転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

文字の大きさ
上 下
167 / 247

162 推しとの出会い(回想)③

しおりを挟む

小屋の外に出ると、ふと人の気配を感じる。

そちらを見ると、ケンとユウリが立っていた。

何だか気まずそうな顔をしている。

「…ああ、気になって戻って来たんだ」

「おいおい。私に信用が無いのか」

ケンとテオの軽口に、当時はテオを心配したのだろうとか仲が良いのだろうと思ったが、まさか俺が二人に気付くとは思わず、そう言って話を合わせていたらしい。

「丁度良かった。今から手合わせをするから、二人にも見てもらおう。ケンとユウリとはパーティーを組む事が多いからな」

「分かった」

ユウリも快諾し、俺も誰か見届け人が居た方がやり易いかと了承した。

俺が邪魔になるからとマントを脱ぐと、テオが驚いた顔をしていた。

俺は黒いシャツと黒いパンツ、黒いブーツだったのだが、とりあえず平民の店で買い揃えた物だ。

しかし、その中でも肌触りやらを考えて購入していたので、俺の年齢の平民が着るには上等過ぎる物だった様だ。

「…ふむ。それでは初めようか」

テオが剣を抜いたのを合図に、俺も腰から剣を抜く。

俺の剣を見て、ケンとユウリも息を飲んだ。

子供が遊びで使う剣では無いと気が付いたのだ。

俺の剣はホセ兄様からのお下がりだったので、半人前用だと思っていたのだが、テオに後から話を聞いたら本格的な騎士の剣だとすぐに気が付いたそうだ。

「…それでは。始め!!」

ケンの掛け声に、俺は取り敢えず一発入れてやろうと飛び込む。

ガァンッ!!

やはりテオは強い。

テオは俺の剣を受けると、すぐに攻撃の耐性に入る。

サッと後ろに下がるが、テオのスピードは早く、俺はすぐに剣を受ける体制を整える。

ガァンッ!!!!

スゴイ音が響き、俺もグググと堪える。

重っっっっ!!

手加減はしてくれているんだろうけど、絶対に強い。

俺が何とか受け止めると、テオもケン達も驚いた顔をしていた。

そして、バッと後ろに下がった俺をマジマジと見ると、テオは手を挙げて終了の合図をした。

これがテスト?

心臓がバクバクしているのを顔に出さないようにしつつ、俺は剣を鞘に戻す。

剣を受けた手がジンジンして、その事を気が付かれない様にテオに歩み寄ると、微笑んで迎えてくれる。

「いや、驚いた。合格だ」

剣を一回受け止めただけで?

俺が不思議そうにしていると、ケンとユウリが苦笑する。

「確かに手加減していたが、それでも彼の剣を受ける事が出来るのは限られている。随分若い様だが、動きも良いし打ち込みも力強かった」

ケンの言葉に、父様と兄様の稽古は無駄では無かったなと感じた。

テオの剣は確かに重く力強かったが、父様やホセ兄様に近いものを感じ、もう少しイケるかもと思えたからだ。

「さ、改めて自己紹介しよう。私はマラサッタ帝国のSランク冒険者のテオだ。この二人はどちらもAランクのケンとユウリ。私は基本的に一人で活動する事が多いが、パーティーを組む時はこの二人が多い」

改めて自己紹介され、俺は一度も名乗っていない事に気が付く。

「…Dランクのだ。平民だ」

取り敢えずそれだけ搾り出すと、テオは笑顔でもう少し話をしようと小屋の中へと誘う。

「じゃ、俺達は何か食べるモノを買って来るよ。ギーは食べられないモノはある?」

ユウリに聞かれ、俺は特に無いので首を振る。

「特に」

「おお、偉いね。あぁ、子供扱いしている訳じゃないよ。ケンが苦手なモノが多くってね」

「おいおい。余計な事を言うな。行くぞ」

「はいはい」

二人は仲良さそうにその場を去る。

ああ、そう言えば公私共にパートナーだとかギルドで聞いた気がするなと思いつつ、俺はマントを着ると小屋の中に入る。

「さて。確認なんだが、ギーは薬草以外の依頼には興味は無いのか?薬草関係の依頼ばかりこなしていると聞いているが」

「…ああ」

「ふむ。ランクを上げるには他の依頼も必要になって来るが…。薬草を採取する時に倒した魔物達でカウントされているのなら、問題は無いだろうな。前回の魔物を買い取った金は貰ったか?」

「…貰ってない」

この時テオは、俺が平民では無いと思い始めたらしい。

平民だったら、自分が稼いだ金をしっかり貰うはずだし、俺くらいの腕なら討伐の方が稼ぎが良いからだ。

「なら、帰る時に貰うと良い。…ギーの腕前なら討伐でも十分活躍できる。薬草に拘るのは何故だ?誰か病気なのか?」

ズバリと言い当てられ、俺はサッと顔を逸らす。

しまった。

これは肯定だ。

「…そうか。ふむ。どの様な薬草を探しているんだ?Sランクならどの依頼も受けられる。グリーンドラゴンリーフでは無いのだろう?」

グリーンドラゴンリーフなら、尚の事お金が必要だ。

金を払えば平民でも、自由に買う事が出来るからだ。

「…」

「確かに現在はグリーンドラゴンリーフ以外に入手困難な薬草もあるが、グリーンドラゴンリーフより効能が良いとはあまり聞かない。ギーは一体何の薬草を探しているんだ?」

言うしか無いか。

そりゃ、帝国にはグリーンドラゴンリーフがあるもんね。

お金目当てでグリーンドラゴンリーフ以外の薬草を探し回る冒険者も多いけど、俺の実力でお金目当てでも無いのは、不自然に見えてもおかしく無いのだろう。

「…レッドドラゴンリーフを探してるんだ」

「レッドドラゴン…」

テオは、とても驚いだ顔をした。

レッドドラゴンに会うなんて夢のまた夢だし、レッドドラゴンリーフなんて、帝国でも入手困難な逸品だからだ。

自生しているなんて聞いた事もないしね。

それでも、レッドドラゴンは架空の存在では無いと言われているのは、昔、ラッカルの神父がレッドドラゴンリーフを授けられて重い病気を克服したからだ。

何の病気かは記されていないが、文献でしっかり残っていて、その文献も診断され本物だと証明されている。

それを見た俺は、コレならと希望を持ったのだ。

そして、本当に極稀に、市場に出る事があるのだ。

もちろん、俺みたいな田舎貴族が買える値段じゃ無い。

王族だって厳しい値段だ。

「ギーの家族は、どんな病気なんだ?レッドドラゴンリーフは、早々手に入る品物では無いぞ」

テオの質問に、俺は意を決して口を開く。

「…魔力拒否症なんだ」









しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話

あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった 親は妹のゆうかばかり愛してた。 理由はゆうかの病気にあった。 出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。 もう愛なんて知らない、愛されたくない そう願って、目を覚ますと_ 異世界で悪役令息に転生していた 1章完結 2章完結(サブタイかえました) 3章連載

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...