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108 推しと魔物戦争での痴態
しおりを挟む魔物戦争と呼ばれるスタンピートは、サンジカラの魔術師達によって起こされたものだった。
狙いはラッカルと帝国で、サンジカラはスイレン神への信仰力を弱め、帝国の大いなる力を手にしようとしていたのだ。
その愚かな作戦に乗る貴族もいて、帝国内でも反乱を起こそうとしていた貴族が、サンジカラの手先となった魔物を引き入れていたのだ。
多くの国も参加して討伐に当たっており、その時にスノラリアの公爵の子息に不幸が起きる。
「亡くなったのは、ホートの弟のハインツだった。サンジカラの手先として動いていた帝国の貴族に気が付き、皇帝に進言しようとしていた矢先に殺害された。すぐに貴族は捉えられたのだが、残党までは追う事が出来ずにいた。中々狡賢い貴族も多いからな。いつ寝首を掻かれるか分からないと、兄も気を張っていた中、弟の無念を晴らしたいとホートはこちらに接触して来たのだ」
帝国からしたら国の恥を晒す訳だけど、皇帝を狙う貴族は暴きたい。
ホートに仮の爵位を与え、行動も自由に振る舞いさせたと言う。
「彼には貴族内でも有名なプレイボーイを演じてもらった。彼の悪い噂も、わざと流した物が多い」
まさかネラ殿下が彼に落とされるとは思っていなかったし、ホートもまさか手を出したのがネラ殿下だとは思わなかったみたい。
思った以上にネラ殿下が熱を上げてしまったので、被虐趣味だとか、いろんな貴族の愛人だとか言う噂も流したんだけど、熱が冷めないみたいで。
皇帝からしたら、三男の行動は皇族らしからぬ行為であるから、放っておけとなったんだと。
知らせない方が周りも信じるしね。
「彼の悪い話を流し、それでも紳士的に振る舞えば声を掛けてくる貴族は居るからな。一緒に若い男女を嬲りたい奴などな。そう言った奴らの懐に入り、プロの買春屋に頼み斡旋し、立場の弱い貴族を演じさせもした。そこで情報を集めてもらったのだ」
国ぐるみのハニートラップか。
ホートはそこまでしても、弟の仇を打ちたかったんだと。
「サーディン殿を嫁にと言ったのは?」
「オレント伯爵の子息への扱いの酷さに、皇后が嘆いていたからな。オレント伯爵夫人は皇后のご友人でもあった。その友人の残した子供が不幸にならぬように、一時的に保護しようかと考えたのだ。まぁ、レン殿が動いたからそれも杞憂であったが」
なるほど。
結婚と言う名目で保護しても、お祖父様の隠居について行っても、どちらもサーディンには害は無かった訳だね。
「…もしや、スノラリアでネラ殿下が嫁ぐ予定の方って」
「まぁ、そうなる」
いや、ネラ殿下にも一通り教えてあげれば良いのに。
そう思ったけど、皇族でありながらプレイボーイと呼ばれる貴族に、熱を上げてしまうネラ殿下にお灸を据える意味もあり黙ってるんだと。
俺が呆れていると、ヤンダークは情けない顔をしている。
「…もう少し家族で、話し合う機会があれば良かったのですが」
ヤンダークの悲しそうな声に、サーディンも頷いているが、それは仕方無いよ。
オレント伯爵は幼い息子達を見捨てた様なもんだし、幼いレンは弟を守る為にその時出来る最善を尽くしたんだと思う。
幼いながら弟を守り、そして今は皇城魔術師として地位を築いたのなら、想像以上に強い人なんだと思う。
「うん。サーディン殿の魔力は高いし、これから練習すれば上手く使いこなせるはず。だから、私の執事になって欲しい」
めっちゃ話を飛ばしたと思うでしょ?
こんくらいかっ飛ばさないと、暗い話は変えられないのだ。
「ですが、私は学園もまともに通えておりません…」
自分には役者不足ではと言うサーディンに、ヤンダークはそんな事は無いと言う。
「ギル様。サーディンは帝都の貴族学園に通っていないだけで、私が勉学を教えましたし、平民の学園には通っております。一般常識は普通以上にございますし、魔術も鍛えれば十分お役に立てるはずです」
それなら問題はなさそうだね。
「サーディン殿。私の兄も魔力拒否症で、学園には通えていません。しかし、昔から沢山の本を読み、現在も進んで学んでいます。今後はトール王国三大公爵家の夫人として、新公爵を支えて行く事も決まっています。あなたが学園を出ていないからとバカにする貴族は、私にとっては敵なので気にしないでください」
「ギル、言葉を選びなさい」
敵と言い切った俺を、父様が嗜めるけど本気ですよ。
「ならば味方や仲間では無いと言っておきます。それに、平民の学園は第二皇子であるドレード殿下が力を入れておられるのでしょう?それをバカにすると言う事は王家への冒涜ですよ」
口八丁に言うと、テオもヤンダークは軽く笑う。
まぁ、俺の怒りや先程の話による動揺が少し分かるみたいで、父様はそれ以上は何も言わなかった。
「サーディン。せっかくのレンとの和解と、お主が殻から外に出る機会だ。お受けしてみなさい」
ヤンダークの優しい声に、サーディンは小さく頷くと、俺に向き直り深々と頭を下げる。
「ギル様。不束者ではございますが、誠心誠意仕えさせて頂きます。どうぞサーディンとお呼びください。よろしくお願いいたします」
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