入れてやろうと飛び込む。
ガァンッ!!
やはりテオは強い。
テオは俺の剣を受けると、すぐに攻撃の耐性に入る。
サッと後ろに下がるが、テオのスピードは早く、俺はすぐに剣を受ける体制を整える。
ガァンッ!!!!
スゴイ音が響き、俺もグググと堪える。
重っっっっ!!
手加減はしてくれているんだろうけど、絶対に強い。
俺が何とか受け止めると、テオもケン達も驚いた顔をしていた。
そして、バッと後ろに下がった俺をマジマジと見ると、テオは手を挙げて終了の合図をした。
これがテスト?
心臓がバクバクしているのを顔に出さないようにしつつ、俺は剣を鞘に戻す。
剣を受けた手がジンジンして、その事を気が付かれない様にテオに歩み寄ると、微笑んで迎えてくれる。
「いや、驚いた。合格だ」
剣を一回受け止めただけで?
俺が不思議そうにしていると、ケンとユウリが苦笑する。
「確かに手加減していたが、それでも彼の剣を受ける事が出来るのは限られている。随分若い様だが、動きも良いし打ち込みも力強かった」
ケンの言葉に、父様と兄様の稽古は無駄では無かったなと感じた。
テオの剣は確かに重く力強かったが、父様やホセ兄様に近いものを感じ、もう少しイケるかもと思えたからだ。
「さ、改めて自己紹介しよう。私はマラサッタ帝国のSランク冒険者のテオだ。この二人はどちらもAランクのケンとユウリ。私は基本的に一人で活動する事が多いが、パーティーを組む時はこの二人が多い」
改めて自己紹介され、俺は一度も名乗っていない事に気が付く。
「…Dランクのギーだ。平民だ」
取り敢えずそれだけ搾り出すと、テオは笑顔でもう少し話をしようと小屋の中へと誘う。
「じゃ、俺達は何か食べるモノを買って来るよ。ギーは食べられないモノはある?」
ユウリに聞かれ、俺は特に無いので首を振る。
「特に」
「おお、偉いね。あぁ、子供扱いしている訳じゃないよ。ケンが苦手なモノが多くってね」
「おいおい。余計な事を言うな。行くぞ」
「はいはい」
二人は仲良さそうにその場を去る。
ああ、そう言えば公私共にパートナーだとかギルドで聞いた気がするなと思いつつ、俺はマントを着ると小屋の中に入る。
「さて。確認なんだが、ギーは薬草以外の依頼には興味は無いのか?薬草関係の依頼ばかりこなしていると聞いているが」
「…ああ」
「ふむ。ランクを上げるには他の依頼も必要になって来るが…。薬草を採取する時に倒した魔物達でカウントされているのなら、問題は無いだろうな。前回の魔物を買い取った金は貰ったか?」
「…貰ってない」
この時テオは、俺が平民では無いと思い始めたらしい。
平民だったら、自分が稼いだ金をしっかり貰うはずだし、俺くらいの腕なら討伐の方が稼ぎが良いからだ。
「なら、帰る時に貰うと良い。…ギーの腕前なら討伐でも十分活躍できる。薬草に拘るのは何故だ?誰か病気なのか?」
ズバリと言い当てられ、俺はサッと顔を逸らす。
しまった。
これは肯定だ。
「…そうか。ふむ。どの様な薬草を探しているんだ?Sランクならどの依頼も受けられる。グリーンドラゴンリーフでは無いのだろう?」
グリーンドラゴンリーフなら、尚の事お金が必要だ。
金を払えば平民でも、自由に買う事が出来るからだ。
「…」
「確かに現在はグリーンドラゴンリーフ以外に入手困難な薬草もあるが、グリーンドラゴンリーフより効能が良いとはあまり聞かない。ギーは一体何の薬草を探しているんだ?」
言うしか無いか。
そりゃ、帝国にはグリーンドラゴンリーフがあるもんね。
お金目当てでグリーンドラゴンリーフ以外の薬草を探し回る冒険者も多いけど、俺の実力でお金目当てでも無いのは、不自然に見えてもおかしく無いのだろう。
「…レッドドラゴンリーフを探してるんだ」
「レッドドラゴン…」
テオは、とても驚いだ顔をした。
レッドドラゴンに会うなんて夢のまた夢だし、レッドドラゴンリーフなんて、帝国でも入手困難な逸品だからだ。
自生しているなんて聞いた事もないしね。
それでも、レッドドラゴンは架空の存在では無いと言われているのは、昔、ラッカルの神父がレッドドラゴンリーフを授けられて重い病気を克服したからだ。
何の病気かは記されていないが、文献でしっかり残っていて、その文献も診断され本物だと証明されている。
それを見た俺は、コレならと希望を持ったのだ。
そして、本当に極稀に、市場に出る事があるのだ。
もちろん、俺みたいな田舎貴族が買える値段じゃ無い。
王族だって厳しい値段だ。
「ギーの家族は、どんな病気なんだ?レッドドラゴンリーフは、早々手に入る品物では無いぞ」
テオの質問に、俺は意を決して口を開く。
「…魔力拒否症なんだ」
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