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143 推しと来賓
しおりを挟む花祭り三日目になると、会場は大きく様変わりしていた。
広い円形の会場を音楽隊や踊りの会場に変化させ、貴族と平民をしっかりと分けて席を用意してある。
今日はオール殿下達もいらっしゃるので、最高貴賓席も準備されている。
円形の会場で、舞台も円形になっており、ご自慢の音楽隊や踊り事達の披露の場となっている。
もちろん花祭りだから、会場には花々が多く飾られていて、他の場所でも花祭りは続いているから、催し物はその中の一つって感じだね。
貴族が通る道も一気に広く確保して、花を綺麗に飾って歩道と分けてある。
平民達は歩道から、馬車や貴族の装いを楽しめるのだ。
「見て!あの馬車すごく大きいわ!」
「あちらの令嬢のお洋服素敵ね。花柄のワンピースドレスが王都の流行らしいわよ」
「花祭りにピッタリねぇ!チンタック男爵家の仕立て屋も今日は特別に出店してるんですって。見てみない?」
「柔らかい色のシルクシャツが、紳士の間でも流行っているんだな」
貴族はこぞって旅行先での服装を楽しんでいて、平民達も新しい流行を楽しんでいる。
チンタック男爵家が花祭りに合わせて、花柄の服や花の様な色の服を沢山発表したので、今回も花祭りに良く映える服装の貴族が多い。
今日はチンタック男爵家も平民向けに、少し生地の質を落とした商品を何サイズか作り、販売すると聞いている。
貴族はオーダーメイドが多いけど、平民はいくつかのサイズから合うものを購入するのが普通だからね。
「さ、俺達も音楽隊の会場に向かおう。テオは帝国皇帝の弟君だから、オール殿下の近くの席を用意してあるの。堅苦しいけど我慢してね?」
今日のテオの装いは、チンタック家で仕立てた俺と対のものだ。
黒字に金の刺繍が施されてあり、二人とも上着は無しでウエストコートのみだ。
シャツは今日に合わせて、薄い黄色のシルクシャツを揃いで着ている。
「ふふ。ギルが隣に居てくれるのなら何処でも良いさ。…例の伯爵家の姿はあったか?」
「伯爵夫婦の姿はあったね。アンルカ嬢は飛び入りで参加するつもりなんだと思う」
会場の貴族席も人で埋まり出している。
シンプラー伯爵夫婦だけ席についており、さすがに問題児である子息は連れて来なかった様だ。
アンルカ嬢が王都で数人音楽隊を雇った話は耳にしているし、音楽祭最後の飛び入り参加で、ホセ兄様への愛を歌う予定だと言う情報も掴んでいる。
「テオドール殿下、本日はご参加ありがとうございます」
そこへ、ホセ兄様とフロル様が挨拶にやって来る。
二人は結婚式ほど派手な服装ではないが、白いシルクシャツの上に、深い青のウエストコートを羽織り、そのウエストコートには美しい花の刺繍がされていた。
フロル様の美しい髪には花が飾られており、ホセ兄様のベストのポケットにも花が溢れて飾られている。
お揃いと言った感じで、とても良く似合っているが。
…。
うん。
フロル様、色気がマシマシで増してない?
これ俺の気のせいじゃないよね!?
そんな思いはお首にも出さず、俺は笑顔で二人に挨拶をする。
テオと俺に準備された席は、中央がオール殿下とリーカイ様で、ホストであるホセ兄様とフロル様が右側。
父様とシェル様も右側に座る。
俺達とジェレミー兄様とセルジオ様は、左側と言った感じだ。
「花々も美しく、民も大変喜んでいた。素晴らしい祭りに参加できて誇らしく思う。来年も開催されるのなら、是非帝国にも宣伝したい」
テオがそう言うと、ホセ兄様は満足そうに頷いて、フロル様の腰を抱き寄せる。
「ありがとうございます。毎年同じ時期に開催を考えています。…私とフロルの結婚記念日としてもアピール出来ますからね」
「ホセ様ったら…」
ホセ兄様とフロル様は、顔を見合わせて微笑みあった。
ごちそうさまですー。
目の保養を楽しみつつ、俺もスススとテオの隣にくっついて、テオに甘えておく。
テオが満更でもない顔で俺の腰を抱き寄せていると、オール殿下とリーカイ様が到着したとの知らせが来る。
「我々も出迎えよう」
「うん!」
ホセ兄様達と一緒に、会場入り口へと向かう。
「王家の馬車だわ!」
「キレイだけど、豪華ではないのね」
「陛下の意向らしいわ。無駄に豪華にする必要ではないって」
俺達が出迎えに出ると、立派な馬車が停まっていた。
「ホセ様~!フロル様~!」
「ギル様もいらっしゃるぞ」
「テオドール殿下だわ!」
群衆に手を振りつつ、オール殿下が降り立つのを待っていると、一人の平民の男が駆け出して来る。
慌てた様にリーカイ様も降りて来て、オール殿下を守る様に前に出た。
「止まれ!!」
警備隊が取り押さえるが、男は必死に手に持った書類を掲げている。
「オール殿下!!どうか嘆願書を見てください!!」
嘆願書と言う言葉に、俺はその男が昨日の群衆の中にいたと気付く。
オール殿下とリーカイ様は顔を見合わせて、悪人には見えない男に戸惑った様子だ。
「…私が預かりましょう」
スッと前に出て、俺が男から書類を受け取ると、警備隊に開放する様に促した。
「…よろしいのですか?」
警備隊がオール殿下やホセ兄様を見ると、俺の意向を受け入れてくれた。
「ギルが大丈夫と言うのなら安全だろう。さ、オール殿下とリーカイ様を中へ」
ホセ兄様はそう言って俺に目配せすると、オール殿下とリーカイ様、そしてテオを連れて貴賓席へと案内していった。
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