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153 推し達の交流
しおりを挟むサーディンに大丈夫だと目配せしつつ、俺はお客様達の交流にも目を向ける。
「もしやチンタック男爵家の?初めまして。帝国で仕立て屋を営んでおりますガルドルと申します」
「ああ、帝国の。貴殿の活躍は聞き及んでおります。初めまして、チンタック男爵家のミークと申します。こちらは私の婚約者である、ランデバス伯爵家のセーラです」
「初めまして」
おお、仕立て屋同士の交流だね。
ガルドル伯爵は、ミーク嬢のデザインを褒めていたので話が弾む様だ。
「レモンのデザートは本当に画期的ですね。私はワインも甘いものも苦手でして…」
「お口に合って良かったです。こちらのレモンのシャーベットは…」
色々と交流や商談も進んでいる様子で、俺とテオは良かったと顔を見合わせて笑う。
「改めて、おめでとうございます。テオドール殿下、ギル様」
そう言って話しかけてきたのは、テオの師匠である冒険者のドンガルバだ。
後ろにはゲールもいる。
短く刈り上げられた茶色い髪と、穏やかだが冒険者らしい鋭い茶色の瞳を持ち、やはり大きな体付きで、何処となく父様やホセ兄様を彷彿とさせる。
「ああ、ありがとう。ギル、彼がドンガルバだ」
「初めまして」
俺が挨拶すると、ドンガルバはとても優しい瞳で俺を見ていた。
「…まさか、殿下がゼノン殿達のご子息と婚約するとは、驚きました。その瞳。父上に良く似ています」
俺の両親の友人であり、最後を看取った人。
しっかりサーディンを守り切ったと言うのに、オレント伯爵には、妻を救えなかったのかと責められたと聞く。
いや本当に、俺の中のオレント伯爵のイメージ最悪だからね。
「サーディン殿も、立派になられましたね。我々では力が及ばなかったもので…。本当にありがとうございます」
ドンガルバは、サーディンを優しい眼差しで見ており、息子のゲールも穏やかな顔でサーディンを見つめていた。
父親からの仕打ちで心を病んだ後も、ドンガルバや息子のゲールはサーディンと交流をしていた様で、サーディンは彼らにも恩返しがしたいと良く話していた。
「いえ、サーディンの元々の才能が開花したまでの事ですよ。とても気が利いていて私も大変助かっています。…早く一人前になってもらって、良い縁があればとも考えています」
にっこりとゲールに目を向けながら言うと、ゲールは慌てた様に咳をする。
「もちろん、お相手に立場は求めませんので。貴族だろうとなかろうと、彼が幸せに暮らす事を私は望んでいます」
立て続けにそう言うと、ゲールは照れた様に頭を掻いた。
「はっはっは!いやはやサーディン殿は可愛らしい方ですし、ギル様の執事として紹介されましたら、今後求婚される事もあるでしょうね。…その前に動けるかどうか」
ドンガルバがゲールを見ながら言うと、ゲールは顔を赤くしながらも俺達に挨拶を済ませるとサーディンの元へと歩み寄って行く。
「ふむ。ゲールならサーディンの相手に相応しいだろうな。もしオレント伯爵が文句を言おうものなら、私が間に入ろう」
テオもそう言ってくれたので、俺は笑顔でお礼を言う。
そして、ドンガルバにテオの昔話をと向き直ると、テオは苦笑した。
「ドンガルバ。私のカッコ悪い話はしないでくれよ?」
「大丈夫。ちょっと失敗してるくらいが良い男なんだよ?」
俺がそう言うと、テオもドンガルバも顔を見合わせて笑った。
え~?
良い男の失敗エピソードって良くない?
何でもかんでも完璧を求めるのって、自分もそれくらい完璧なのかって話だし、そもそも完璧だとしても相手に求めるのは違うと思ってるしね。
「テオドール殿下は、本当に素敵な方を射止められましたね。昔から討伐やらばかりで、女性にも男性にもおモテになると言うのに、一人が楽だとおっしゃっていましたが。いつも率先して危険な任務ばかりをこなして来られました。心配していましたが、こうやって大切な方もいらっしゃいますから、あの様な無理はなさらないでしょう?私も安心しましたよ」
テオは前皇帝と瓜二つだった事もあり、兄よりもテオをと言う声もあった事は俺も知っていた。
しかしテオは、賢くそして国民の事をきちんと考えている兄を尊敬しており、自分は違う道に進むのだと言う意思を、ハッキリ周りにアピールする為に剣術を始めたのだった。
そんな時に皇城で剣術指導をしていたドンガルバと出会い、彼の指導の元、剣術の腕を上げていったんだとか。
ドンガルバは指導も上手く、テオの気持ちも理解してくれて、良き相談相手になってくれたそうだ。
そして兄が皇帝になったのだが、それでも度重なる貴族からの縁談に辟易としていたテオは、ドンガルバが騎士を辞めて冒険者の道を進むと決めた時に、自分もと考える様になったんだとか。
初めは皇帝にも反対されていたらしいけど、テオの素性を隠して動き、国への危険因子を潰したいと言う熱い思いに納得して認めてくれたんだって。
「それにしても、ギル様は確かにお若いですが、考え方がしっかりされていて驚きました。さすがトーレの賢者様です」
前世の記憶はあまりないけど、三歳から覚醒した事を考えたら、テオと同じくらいですよとは言えない。
同じくらいだけど、子供だもーんって精神で生きてきてるから、年相応でもあったりするからね。
「私がこんな事を申し上げるのは失礼なのですが、どうかテオドール殿下をよろしくお願いします」
そう言って、ドンガルバは頭を下げる。
「ドンガルバ…」
テオにとっては、もう一人の兄の様な存在なのだろう。
さすがに皇帝には相談出来ない事もあっただろうしね。
「もちろんです。テオと夫夫になって、この地を盛り立てて、かならず二人で幸せになります。テオが私に愛を注いでくださる様に、私も彼を誰よりも大切にしますから」
俺がハッキリそう言うと、テオは嬉しそうに笑い、ドンガルバは満足そうに頷いた。
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