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122 推しのダンス
しおりを挟む兄様達と会話をした後は、すぐにダンスの時間になった。
すると、白から黒へとお色直しを終えたセルジオ様が、俺達の所にやって来る。
「テオドール殿下。急な事で失礼は承知ですが、ジェレミーの二回目のダンスのお相手をお願い出来ないでしょうか」
「構わないが、何かあったのか?」
ドンク公爵じゃ無かったっけ?
俺がどうしたのかと聞くと、本来欠席と伝えられていたラッカルの親戚が急遽参加になったのだとか。
リーナイト先先代、つまりセルジオ様のお祖父様の妹で、ラッカルでも位の高い神父の夫人らしい。
風邪を拗らせ欠席の予定だったのだか、体調が良くなった事もあり披露宴だけでもと参加してくださったと言う。
「急遽ですが、私とダンスを踊って頂く事になりました。ラッカルからの来賓ですので、ジェレミーのお相手は是非テオドール殿下にお願いしたく」
大叔母がラッカルから来てくださったのに、お相手しない訳にはいかないもんね。
「ああ、それなら喜んで」
「良かったです。一回目のダンスが終わり次第、ドンク公爵がジェレミーをエスコートして参りますので」
テオが快諾すると、セルジオ様はホッとした様にダンスの準備へと戻って行く。
「ああ、ラッカルのジャクリ公爵のセフ婦人だな。ご高齢であるが、信仰や奉仕に熱心な方だ。トール王国より嫁いだとは聞いていたが、リーナイト公爵家だったのだな」
会場のソファに座る品の良い女性を見たテオに、そう教えられる。
金髪碧眼で、どことなくフロル様に似ている気がする!
実家の次期当主の結婚式だもの、しっかり参加したいよね。
「ダンスは参加する予定では無かったのだが、ギルの兄上の晴れ舞台だからな。しっかり役目を果たしてくるよ」
「うん。お願いね」
このダンスは結婚する夫婦が披露した後に、参列者達が自由参加となっているのだが、俺もテオもダンスに参加する予定は無かったんだ。
大好きなジェレミー兄様の為だからね。
「ああ、ダンスが始まるな」
ダンスホールとなった会場に、二組が現れると、大きな拍手が送られる。
まずはセルジオ様とリーカイ様、ジェレミー兄様とドンク公爵だ。
今回はどちらもドンク家になったのだが、三代公爵家であるダイヤ公爵は息子の失態があるから選ばれず、次期国王が決まっておりセルジオ様と親交のある、オール殿下の婚約者であるリーカイ様が選ばれたのだ。
ゆったりとした音楽と共にダンスが始まると、さすが高位貴族のダンスは上手で上品だなと感じた。
ジェレミー兄様もセルジオ様と揃いの黒にお色直ししているが、金の刺繍がとても美しい。
この世界に、ジェレミー兄様も俺も入って行くんだ。
気が引き締まるなと思いつつ、何やら会話を楽しんでいるセルジオ様とリーカイ様を見て、ジェレミー兄様もドンク公爵と何か会話をしているのかなと、こっそり聞き耳を立てる。
『…とても上手だ』
『ありがとうございます』
『君のご両親も、さぞこの晴れ姿を見たかっただろう』
『…はい。それだけが心残りです』
ふんふん。
当たり障りない会話な気もするけど、ドンク公爵はコリーヌ母様を思ってたんだよね。
セルジオ様も分かっていてダンスのお相手にと選んだんだろうけど、心の広さに感服する。
『コリーヌは誰よりも美しく、優しく、聡明であった』
『…はい』
『そして、ゼノン殿は誰よりも強く逞しく。…コリーヌを誰よりも愛し、コリーヌに誰よりも愛されていた』
おお、ゼノン父様の事、認めてたんだね。
この人が、他の貴族を蹴散らしてくれたんだよね。
それにしても、ドンク公爵のマント。
どこかで見た気がするんだけど。
リーカイ様もドンク公爵も、ダンスの為にマントやショールなど装いを変えているのだが、ドンク公爵はいつも黒ずくめに銀の刺繍なに、今回のマントは白色に金と銀の刺繍が細かく入っており、黒いファーが付いている。
「あら、あのドンク公爵のマント。久しぶりに拝見しましたわね」
「ああ。魔物戦争の前は良くお召しになっていたが。今日は三大公爵家の結婚式だからな。今は特別な時にしか着ないのだろう」
周りの貴族の話を聞くに、どうやら昔は良く着ていたみたい。
魔物戦争の前って事は、俺はまだ三歳くらいだし、社交にも出て無かったよね?
どこで見たんだろう…。
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