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130 推し達とのお茶会
しおりを挟む「やぁ、ジェレミー殿、ギル殿。ようこそいらっしゃいました」
ドンク公爵夫人であるセクト夫人のお茶会に参加するために、俺とジェレミー兄様がお屋敷を訪れると、息子であるリーカイ様がお出迎えしてくれた。
「リーカイ様。先日の結婚式にご参加いただき、ありがとうございました」
「とても良いお式でした。さ、こちらで母がお待ちしています。どうぞ」
にこやかに会話をしながら、ドンク公爵家へ足を踏み入れると、やはり三大公爵家の一つだけあってとても立派なお屋敷だ。
リーナイト家はシェル様の意向もあって、草花が美しい庭に良く似合いのお屋敷だったが、こちらはどちらかと言うと要塞の様な物々しさがある。
もちろん華やかな作りではあるが、周りはぐるっと石垣で囲われているし、小さな小窓が数ヶ所あるのは監視窓だろう。
中に入るとそれなりに木や花はあるし、日当たりも良い。
ドンク公爵家はどちらかと言うと騎士などに精通しているし、国家の軍の中枢的存在だから当たり前かもしれないが。
「母様。ジェレミー殿とギル殿がいらっしゃいました」
「ああ、どうぞ」
失礼しますと部屋に入ると、セクト様の趣味が良いのだろう、豪華な作りの家具を合わせているが、どこか落ち着いた雰囲気がある。
丸いテーブルには五脚の椅子が用意されており、セクト夫人とセフ夫人が既に着席していた。
どうやら今日のメンバーはこの五人の様だ。
それにしても、俺もジェレミー兄様も顔には出さないが驚いた。
「ようこそいらっしゃいました。ふふふ。驚いたでしょう?」
そう言って立ち上がったセクト夫人は、長かった髪をバッサリと切り、仕立ての良い黒に金糸の刺繍が施されたスラックスとウエストコートにブルーグレーのシルクシャツと言う、男性の格好をしていたのだ。
「とてもお似合いですよ」
俺が笑顔で言うと、セクト夫人は良かったと微笑む。
「さ、二人ともどうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
セクト夫人に促されて、俺達は着席する。
「今日はお茶会にお呼び頂いて、ありがとうございます。リーナイト家とジャメル家からは焼き菓子と、今度売り出す予定の香をお持ちしました」
「ありがとう。これは旦那様が話されていたものかな?」
「はい。香りも良いですので、今後色々な香りをブレンドして国内外に広めて行けたらと考えております」
ジェレミー兄様とセクト夫人の話を、俺は黙って聞いておく。
この会の主役はセクト夫人だし、ジェレミー兄様の公爵家としてのお茶会のお勉強だからね。
「セクト夫人、セフ夫人。結婚式においで下さいまして、ありがとうございました。ドンク公爵においては、ダンスのお相手も感謝しております」
「ふふ。旦那様の素敵な姿を見る事が出来て楽しかったよ。レッドドラゴンは初めて見たけれど、あの子は子供なんだろう?レス殿に良く懐いておられるんだね」
「はい。父と兄は髪の色も赤ですので、親近感がある様です」
給仕によってお茶やお菓子が振る舞われながら、俺やリーカイ様はニコニコ話を聞く側に徹する。
「私も、久しぶりに故郷に帰る事が出来て嬉しいわ。結婚式のダンスのお相手はどちらもドンク家で正解でしたわね。素敵だったわ」
セフ夫人がニコニコと笑顔で話し出した。
リーカイ様も礼を言い、おしゃべりがスタートする。
「それにしてもセクト夫人。今までのお召し物も良く似合ってらしたけど、何か気持ちの変化が?」
おお、さすが聞きにくい事もズバリですね。
セフ夫人の問いに、セクト夫人は少し照れ臭そうな顔をした。
どうやら悪い話ではない無い様だ。
「…実は。子供も三人大きくなりましたし、リーカイも王太子殿下との婚約が決まりました。私がこちらに嫁いだ時は、考えの古い方が多く、女装する事が普通だったんです」
なるほどと俺達は頷く。
「それに、旦那様の想い人も女性でしたから」
少し寂しそうに話すセクト夫人に、俺達は緊張するが、セクト夫人は微笑む。
「リーナイト公爵家も代替わりしますし、我が家も息子に代を譲る時期に来ました。本人の意向で無い場合は、自分の好きな格好で良いのでは無いかと旦那様と話し合いまして。元々私はこういった服装を好んでいましたからね」
悪しき習慣を、ここら辺で断ち切ろうと言う事だろう。
「それでしたら、周りにもそう伝えなければね。努めが終わり、公爵夫人を辞するのかと思われますわ」
俺達が真剣に聞いていると、セフ夫人が鋭く質問する。
「…ええ。実は、旦那様にもそう聞かれました。どこかに嫁に行きたいのかと」
そう言いつつも、少し嬉しそうなセクト夫人の声色に、どうやら良い感じに話が収まったのだろうと俺は感じた。
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