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161 推しとの出会い(回想)②
しおりを挟む奥の部屋と呼ばれる、ギルド長室の前に着くと、俺はノックをする。
「んー?誰だぁ?」
「Dランクのギーです」
気の抜けた声がするが、ギルド長だと分かり、俺は声を掛ける。
「ああ。入ってくれ」
「失礼します」
そう言って大きなドアを開けると、中は使い込まれたソファーとテーブルが置かれ、ギルド長のデスクもある。
奥にもう一つ扉があるが、ギルドの保管庫に繋がっているらしい。
ギルド長は元Sランク冒険者のムーク。
元貴族だとか、元皇城騎士だとか噂はあるが、確かに腕が立ちそうな男である。
短く刈り上げられた茶髪と、もみあげまで繋がったカストロスタイルの髭がダンディだ。
黒い瞳で、ガタイも良く父様より年上だろう。
促されるままテーブルを挟んだ向かいに座ると、
「テオの事だろう?」
「…はい。何か話がしたいとか」
俺がそう言うと、ムークは苦笑して事の次第を教えてくれた。
「お前さんは中々腕が良い。それ以上に実力を隠している感じもする。依頼もソツ無くこなすし、早い。だがいつも一人だろう?うちのギルドは名前や素性は隠せるが、年齢だけは診断されるからな。十四でDに駆け上がったお前さんには、周りも興味津々だ。すぐにランクを上がって行くだろうなと」
ふむふむ。
俺はムークの話を黙って聞く。
「そうなると、周りは放っておかないだろう。それに…。お前さんの顔を見た奴らが色めき立ってな。さすがに子供に手を出す奴は俺が叩き潰すが、一人行動されてたら監視も難しい。そこでSランクであるテオに相談したら、腕が良いなら一緒に行動しても良いとの事だった。そこでテオに頼んで少し見張って貰っていたんだよ」
あら~俺罪な男~。
何て冗談は通じなそうだから、黙って聞いておく。
ランクの高い冒険者が、下の者を指導する目的で行動を共にするって良くあるんだよね。
ギルド長は俺の才能を買ってくれた様で、テオに提案したみたいだ。
「テオは立派なSランクの冒険者だ。身元は俺が保証しよう。見る所、お前さんは薬草関係の依頼ばかり見ているだろう?Sランクなら、もっと上の依頼も舞い込む。テオと話してみろ。もし良さそうだったら、テオと一時期行動を共にしてみたら良い」
ギルド長にそう言われたら、まぁ考えるけど…。
確かに、Sランクの依頼なら、もっと良い薬草にありつけそうだし。
「…分かりました。話をしてみます。彼が今どこにいるか分かりますか」
「ああ、今は北の洞窟の魔物狩りに行っている。そろそろ終わるだろうから、街外れの小屋に行くと良い。場所は分かるか?」
北の洞窟とは、ゼランの外れの洞窟だ。
たまに魔物が住み着いてしまうので、冒険者に依頼が良く来ている。
ここから魔力を使って走れば、すぐに着きそうだ。
「はい。行ってみます」
俺がそう言うと、ムークはホッとした様に笑う。
「そうか。それなら向かってくれ。誰か付けるか?」
「いえ、必要ないです」
「分かった。今日はテオと一緒にAランク冒険者のケンとユウリが行動しているはずだ」
「分かりました。ありがとうございます」
テオと良く行動を共にしている二人だなと納得し、礼を言うと俺は部屋を後にする。
今思えば、平民のフリしてたり周りに無愛想にしてるくせに、こんなに礼儀正しい奴って中々いないよね。
両親が亡くなってから、周りに舐められない様にと、特に礼儀や振る舞いに厳しく躾けられていた事もあるのか、ついつい貴族に染みついたモノが出ちゃうんだろうな…。
部屋を出て受付に行くと、ママルが俺に気付いて声を掛ける。
「終わった?ね、テオのとこに行くのよね?悪いんだけど、この手紙を頼まれてるのよ。一緒に持って行ってくれないかしら」
ママルには話しが通っている様で、俺は頷いて赤い封筒の手紙を受け取る。
「テオ?ってあのSランクの?」
「ああ、そうみたいだな…」
周りで冒険者達が騒ついているが、無視して北の洞窟近くの小屋へと急ぐ。
ふと、後ろに着いて来ようとする気配を感じるが、あっという間に振り切って先を急ぐ。
トーレにもあるが、マラサッタ帝国は大国なだけあって、冒険者が利用できる小屋が多くある。
簡易なホテルみたいなもんだ。
気配を消して急足で小屋に着くと、人の気配がある。
ケンとユウリだ。
ケンはゴツい黒髪短髪黒目のイケオジで、ユウリは長い金髪と黒目の細身の美人だ。
二人はパートナーらしく、穏やかな感じだが、腕が立つ事で有名だ。
消していた気配を少しずつ出して行くと、二人はバッとこちらに気が付く。
やはりAランクも中々だなと感じつつ、俺が二人に近づくと、二人は俺が来る事を分かっていた様に笑顔で出迎えてくれた。
「ああ、君か」
「テオと話があるんだろう?俺達は食事に行ってくるから、ゆっくり話をすると良い」
二人はテオは小屋の中に居ると言うと、そのままその場を後にする。
こちらも今思うと護衛が外で監視していただけであって、食事と言ってその場から離れただけで、近くにはいたのだろうと思う。
コンコンとドアをノックすると、扉にテオが近付いて来る気配がする。
すぐにドアが開き、テオは笑顔で出迎える。
「やあ、入ってくれ」
やはり俺の気配も察してるんだなと、感心しつつ無言で頷いて中に入る。
簡易の小屋ではあるが、トイレとバス、簡単なキッチンはある。
ソファーとテーブルもあるし、二段ベッドが二つから三つあるのが大体の小屋のスタイルだ。
人数が多かったら床に雑魚寝は普通だし、雨風が凌げるだけで十分なのだ。
「…ママルから手紙を預かった」
「ああ、ありがとう」
取り敢えずママルからの手紙を渡すと、テーブルを挟んでソファーに腰掛ける。
「さて、ギルド長から話は大体聞いたんだろう?君は薬草以外には興味が無い様だが、俺と一緒なら高級な薬草の依頼も入ってくる。もちろん難しい任務にはなるのだが、君の魔術なら問題は無いと思う。まぁ、私について来れるかのテストは軽くしたいのだが」
ふんふん、なるほど。
ギルド長やケンとユーリの様子からして、テオが周りに俺の話をしていない事は薄々気が付いていた。
ギルドで周りの目が俺に集まるのも、テオが関わっていると周りにそれとなく流していたからだそうだ。
さすがにSランクの冒険者が関わっている相手に、無理に手を出そうとする奴は中々いないからね。
「…テストは何をするんだ」
俺がそう聞くと、テオは俺の腰の剣を指差した。
剣術か。
最近、本格的に父様と兄様に稽古をつけて貰ってるからな。
俺も、どこまで通用するのか、試してみたいかも。
そう思い、俺は了承し、外へ出た。
もし俺より弱かったら、利用するだけにしておこうと考えながら。
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