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145 推しとの話し合い
しおりを挟む「失礼する。…あぁ、やはりパーラ伯爵の」
そこへ、父様がシェル様を連れてやって来た。
「父様はパーラ伯爵をご存じなんですか?」
俺がそう聞くと、父様は優しい顔で頷いた。
「ああ。パーラ伯爵は剣術の腕にとても長けていて、私も何度か稽古をつけて貰ったんだ。あの頃は魔物戦争で多くの貴族も被害に遭い、親族を亡くされた。…そうか、伯爵の令嬢が被害に会っていたのか」
父様はココンの傷を見て、悲痛な顔をした。
親族が亡くなった時、ココンはまだ幼く養子を望む貴族も多かったのだが、両親が討伐へ行く間は友人であるゴードンの食堂に遊びに行っていた事もあり、不安定になったココンが唯一心を許したのがゴードン夫婦だったのだ。
ゴードン夫婦には他に娘がおり、その娘もココンを妹の様に可愛がっていたのも理由だろう。
国からの見舞金や両親の遺産は、しっかりココンに残されていると言うから、ゴードン夫婦の人間性が良く分かる。
「私が、ココンを店に出していなければ…」
「お父さん!そんな事ないわ!いくら元が貴族だからって、私は今お父さんの娘なのよ。家の手伝いをするのは当然だわ」
何と立派な。
アンルカとは大違いじゃないか。
真っ直ぐ純粋に育ったからこそ、ユータルとの間に愛を育めたんだろう。
これは推すべき人達だと、俺は心の中で大きく頷いた。
「ギル、彼女の傷は治せるか?」
父様の問いに、俺はもちろんと答えるが、今回傷を治すのは俺では無い方が良さそうだとも思っている。
そう伝え、俺はココンに向き直る。
「群衆の前で傷を見せるのは辛いかもしれませんが、アンルカの暴挙を多くの人に暴く為にも、あなたの治癒は表舞台で行った方が良いでしょう。無理にとは言いませんが、もし可能でしたら」
俺がそう言うと、彼女は今後の流れを理解したのだろう。
決心した様に大きく頷いてくれた。
話も分かり頭の回転も早い。
彼女は貴族の夫人としても向いているなと感心する。
「その時は、私も君の隣にいる。一人では無いよ」
「ありがとうユータル」
二人のやりとりに、俺は今後の作戦を説明する。
父様とシェル様、ゴードン夫婦も納得してくれたので、話はスムーズに進みそうだ。
父様とシェル様は、ホセ兄様達に説明する為に部屋を出ていく。
「それまで、こちらの控え室にいて欲しい。そちらの窓は外からは中が見えない仕様になっているから、どうか催し物も楽しんで欲しい」
「ギル様。本当にありがとうございます。ジャメルの花祭りの日に嘆願書など、せっかくの祝い事に水を差す行為でしたのに…」
ゴードン夫婦とココン達は鎮痛な面持ちで頭を下げるが、俺はどうか謝らないで欲しいと皆に言う。
「実は、アンルカ嬢のホセ兄様に対しての執着に呆れていて、調べていた所に彼女の醜態が入って来たんです。詳しく調べたらあなた達の話を知りまして。貴族の一人としても、放っておく訳には行きませんでしたから。こちらこそ、行動が遅れてしまって申し訳無い」
俺が微笑んでそう言うと、ゴードンの妻は嬉しそうに涙を流していた。
良い貴族アピールもだけど、やっぱりそう言った行動って許せないのは本音だからね。
「あの、実は我々がジャメルの花祭りで行動に移したのは、花祭りへの誘いの手紙を頂いたからなんです。安心して楽しんで欲しいと…」
ユータルが何か確信めいた様に俺を見て言うので、俺はにっこりと笑う。
「…お二人とも良く似合っていますよ。チンタック仕立て屋の帽子は、被り心地も良いでしょう?」
俺がそう言うと、ココンは感動した様に涙を流し、ユータルも大きく頭を下げた。
「大丈夫です。私が必ず、皆さんが笑顔でお帰り出来る様に努めますから」
そう言って、俺は来賓席へと急いだ。
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