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139 推しと花祭りのメインイベント
しおりを挟む「わぁっ!見て、あの花の大きなこと!」
「この香水は、花祭りの花の香りを抽出しているんですって」
「この花は食用なんだと。ほら、ケーキやゼリーに入っているぞ」
「面白いね!!」
花祭りはジャメルの領地で広く行われ、花畑は数箇所あり、花を使った商品も多く出店されている。
今日は平民向けなので、ハンドクリームや香水なども簡易な瓶などで提供されている。
貴族向けになると、香水瓶も凝ったモノが好まれるけど、平民はそうでも無いからね。
目新しく、それでいて平民にも手に取りやすいモノを、平民が売り出す形にしているので、出店は賑わっている。
「このお肉も美味しいわ。ね、腹ごしらえしたら、あちらの花畑を見に行きましょうよ」
「良いね!あっちには花飾りが販売しているそうだよ。何かプレゼントさせて欲しいな」
恋人同士や親子連れも多く、食事しやすいテーブルやイスを多く準備したのは正解だった。
平民も楽しめる様にと、ちょっとした音楽隊や見せ物も準備してあるのだが、今日は特別なパレードになる。
「あ、お母さん!何か始まるよ!」
子供達が楽しそうに、見せ物が行われる広場に駆けて行く。
ワラワラと人が集まり始めると、広場には魔術で動くやぐらが、美しい花々で飾られて登場した。
「あら?領主様と、あの方はホセ様じゃ無いかしら?お隣は婚約者のフロル様よね」
「本当ね。それにしても、お二人とも素敵なお召し物ね~。お似合いだわ」
やぐらの上には、現当主である父様と、ホセ兄様、フロル様が乗っている。
父様は仕立ての良い黒の礼服を着ているが、ホセ兄様は白地に青と赤の刺繍が施されたスラックス、ウエストコートにロイヤルブルーのファーが施された、ロイヤルブルーのマントを羽織っている。
フロル様はホセ兄様と対のスラックスとウエストコートを着用し、ジェレミー兄様の時の様に、ホセ兄様と同じ色のファーの付いた、美しいレースのショールを羽織っている。
そして、魔術で声が届く拡声器の様な物の前に、父様が立った。
『本日は、我がジャメルの花祭りに参加して頂き、誠に感謝している。本日よりジャメルは新しい当主としてホセが治める事となった。隣に立つフロルと共に、ジャメルを一層盛り立てて行くであろう。本日は、新しい領主であるホセの結婚式も兼ねている。数に限りはあるが、振る舞いの酒と菓子を用意している。どうか最後まで楽しんで貰いたい』
良く通る声で父様がそう告げると、周りはワッと盛り上がる。
「まさか、領主様の結婚式も行われるなんて!来て良かったわ~」
「今日は平民向けだと聞いているよ。領民に寄り添って行かれる姿勢を感じるね」
そして、ホセ兄様はフロル様の肩を抱いて前に出て来る。
『本日より、ジャメル当主になったホセだ。最愛のフロルと共に、今まで以上にジャメルを盛り立て、今まで通り守って行く事を誓おう。新しいジャメルの門出を、どうか期待して欲しい』
ホセ兄様の挨拶が終わると、俺は魔術で花弁を舞わせ、それを合図にレッドドラゴン達が空を舞う。
「見て!レッドドラゴンだ!」
「凄い!ドラゴンも祝福しているんだね!」
直ぐに花の飾りを身に纏った者達が、酒や菓子を振る舞い始め、音楽隊と踊り子のダンスも始まる。
ゆっくりとやぐらも動き始め、ホセ兄様とフロル様は周りに手を振りながら、広場を一周するのだ。
後はお祝いムードでお祭りを楽しんで貰って、俺達は教会に向かう。
極秘で進めていた計画だけど、リーナイト家もジャメル家も、お祖父様も参加したのはこの為だったのだ。
フロル様の友人はカイトしか参加出来なかったが、三日目の催し物の時に貴族向けにお披露目はする事になっている。
「それにしても、平民向けの祭りの日に結婚の発表とは。さすがにホセ殿に懸想する令嬢も考え付かなかっただろうな」
面白そうに言うテオに、俺は頷く。
「貴族向けのお祭りの日に何か事を起こしそうだったから、先に結婚宣言してしまおうってなったんだ。ホセ兄様とフロル様の出会いのお話も一気に広まるし、サプライズ感もあって楽しいでしょ?これだけ盛大にやってしまえば、後から自分が相応しいなんて言ったらそれこそ白い目で見られてしまうもの。今日の為に号外も準備したし、二人の馴れ初めを歌ったり踊ったりして貰う様に指示もしてあるの。配るお菓子も、花祭りと二人の結婚を袋に刺繍してあるし、ああいった袋って平民の方々は結構使い回したりするんだ。だから、お土産にもなるし、後々のアピールにもなるの」
俺がそう言うと、テオはなるほどと配られているお菓子を見ていた。
白い麻の巾着袋に、花と二人の結婚を祝した言葉が刺繍されており、中には焼き菓子が数点入っている。
小物の持ち運びに丁度良いサイズだし、結構綺麗に刺繍されているから、普段使いされるのを狙っている。
「花祭りが開催される度に、二人の結婚式が思い出されるでしょ?新しい領主の結婚式と花祭りを結びつけて、盛り立ててればお祝いムードになって更にお祭りが楽しめるからね。王都でも号外を出して貰う手筈になっているから、こちらに来る時には二人の結婚は知れ渡ってる様にしたんだ」
「さすがだな。さて、我々は教会に向かおうか」
テオとこっそり広場を見ていた俺は、手を繋いで教会へ向かう。
俺達が分かりにくくなる魔術を掛けているので、周りにはバレてない。
「こういったデートも楽しいな」
そう言って微笑んでくれるテオに、俺は笑顔で頷いた。
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