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155 推しの悩み
しおりを挟むなごやかな雰囲気の中、俺はフロル様の表情に一瞬陰りを感じる。
俺の推しセンサーが、何かを感じているぞ!!
「…フロル様??」
俺がフロル様に話しかけると、ハッとした様に何でも無いと笑顔を見せるが、いや、何かあったな!!
すると、ホセ兄様は知っている様で、フロル様を優しく抱き寄せた。
「ああ、ヨハン殿の事だろう」
「…はい」
ああ~。
ヨハンね!
「ああ。例のシンプラー家の子息により、知らない間に違法薬物を使用されていたそうだな。それもサンジカラからの薬物と聞いた。シンプラー家は爵位返上の上、子息も重い罪が課せられるだろう」
セルジオ様がそう言うと、周りの貴族達も大きく頷いていた。
俺がデラス侯爵に進言してから、デラス侯爵はあっという間に真実を暴いた。
やはりヨハンは違法薬物を盛られており、洗脳の様な状態でリリーを盲信していた様だ。
今現在はしっかりと治療を受けており、デラス侯爵は王家へ事実を伝え、急ぎでの調査になった。
問題だったのは、やはりサンジカラの薬物である。
帝国でも問題になっていたので、関係したであろう貴族達の摘発も早く、王都の貴族の間でも一気に話が広まったのだ。
「…私がヨハン殿の異変に気が付いていればと」
あああフロル様!!
そんな事無いです!優し過ぎますよ!!
「そんな事はありませんよ」
俺が食い気味で言うと、周りは苦笑しつつも力強く賛同してくれた。
「シンプラー家の子息の愚行は許し難いですが、悪い輩の集まりにうっかり参加してしまった、ヨハン様も不注意ですわ。フロル様の優秀さに引け目を感じているのは、私共も薄々感じておりましたが」
そう言ってハイリ嬢がフォローすると、カイリもうんうんと頷く。
「そうだよ。ちょっとした好奇心でも、やっぱり公爵家の人間として付き合う相手は考えなければならなかったよ」
周りのフォローに、俺もうんうんと頷きつつ、フロル様が心を痛めるだろうと思って立ち回っていた事を思い出す。
ヨハンの件は一早く俺の耳にも入っており、その時にヨハンへの同情が出ると同時に、フロル様への良からぬ噂も立つだろうと察知した俺は、全力でデラス侯爵に色々とお願いをしておいたのだ。
「それに、今現在のヨハン様は大変幸せそうだと聞いていますよ」
俺がそう言うと、フロル様はそうなのかと不安そうな顔で聞いてくる。
「ええ。何より、デラス侯爵の動きの速さが証拠です。デラス侯爵家はヨハン様を大切になさっている様ですし、ヨハン様も満更では無い様子。…実は、昔からヨハン様は夫よりも嫁になりたいのでは?と思っていたんです」
俺がそう言うと、フロル様は驚いた顔をしていたが、確かにとセルジオ様は頷いた。
「確かに、デラス侯爵がヨハン殿を溺愛していると聞いたな。フロルと婚約破棄した後に、侯爵から嫁にと話があったと聞いている。ヨハン殿も特に反抗する事なく輿入れしたと言うことは、お互い悪い話では無かったのだろう」
セルジオ様の話に、ハイリ嬢の婚約者でありケーキ伯爵と呼ばれているケイクも、確かにと会話に参加する。
「ええ、私もそう思いますよ。デラス侯爵家は、今まであまり我が商会の菓子や冷菓を購入される事は無かったのですが、ヨハン様は甘いモノがお好きだったからか、最近はお得意様になっておりますから。この前は、デラス侯爵自身が奥様にとお買い求めにいらして。体調の悪いヨハン様にと冷菓を購入して行かれたと、店の者が驚いていましたから」
あのデラス侯爵が。
そんな感じで周りも会話が弾んでいるのを、俺はしめしめと見守る。
デラス侯爵ったら、結構動いてくれたんだねぇ。
俺が、ヨハンのフォローもすると宣言しておいたから、それならとフロル様が悪く言われない様にと動いてくれているのだ。
ヨハンとフロル様の婚約破棄は、色々あったけど結果的には正解だったと言う空気を作ってくれている。
フロル様はホセ兄様と評判の夫夫になったし、ヨハンもあの冷酷っぽい侯爵が甲斐甲斐しくしている、若奥様と言うイメージに変わりつつある。
今回の件は、シンプラー家の悪行の一つだったと言う話に、すんなりと持って行けそうなのも後押ししてるしね。
「サンジカラの薬物が、こちらまで来ているとはな」
「ええ、やはり油断は出来ませんね。サンジカラの王族の一部は、既に国外に潜伏していると聞きますから」
帝国の客人達も、最終的には悪いのはサンジカラと分かっているので、そう言った方向へ話が持って行けるのはありがたい。
「帝都へ挨拶へ行った後に、ジェレミー兄様に共同でお茶会を開いて貰う事になっているんです。その時にはヨハン様も落ち着いていらっしゃるだろうから、お誘いして貰う手筈になっています。その時にお話しをしてみてはどうでしょうか?」
俺の提案に、ホセ兄様がそれが良いと言い、フロル様もそれならとホッとした様に頷いた。
友人とまでは行かなくても、二人にシコリが無くなって和解したと言う解釈が広がれば、二人をとやかく言う輩も減るだろう。
ヨハンに思う所はあったけど、サンジカラの薬物って聞いたら仕方ないかなとも思うしね。
ま、デラス侯爵が予想以上にヨハンに入れ込んでるから、ヨハンの為と思ったら素早く確実に動いてくれるし、こちらとしても動きやすくてありがたい。
そう思いつつ、俺はテオとの婚約パーティーを楽しんだ。
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