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109 推しと俺の弱さ
しおりを挟むヤンダークとサーディンが帰宅して、ジックに帝都へ向かってもらうと、俺はテオに執事やメイド達を紹介してもらう。
「こちらは執事長のサンフル。私が幼い頃から勤めてくれていて、今回こちらに来てくれた。メイド長のリンはサンフルの妻だ」
テオが紹介してくれた、揃って黒髪と茶目の夫婦は、元騎士だと分かる程逞しく、背筋も良い。
「サンフルです。分からない事がございましたら、いつでもお呼びください」
「リンです。よろしくお願いいたします。テオドール様は独身貴族を謳歌すると思っておりましたので、美しく強く賢いギル様とのご婚約に、屋敷の者一同大変喜んでおります」
お世辞もあるんだろうけど、皆さんが笑顔で迎え入れてくれているので、俺も笑顔を返す。
先程のやり取りで、俺の黒さも伝わってるかもだけどね。
「ありがとう。少しでも早く皆さんの輪に入れる様努力します。サンフル、明日からサーディンの教育をお任せしたいのですが」
魔術は俺がするけど、執事は執事のルールがあるからね。
「もちろんでございます。サーディンは我々にとって親戚の子供の様な存在でして。夫婦で心配しておりましたが、良い方向へ道ができ安心しました。ギル様の期待に応えられる様、指導して参ります」
それを聞いて安心する。
次は、料理長と料理人達が紹介される。
「こちらは料理長のズークだ。冒険者をしていた所、ケガを負って冒険者を続けられなくなったと聞いて、彼の腕を見込んで頼んだんだ」
テオとギルドでの依頼を一緒にしていた、元Aランクの冒険者だそうで、野宿の時など彼の料理を食べて感動したんだって。
元は貴族の料理人だったんだけど、悪い奴で嫌になって辞めたんだってさ。
「ズークです。まさか皇帝弟殿下とは知らず、驚きましたよ。こうやって雇って頂けたので、家族も養えていますから、感謝しかありませんががね」
そりゃ驚くよね~。
一緒に討伐してた冒険者が、皇族なんだから。
「それにしても、ギル様の考案してくださったモノには感謝しております。保冷箱もですが、柑橘の菓子やソースは料理の幅が広がりましたよ」
「嬉しいです。楽しみにしていますね」
和やかに会話を終え、俺と父様とテオだけでテーブルを囲んでお茶になる。
明日父様は帰り、俺は一週間程滞在する。
その後、ジャメル領やトーレの王都に帰って支度をし、正式に帝国帝都へ婚約の許しを貰いに行くんだ。
執事達も出払い、ここからは俺達だけの会話が始まる。
「…ギル。兄上達の事を黙っていてすまなかった」
父様に頭を下げられるが、俺はちゃんと分かってる。
「頭を上げてください父様。黙っていたのは、私を傷つけない為にでしょう?」
そう言うと、テオは少し驚いた顔をして、父様は悲しそうな顔をする。
「サーディンを見た時に思いました。父と母の脳裏に、同じ黒髪と黒目の私がよぎったのではと。幼い私がそう思って苦しむのを危惧して下さったんでしょう?」
両親の死のきっかけに、自分がなってしまったかもしれない。
今なら、悪いのはサンジカラだし、両親がただ幼い子供を庇ったのだと分かっているので何とか耐えられる。
しかし、幼い私は耐えられただろうか。
前世の記憶が戻ったばかりだとしても、きっと心は大きく傷付いただろう。
「ギル…」
「両親や父様が、私達兄弟を愛してくださっていた事実は何も変わりません。それよりも、サーディンが深く傷付いている事が悲しいです。必ず、彼を立派な執事にします。そして、私も必ず幸せになります。それが私の勤めでしょう?」
声が震えそうになるのを堪えながら、父様に微笑みかけると、父様はそうかと頷いてくれた。
「そうだな。…ジャメルに帰ったら、ホセ達にも話そう」
「はい。二人も分かってくれます」
その後、父様は別室で休み、俺はテオと同じ部屋で休む事になる。
父様がいるのに、と思うかもしれないが、婚約者と結婚前に同衾は良くあるんだよ。
俺も驚いたけどね。
部屋に飾られた美しい花をぼんやりと眺めていたら、テオに後ろから優しく抱きしめられる。
「テオ?」
「…ギル。先代ジュメル伯爵の事を黙っていてすまなかった。君の泣きそうな顔は見ていて辛い」
そのまま体をテオの方へ向けさせられ、今度は前からしっかりと抱きしめられる。
「君の両親が亡くなった時、私はラッカルで戦闘に参加し、若さからの過信で怪我を負っていた。トーレ王国からの救援が無ければ、我が国も危なかっただろう。二人が亡くなった時の事を詳しく聞いたのは、最近になってヤンダークに明かされてからだったが…。君は強く、しっかり受け止めるだろうと話す機会を伺っていたが…」
「テオ…。俺の方こそ、動揺してしまって。あなたの伴侶になるっているのに、まだまだだね」
そう言ってテオの胸に甘えると、とても強く抱きしめられる。
「ギル以上の伴侶なんて現れない。私の思い込みで、君にいつも強がらせてしまうなんて、私の方がまだまだだ。ギル、どうか私と二人の時は感情に素直になって欲しい。どんな君でも受け止めるし、愛している」
「テオ…」
テオの背中にゆっくりと両腕を伸ばし、俺も力強く抱きしめ返す。
俺、最近って言うかずっと、気を張っていたのかもしれない。
鼻の奥がツンとする感じは久しぶりだ。
「俺も、愛してるよテオ」
そう言って、テオの胸に縋り付いた。
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