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152 推しと情報交換
しおりを挟む「ふぅ…。おっと、いけないいけない」
挨拶がやっと終わったと溜息をついてしまい、いけないと慌てて笑うと、テオが俺の肩を愛おしそうに抱き寄せる。
「ふふ。挨拶も一通り終わったな。さ、食事を楽しみながら、それぞれと話を楽しもう」
「うん。テオもリードしてくれてありがとう」
さすがに帝国の皇子は、ホストとしての客人への対応に慣れているらしく、俺はその隣で笑顔で挨拶するくらいしか出来なかったな。
ま、一通り名前と顔は覚えたけどね。
兄様達も社交を楽しみ、初めましての方々と話しているので、俺とテオは俺の友人達の輪へ入る。
「皆さん。今日はありがとうございます」
俺がそう言うと、ハイリ嬢がとても嬉しそうに話し始める。
「お二人とも、本当におめでとうございます。ギル様。実は私の弟が屋敷の周りをぐるりと一周、歩ける様になりましたの」
「ええ!?本当に?それは良かった」
弟とは、魔力拒否症の治験に参加してくれたケイリだよね。
他の治験者の経過も順調そうで、良い報告を貰っている。
「ええ。父も母も喜んで靴を買い揃えていて、兄も私も購入していたものですから、靴ばかりで皆で笑ってしまいましたわ。来年からは、学園にも通えるだろうと。本当に、ギル様には感謝しかありません」
帝国からの客人は、幼子が歩き始めたのだろうと微笑ましく聞いていたが、学園に通えると聞いて、不思議そうな顔をしていた。
「ギル。もしや、魔力拒否症の?」
そこでテオが、分かりやすい様にと会話を振ってくれる。
「ええ。プラム伯爵家のご子息にも、レッドドラゴンリーフの治験に参加して頂いたんです。参加された方々は、ターン王子を始めとして、皆さん回復に向かっているんですよ」
俺がにこやかにそう言うと、帝国からの客人達も驚いていた。
「魔力拒否症の…!ああ、いきなり会話に入ってすまない。帝国のポートランスと申します」
帝国の宝石商であり、皇帝の友人のポートランス公爵は、ジェレミー兄様の結婚式にも来てくれていたよね。
確か、その時もレッドドラゴンリーフに関心がある様だったな。
「こちらは帝国の宝石商のポートランス公爵だ」
テオがスマートに紹介すると、ハイリ嬢達も挨拶を交わす。
「こんな事をお聞きするのは失礼かも知れませんが、もしやポートランス公爵のお知り合いにも、魔力拒否症の方が?」
俺がそう聞くと、ポートランス公爵は重々しく頷いた。
テオは初耳だった様で、ポートランス公爵に話を促した。
「…実は、私の娘が今年、双子の男の子を出産したのですが…。どちらも魔力拒否症だと診断されまして」
「そうでしたか」
つまり、ポートランス公爵のお孫さんって事だよね。
話を聞けば娘が帝国の公爵家へ嫁いだのだが、生まれた双子が魔力拒否症と言う事で、現在は魔力の弱い者を雇って離れで世話をしている状態なのだとか。
ポートランス公爵の娘であるミルトも、夫であるマランド現公爵も魔力が高い為、双子に長時間近寄れずにいると言う。
もちろん帝国のグリーンドラゴンリーフを使用しているのだが、病状を抑えているだけでいずれは衰弱してく運命。
その為、新しい後継を求められているらしく、娘夫婦は心を痛めているんだとか。
帝国の公爵家と言ったら、そりゃ後継は絶対って感じだもんね…。
「…テオ。それでしたら、帝国でのレッドドラゴンリーフの正式販売に向けての治験に、参加して頂いたらどうでしょう。まだ赤子の治験者はいらっしゃらないですので、合意は必要ですが」
「うむ。早速マランド公爵家へ連絡を取ろう。ポートランス公爵。私とギルは、来週には帝都で皇帝に挨拶をと考えていて、その時にレッドドラゴンリーフの販売に向けて話し合いもと思っていたのだ。こちらでも治験者は必要だからな。良かったら協力して欲しい」
ジャメルでも赤ちゃんの治験者はいなかったし、ポートランス公爵の孫だったら帝国の貴族も文句は言わないだろう。
「…!宜しいのですか?」
「当然だ。…私の友人も成人する前に亡くなり、それが普通の事だと考えていたが」
そう言って、テオはジェレミー兄様を見る。
「こうやって、治癒して成人しているギルの兄上を見て、希望の光を感じた。ジャメルでは良い報告を聞いているし、帝国でも早く普及出来る様に努めたい。あと数人にも声を掛けようと思っている」
力強く頷くテオに、ポートランス公爵は感動した様に頭を下げた。
そこに、帝国の薬商家のニムラス伯爵も会話に加わる。
「それでしたら、あと何人かは心当たりがありますよ」
「ほう。それなら、治験者の手配はニムラス伯爵家に頼もうか」
テオに同意を求められ、俺はそれが良いでしょうと賛同する。
「そうですね。帝都で魔術師をしている貴族夫婦の次男も発症していると聞いていますし。そうそう。帝都で騎士をしているオレント伯爵の次期当主である、アルバス殿の息子も魔力拒否症だと聞いている。彼にも声を掛けたいのだが」
その名前を聞いて、俺の執事であるサーディンが一瞬動揺したのを感じる。
執事達は目立たぬ様に壁側にいるのだが、会話は聞こえているからね。
そうか、オレント伯爵の次期当主と言う事は、サーディンの兄の子供か。
ニムラス伯爵や他の帝国貴族はサーディンに気が付いておらず、そのままオレント伯爵家の話になる。
「奥方を失ってから、まるで感情を無くした様に剣術に励む様になって…」
「ご子息達も辛かったでしょうに、嫡男以外は見捨てたと聞きましたよ?」
「次期当主は、現当主と同じ考えだった様だが、自分も家庭を持って考えが変わって来たそうだよ。魔力拒否症と聞いて現当主は見切りを付ける様に進言したそうで、大きく衝突したのだそうだ」
どうやらサーディンの父親は相変わらずの様だが、嫡男は家庭を持ち、子供が産まれて、父親の対応に疑問を持った様だ。
これは良い傾向なのでは?
「…テオ、次期当主と一度お話をしてみたいですね」
「そうだな。私も賛成だ」
サーディンの為にも、一肌脱ごうじゃないか。
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