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146 推しと貴族返上の足音
しおりを挟む「本日はこの様な素晴らしい祭りに参加でき、大変嬉しく思う。皆も美しい花と音楽を楽しんで欲しい」
オール殿下の言葉に、会場は一気に盛り上がり、貴族に雇われた音楽隊や踊り子達が素晴らしい演奏や踊りを披露し始める。
あの後急いで皆に事の次第を説明し、しっかりオール殿下に嘆願書を渡した。
そして今日行おうと考えている作戦にも賛同を貰えたので、俺達はおとなしく催し物を楽しむ。
「あら、このチンタック男爵家って王都の仕立て屋さんよね?」
「音楽隊も雇っているのかしら?」
会場がザワザワしていると、チンタック家の催し物が始まる。
音楽隊の軽快な音楽に、チンタック家自慢の服で身を包んだ踊り子達が、軽やかに踊りながら舞台を一周する。
俺がそれとなく提案した、言わばファッションショーだ。
花祭りに良く似合う、花をモチーフにした服が多く、観客も大いに盛り上がる。
「あの花柄のワンピースドレス、素敵だわ!」
「大きな花の柄のスカートの優雅な事!花祭りにぴったりじゃない?」
女性だけでなく、男性も花祭りを彩る様な、柔らかなパステルカラーのシャツやパンツなどを披露する。
正直、この世界ではあまりパステルカラーって需要が無かったんだけど、こう言った色が似合う人だっている訳だし、花の季節っぽくてこの時期にはぴったりだと思うんだよね。
もちろんパステルカラーだけでなく、黒地や白地に花柄を刺繍した物や、モノトーンに仕上げたものも発表されている。
「柔らかな色だな。ジェレミーにも良く似合いそうだ」
「ふふふ。春らしい色ですね」
セルジオ様とジェレミー兄様が、楽しそうに話している。
でもパステルカラーって俺には何となく似合わない色~!
「柔らかい色も多いが、あちらの黒地に花の刺繍の施されたシャツや白地に黒と金の花柄のシャツは、ギルに良く似合いそうだな」
「あのグレーのシルクシャツに銀糸で刺繍されたシャツは、テオにピッタリだね」
テオは俺に似合いそうなのを良く分かってるね!
そんな感じで周りも楽しんでいると、後数組の発表となる。
進行をしている者が、飛び入り参加の提案を始めると、何組かが楽しそうに前に出てくる中、アンルカも真っ赤なドレスで登場した。
俺が密かに噂を拡散させているから、彼女の悪行は既に広まっていたりするんだが、彼女はその事にまだ気が付いていない様子だ。
それよりも、既にホセ兄様達が結婚式を挙げている事を知って、憎々しげにフロル様を睨み付けたのを俺は見逃さなかった。
それぞれが楽しそうに歌などを披露し始め、俺の手配通りにアンルカ嬢は最後に披露する事になった。
「さて、先程の方達をこちらに案内してもらおう」
父様がそう言って支持を出すと、俺達も始まったと目配せをする。
俺達の席の後ろには控え室の様なスペースがあり、護衛や執事が待機しているのだが、そちらにゴードン達を待機させる。
アンルカが名前を呼ばれると、周りは大きく騒ついた。
歓声と言うより戸惑った声が多かった為か、アンルカは不穏な空気を感じながらも舞台に上がると、オール殿下やこちらに恭しく頭を下げたまま話し出す。
「本日は飛び入りでの参加を認めて頂き、誠にありがとうございます。シンプラー伯爵家のアンルカと申します。私が熱く思いを寄せる方へ、愛の讃歌を披露させて頂きます」
彼女が名乗ると、周りは更に大きく騒ついた。
「アンルカって、例の?」
「ああ、間違いないな」
「!!見ろ!ホセ様達と一緒に…」
「ああ!本当だ!!」
平民達も、小声で話が広がって行き、アンルカは益々不穏な空気を感じつつ、頭を上げる許可を待っていた。
「…シンプラー伯爵家のアンルカよ。面を上げよ」
オール殿下の言葉に、ホッとした様にアンルカは頭を上げるが、同じ様に舞台に立つ人物達を見て、大きく動揺した。
隣には帽子を取ったココンと、そのココンの肩を優しく抱いたユータルが立っており、その後ろにはゴードン夫妻もいる。
そして、俺やホセ兄様とフロル様。
ジェレミー兄様も一緒に舞台に上がっているのだ。
「…な、どうして」
それ以上言葉の出ないアンルカに、音楽隊も開始して良いのか分からずに困惑している。
「あの傷を見ろ。あんなにキレイな子に、なんて酷い事を」
「ホセ様達がお隣にいらっしゃると言う事は、オール殿下も彼女達の見方なのかしら?」
周りは、これから何が起こるのかを察した様で、オール殿下の動向をしっかりと待つ。
「アンルカ嬢。あなたは王都外れの食堂でこちらの女性に暴力を振るい、この様にケガをさせたにも関わらず、自分の行いが露見しない様にと治癒院へ行く事を阻止したそうだな」
オール殿下の言葉に、貴族達は大きく騒つき、噂話が広がっている平民達は固唾を飲んで見守っている。
「アンルカ嬢が!?兄上が娼館で問題を起こしたり、例のサンジカラの令嬢をダイヤ公爵家の子息に引き合わせたりしていたから、シンプラー家はアンルカ嬢が継ぐと言われていましたのに」
「ああ。まさかアンルカ嬢まで問題を起こしていたとは!シンプラー家はもはや爵位返上しか道が無いのでは?」
「あんなに大きな傷を、顔に作っておいて。治癒院にも行かせなかったなど大問題だろう?アンルカ嬢は何がしたかったのだ?」
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