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126 推しと貴族達
しおりを挟む結婚式のダンスは日を跨ぐまで続くのだが、ダンスをしない人達は商談や談笑を楽しみ、自分が好きな時間に帰って行く。
主役の二人もさっさと退場しても良いし、最後までゲストにお付き合いするのも自由だ。
俺や家族は、セフ夫人達との会話を楽しむ事にした。
セフ夫人の話は面白く、お祖母様がいたらこんな感じだったんだろうなと言う親しみやすさもあった。
「セルジオは本当にお父様にそっくりになったわね。こんなに素敵な方を娶ったのだから、公爵としてもしっかりするのよ?シェルも今まで大変だったわね。まだまだ若い青年には、大きな重圧だった事でしょう。それでも、立派に勤めて家を盛り上げてくれましたね。レス殿と幸せになるのよ。フロルも大変だったけれど、こんなに素敵な殿方を捕まえるなんて。私に似ているだけはあるわ」
ほほほと笑うセフ夫人に、セルジオ様達は苦笑しながらも会話を楽しんでいる。
お祖父様に聞く所によると、リーナイト公爵家の令嬢でありながら信仰深く、ラッカルに留学した際に今の旦那様に見初められて婚約になったそうだ。
昔から行動力のある令嬢で、成績も優秀。
トール王国では王族や他の高位貴族に、すぐにでも嫁入り出来ると言われていたそうだ。
お祖母様とも仲が良かったそうで、お祖父様が貴族になり結婚する時も随分力を貸してくれたと言う。
だからコリーヌ母様も、セフ夫人を頼ったんだな。
高齢だけど、フロル様に良く似た美人さんだし、お話は面白いし良い出会いが出来たな。
ホクホクしていたら視線を感じ、そちらに目をやるとドンク公爵の夫人と目があった。
その事に気が付いたドンク公爵が、俺とテオに夫人を連れてやってくる。
「テオドール殿下。ギル殿。私の妻のセクトです」
「初めまして」
「初めまして。こうやってお話しさせて頂くのは初めてですね」
テオの挨拶の後に、俺がそう言うと、セクト夫人は優しく微笑んだ。
リーカイ様に良く似ていて、黒髪黒目の美人だ。
今日は黒に銀の刺繍が華やかな、タイトなロングドレスとケープを身に纏っている。
女性にしては長身だな。
「ええ。公爵やリーカイからはお話を伺っています。ご婚約おめでとうございます」
んん?
随分と声が低いと思ったけど、女性ではなく男性だな。
この世界では同性同士で結婚出来るからか、女装や男装を好む人も多い。
何世代か前の貴族達の間では、男が嫁として嫁ぐ場合は女装を。
女が女を娶る時は、男装を強いられる事も多かったと聞く。
「ありがとうございます」
他愛も無い会話をしていると、ドンク公爵は別の貴族に声を掛けられ、その場を後にする。
こう言った場合、妻も同行するのが普通かと思うけど、同行しない場合はちょっと裏の話とかがあるんだろうね。
「ふふ。女の格好をしているから驚いたでしょう?」
そう言って苦笑したセクト夫人はどこか寂しそうで、俺はいいえと首を振る。
「とても良くお似合いですよ。夫人はスタイルが良いので、とてもおキレイです」
俺がそう言うと、セクト夫人はホッとしたように笑う。
そこに、父様達が合流してくる。
「セクト殿。お久しぶりですね」
「ええ。シェル殿もレス殿もお元気そうで」
その時にセクト夫人はコリーヌ母様とは同い年だと聞いた。
「コリーヌには私も随分助けられました。今公爵夫人として過ごせているのも、彼女のおかげもあります。彼女のご子息達が、こうやって幸せそうにしていて、私も嬉しいです」
柔らかく微笑むセクト夫人に、俺は頭を下げてお礼を言う。
その後はドンク公爵に連れられ、セクト夫人はその場から離れていった。
「…彼らは公爵家同士の政略結婚だが、セクト殿は昔からドンク公爵に好意があったんだ」
シェル様にそう教えられ、なるほどと頷く。
それなら、ドンク公爵がコリーヌ母様を想っていた事も知っているんだろうな。
政略結婚として好きな男に嫁ぎ、三人も優秀な息子を授かり、ドンク公爵のそばで立派に公爵夫人として振る舞っているが、どこか寂しそうな顔はそのせいだったのだろうか。
うーん。
ドンク公爵も初恋がやっと終わったとか言ってたし、いくら政略結婚とは言えども、今後はもっと夫人に向き合ってくれると良いけど。
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